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NF OFFLINE

[ネタバレ有]

2021年6月5日ZeppNagoyaに始まり、同年7月20日ZeppHanedaに終わる、山口一郎によるNF memberに向けたライブツアー。山口一郎はコロナ禍でSNSと向き合い、InstagramLiveを通じて多くのリスナーと対談し、まさしく「#夜を乗りこなす」姿をみせてくれた。彼はその感謝を込めてこのライブツアーを企画したという。臆面もなくその言葉を受け取るなら、これほど感謝が相応することもないだろう。しかし、同じ落胆はすまいと、感極まる前に、静かに祈ったものである。


このライブは、一度延期している。延期発表後、急遽企画されたNF OFFLINE FROM LIVING ROOMは、生配信生演奏のストリーミング公演である。しかし、僕は見れていない。僕のフットワークは風に舞うほど軽いが、それよりも軽いものがあったらしい。SAKANAQUARIUM 光 ONLINEに強く胸打たれただけに、惜しかった。


幸運な僕は、背中に祈りを、頭に頭痛を携えて、Zeppへと向かう。

開演時間も間近に、幸運にも空いていた近くの駐車場に車を停め、歩いて10秒のところに100円/時間安い駐車場をみつけた。そんなものだろうと何とか一憂を回避したが、目に見えるほとんどの駐車場が空いていた。座席が半数とはこういうことか。実体験は大小関係なく新鮮だ。


先まで並ぶ椅子に圧倒されながら、後方端の席に鎮座する。一つ飛ばしの隙間が自分の前に来ることはなく、さらに二人組であった。アリーナツアーの2公演プラチナムを勝ち取ったところで幸運を使い果たしてしまったらしい。

山口一郎が登場し、ワッとあたたまる会場。彼の自宅を再現したセットと小咄で、頭痛も忘れた頃にライブが始まる。


ふと、気持ち悪さが乗り上げてきた。実に2年ぶりのライブ。生歌。生演奏。目を見張る演出の中で、覚えのない緊張が顔出す。頭も痛い。イチロウから目を離してみると、止まっていた。皆が、僕が、止まっていた。夜を乗りこなしていると思っていた僕たちは、まだ呑まれたままだった。それからは必死だった。いつも家で聴いている時はノリノリではないかと、公共交通機関でも動くではないかと、イチロウが踊り方を教えてくれたのではないかと、言い聞かせて、無意識になるまでには、それなりの時間がかかった。

メンバーがアレンジした旧曲たちは、リアレンジCDに収録されていたものも衝撃だったが、その他にも想像していないアレンジばかりでかなり痺れた。例えば、本来岡崎のピアノを基調とした静かな流れの茶柱は、ベースラインを効かせた部分があり、胸が揺れるどころか、ジジジと、電流の波打つ様子がわかるほどに、頭で直接鳴らされているような、かなり強烈だったが、これが全く不快でなかった。比較できるライブ経験は少ないが、想像に難くない恐ろしいこだわりだ。ブラウン管のようなモニターを用いた演出も刺激的だった。

はじめに定番の新宝島、次いで新たな代表曲ともいえる忘れられないのと続き、滑らかな没入と共に「潜っていく」演出を経て、深層から再び浅瀬へと浮かび上がってくる、最近ではお決まりともいえる演出だ。そうして浮かび上がっていくはずの彼らは、ダンサブルなアレンジが流れている中でも、やはり変わらず止まっている。僕と同じく揺れる頭はポツポツとあるだけだ。組み立てられる思考をすぐに崩す。

ライブが終わる。何度高揚したことだろう。間もなく鳴り止まない拍手に包まれた。何も変わらなかった。あたたかかった。僕の見方は、大方間違っていたのだろう。みな、一様に踊っていたのかもしれない。それでもやっぱり、曲の合間に首を回していた彼や、あまり笑っていなかった彼女も、それは難しさがあったのだと思う。それでも、皆があたたかく、気持ちよくいられたのは、確かなことだ。

あたたかい心なら、大抵のことは気にならない。

たとえ、思わぬ出費でグッズが買えなかったとしても。

問題は基本料金ではない。

最大料金は偉大である。

僕の祈りの手は、崇拝のための合掌に為りました。



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