好きな音
同じ曲を何度も聴く。アッパーもダウナーも関係なく、そういう日はそうある日だ。
外出している時は、音量控えめに聴いている。サウンドカードとか、ハイレゾがどうとか、そういうのはあまり知らないけど、聴こえづらい音があっても、iphone付属イヤホンのこの音が好きだから気にならない。控えめなのは、悪目立ちを避けるためだけど、開放型で、ノイズも込み込みだ。
外で真剣に細かい音まで聴いていたら疲れてしまいそうで、ちょっと怖い。ただでさえやる気がないのに。
だから、雑に聴き続ける。そうしていくと自然と集中されて、音が強調されていく。そう感じた頃に、ひとつ音量を下げる。くだらないことを真剣に考えていると、また音量が上がったように感じる。ひとつ音量を下げる。この繰り返しで、電車の中にいない限りは、15分も歩けば、大抵一番小さい音量が丁度良くなっている。
自宅での趣味にさえ集中できない僕が、唯一信頼を預けられる手法だ。預けるとは、他に任せるということであり、僕自身が信頼しているのではなく、つまりは、このイヤホンと音楽に僕の信頼が自由にされている。今のところ心地がいいというだけで、これ以外ではほとんど集中できていないというのも確かである。音楽に言葉を書かされているようで、それはとても素晴らしいことのように感じられるし、自らの意志ではないとすれば、僕の大好きな自己を考えるきっかけにもなって、いいこと尽くしである。ちょっと怖い、とは方言の「こわい」の誤変換であり、真剣に聴く必要はないが、疲れそうなことを考えるのに疲れただけだ。怖いことなど何もない。そんな自分の危うさを怖れるのは、今の僕のすることではない。
音量は零になっている。
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