俺さ、小さい頃川上からどんぶらこしてたらしい

おつかれ～。いや～久々の酒はうまいわ。俺実家に帰ってたからさ。そう、家とかであんま飲まないタイプなんだよね。

あーそうそう。この前さ、ふと自分の小さい頃ってどんなんだったんだろう？って思ってよ。お前らもそういうさ、自分のルーツとか気になる時期なかった？その時期が俺はこの前だったんよ。

んで、岡山に帰ったときにじいちゃんとばあちゃんに聞いてみたのよ。俺どうやって生まれたん？って。ばあちゃんがニコニコしながら話してくれたんよ。昔々あるところに、おじいさんとおばあさんがいましたって。なんなんその始まり方って思うけど、ばあちゃんが自分の若い頃とか話すとき、毎回その話文句になるんだって。お決まりらしいわ。

その日、ばあちゃんは川に洗濯しに行ってたんだって。へーそんな時代かぁって感心してたんだけど、じいちゃんは同じ時間に山に芝刈ってたんだって。じいちゃん山持ってたん？持ち山なの？つーか、芝刈りって結局何の為にするの？未だによくわかんないんだけどさ。

まあ、じいちゃんは置いといてよ。ばあちゃんが川で洗濯してたときに川上の方から大きな桃がどんぶらこしてきたんだって。意味わかんねえじゃん。まず、なんで桃なの？そんで絶対どんぶらこって言うんだわ。なに？どんぶらこって。その桃どうしたの？って聞いたら、なんと持って帰ったんだと。ずーっとなんで？って疑問しか出てこない話なの分かるよ、俺も俺も。

んで、桃がなにやら偶々こっち来たし、なんか大きかったし、おじいちゃんに食べさせたいと思ったんだって。そのまま桃を背中に担いで持って帰ったらしいの。ばあちゃん逞しすぎ。

帰ったらおじいちゃんがもうビックリしちゃって。そらそうよ、洗濯しに行ったら大きい桃担いで帰ってきてんだから。そんな桃着た覚えはないよってな。落語かって。

でも、じいちゃんはビックリしたのは１秒くらいで、２秒後にはよし早速食べようだって。じいちゃん切り替え早すぎ。そうなのよ、俺のじいちゃんアジリティえぐいのよ。年なのに。

さあ桃を切ろうとなったんだけど、なんか包丁じゃ切れなかったらしくて。どうしても食べたかったじいちゃんは裏から鉈をもってきたわけ。鉈ぁ！？と思って。いつ使うんそれ？って感じでさ。でもおじいちゃんが断固として鉈で切るっていうから、ああこうなったおじいちゃんは止まらないなっておばあちゃん諦めたらしい。

んで、いざ桃を切ってみるとよ。これが一番驚いたんだけど、中から俺が出てきたらしいんよ。

えっ、俺桃から生まれたん？？？嘘でしょ？？？

その当時の絵見せてもらったけど、本当に桃から出たっぽくて俺が種まみれだったわ。うん、写真じゃなくて絵ね。まだ射影機とかない時代だから。撮られると魂抜かれるとかいうあるあるももう少し先の話になるね。あとめっちゃ桃臭かったらしい。

俺の両親桃だったわ！！マジかよって感じで。ガチ阿鼻叫喚。うええええええええ！！！？？？って、しばらくご飯が喉を通らなかったなー。俺の名前ってそのまんまだった。それに俺種子植物でした。いや、種子動物だった。俺、オスじゃなくておしべなんだ。そうなるとじいちゃんたちは桃生んだんかなって思うと笑っちゃうけども。何一回川上に俺を捨てに行ってんだよってな。

絵を見てたらさ、ちょっと気になることあってじいちゃんに聞いてみたんよ。なんで、桃を綺麗に外側だけ切ってるん？？どの絵見ても綺麗に外側だけ切れて中を傷つけてないの。どんな技術？って。中まで切ってたら俺も切れちゃってるだろうからさ。

したっけさ、じいちゃんが
「うーん気分？理由とかあんまないなぁ。まっ、お前が無事だったからよかったじゃねぇか！ガハハハハハ。」
って言ってた。あやうく刑法に触れるとこだったわってじいちゃんめっちゃ笑ってたわ。ロジャーみたいに。人一人殺しかけて笑ってた。Dの一族は自分が死ぬときに笑うから。他人が死ぬときには笑わないよ。

でさ、俺は更に気になったわけよ。俺小さい頃どんな子だったの？って。両親が桃の子よ？オオカミに育てられた子みたいな感じでさ、ヒトに育てられた桃の幼少期は気になるじゃん？やんちゃだったのかな？

返ってきた言葉が、優しくて立派な男の子だっただって。いやもうちょい詳しく聞きたいじゃん？具体的になんかエピソードとかないの？って聞いてみたのよ。あと、男の子じゃなくて雄蕊の子な。

そしたらよ、ばあちゃんが言うには、あっという間に大きくなって覚えてないって言うんだよ。本当にあっという間に育ったらしくて。いやいや、もっと詳しく話してくれてもよくね？なんだよ、あっという間って。犬の年の取り方かってな。１年に２歳増えますってな。まあ、俺桃だし。そんな年の取り方するかなってちょっと納得もしたわ。

でも、覚えてないのは仕方かな。じいちゃんもばあちゃんも年だからさ。

あっ、もうこんな時間かー。また今度飲みいこうや。そのときに続き話すわ。話の触りだけ聞いちゃう？

中学くらいのときに、俺が犬と猿と鳥連れて鬼と戦った話なんだけど。