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お夕飯 何を作るか 悟らせない
これは戦いだ。俺とスーパーの店員との。
心理戦とはいついかなる時も油断してはならない。
今日のお夕飯のための戦闘用具を一通りカゴに揃え、立ち向かうはレジの店員さん。今日の敵だ。白髪が目立ち、目尻に皺を寄せ、佇む様はヴィザ翁のようだ。一目でわかった。格が違う。
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現在は20時、お夕飯の買い出しというには遅めの時間だ。
ここで素人なら、店員さんが他の戦士たちとの連続した戦いに疲れ切った時間帯、言わば忙しい時間、もっと言わばイソジカ、戻して忙しい時間である16時頃に戦う。他の戦士たちが多い時間帯に紛れ込み不意をつく。
だが、俺はそんな狡猾な手段は取らない。正面から公然と征く。
そろそろスーパーの就業時間が終わるころ。他の戦士たちとの戦いに明け暮れたとき。俺は紛れ込まない。正々堂々と啖呵を切って戦いを挑む。別の意味で疲れ切った時間帯だがな。
「ヴィザ翁や、油断はするな」という意味を込めて。
よろしくお願いします。
戦いの前には挨拶が必要だ。いくら敵であろうと、いくら憎かろうと相手がいなければ戦いは出来ない。そこには必ず敬意が払われる必要がある。
じゃがいもが一点。キュウリが一点。たまねぎが一点。
敵は淡々と読み上げる。かなりのやり手なようだ。疲れを悟らせず、油断も隙も見当たらない。その後も眉一つ動かさない。
(ポテトサラダか・・・)
干ししいたけ、にんじん、さといも
さといも、と言葉を発した時、初めて敵の身体が微かに揺れた。他の戦士であれば、この微妙な変化を見逃してしまう。だが、俺は逃さなかった。おそらく、敵は察しがついたに違いない。
さやいんげんが一点。
(ほぅ、このラインナップ。確定だ。さては、筑前煮を作るんだな。)
と敵は思うだろう。
しかし、俺はフェイクを入れた。
ーーーリンゴだ。
この巧妙なフェイクに敵は明らかに動揺を隠せなかったようだ。
(リンゴだと??やはりポテサラか??だが、この御方はポテサラにリンゴ入れるタイプなのか?しかし、最初にポテサラと思わせるように食材を誘導したのか。いや、最初にポテサラのラインナップになるようにレジを通したのは私の匙加減でどうにでもなるか。いやいや、この男はその程度、造作もないはずだ。単に果物としてリンゴを入れるような、そんな程度の低い人間ではない。これは、果たして・・・)
リンゴの存在により、最低でも2つまでしか択を絞ることができない。リンゴの使い方、筑前煮を思わせるラインナップ。いくらか手が震えているようにも見える。かなりのダメージらしい。
レジ袋はご利用ですか?
かなり虚ろな声をしている。こちらが袋を持っているのにレジ袋の必要の有無を聞いている。
なるほど、自信が尽きたな?
完全勝利だ。心の内で勝鬨をあげる。勝者にしか許されないポーズ、ガッツポーズを。
こうして今日も一つの戦いを遂げた。
しかし、決して俺の戦いは終わらない。明日からも俺は終わりなき戦いを強いられるだろう。日々経験を積まなければ負けてしまう。油断はいつもしてはいけないのだ。
待ちに待ったお夕飯。俺は先ほど買ったにんじんを細切りにしていく。そして、実家から送られて幾らか貯まったツナ缶を開ける。
フライパンでにんじんと水を加えしんなりするまで煮た後、油を切ったツナ、みりん、しょうゆ、砂糖を加え中火で煮詰める。
これで福島県いわき市の好きな給食ランキング堂々一位である「ツナご飯」の具の完成だ。
https://www.city.iwaki.lg.jp/www/contents/1001000004667/simple/tuna.pdf
↑給食センターが出してくれているレシピです!思い出の味で、美味しいのでぜひ。
ん?他の具材はどうしたのか?ポテサラを作るんじゃないのか?筑前煮を作るんじゃないのか?リンゴはどうした??
最初から全部、ニンジンを買うためのフェイクだよ。
だってニンジンだけ買ったらツナご飯作るじゃんこいつって悟られちゃうでしょ?