気づかせてくれる人
髪型のあり方は洋服より、その人の印象を決定づける。
吉本ばななさんが日記で語っているのを読んだ時に「ほんとうだ」と思った。
にも関わらず、
大きな引っ越しをしてから、また通いたいと思える美容室に出会えなかったことも大きいけれど、髪型というものに特に関心を持たなくなって久しい。
扱いやすく、整っていればよい。
それが楽で、いつしかそういうものになっていた。
しかしながら、気に入らないのは困るし、落とし所が見つからないなぁと思っていた。
「ファッション」
「おしゃれ」
というフィルターを通すだけで、目の前の人から
見た目以上のたくさんのことが伝わってくる。
例えば生活スタイルや好き嫌い、価値観とか。口に出さなくても、感じ取れること。
身体のスペシャリストがある程度からだを見れば、
その人の生活習慣や身体の負ってきた歴史、感情の在り様がわかるのと似ているかもしれない。
そういう事が面白いし、おしゃれさや素敵さを感じると、相手に服のことを色々聞いてしまう。
ファッションとヘアスタイルはすごく関係していると理解したのはベリーショートにした時。私の希望ではなく美容師さんにススメられて切ってみたら、持っていたほとんどの服が似合わなくなって驚いた。
その時は、髪型の与えるとがった印象に対して服が普通すぎたのだ。
洋服については色々変遷しながらも楽しめるのに、ヘアスタイルは結局のところどうしたいのかよくわからない。重要なんだとわかりつつも関心が持てないその理由に、ふいに理解が訪れた。
友人の紹介の美容師さんにカットをしてもらいながらの会話で、ヘアスタイルに関して初めて心を動かされることになった。
人にどう見てもらいたいかor自分をどう見せたいか。
ヘアスタイルはほとんどの場合、二つのどちらかを理由にお客さんに求められるという。
流行に乗ることと、流行を作ること。それが美容師にもまた求めらる。
そのことが当たり前のこの業界だが、それはこの職業の本質から外れている、と、その美容師さんは語った。
髪型とは身体の一部で、多くの人は一度決まったそのヘアスタイルの自分と、2-3ヶ月は毎日向き合うことになる。
気に入っていなくても、洋服のように一瞬で取り替えたりはできない。
ファッションの一部であり、身体の一部。鏡で日に何度も向き合う。
彼は、そのことの責任を全うするために、お客さん一人一人を理解することにつとめていた。
他者の目線にうつる自分をどう先回りして表現するか。
ヘアスタイルをどうしたいか伝える時に、無意識に含まれていたその要素。
そのことがいつしか意味を持たなくなり(私の場合は)、ヘアスタイルに関心が無かったのだとわかった。
私が求めているのは、服にしてもヘアスタイルにしても「心地よさ」で、
でもそれがどんなヘアスタイルなのかさっぱりわからなかったので、今まで伝えようがなかった、ということも、彼と話していてよくわかった。
出来上がりは、「似合う」「ファッショナブル」を組み込んだ上で、内面にある大切なところを後押ししてくれるようなカットを作り上げてくれて。
ヘアスタイルをお守りのように感じたのは、初めてだった。
どんな仕事も、とどいた先にいる誰かにとって、かけがえのないものになりえること。「便利」「必要」「素敵」以上の何かを感じられるものに、どこか安心を覚えるものなんだなと、嬉しい出会いに感謝した。