⑪ 失恋
なぜか
祖母が浮かんだ
お嬢様で育ったのに、遠くに嫁に来て数年で旦那さんは戦死。享年27才。
第二次世界大戦、招集されてから長男が産まれて、今なら車で二時間ほどの場所まで一旦戻ってきたけど、数日後の南方への出征のため、自宅までは戻れなかった。
産後間もない祖母は会いに行けるはずもなく、代わりに妹さんが会いに行った。
それが、私の祖父の最後の消息。そのまま、遺骨も戻らない。
気の強い祖母は、自由奔放な姑とぶつかりながら長女と長男を育て、一旦家を出たが、周りの手助けや説得で、自分の長男に家督を継がせることが出来た。
お嬢様育ちで料理は下手だった。やたら厳しくて、包丁を振り回して怒られたことがある。どちらかというと嫌いだった。
なのに、なぜか祖母が浮かんだ。
祖母は、祖父のいくつ下だったんだろう。
祖父が27才でいなくなってしまって、寂しくなかったんだろうか。
そんなこと、思う余裕なんてなく必死に生きたのだろうか。
バカな孫の、バカな失恋話を聞いて欲しかった。
失恋とはちがうけど
祖母の辛さを知りたかった
その辛さの中に、私と同じ感情があるはずだと思った
その同じ痛みのところを、共有したかった
比べものにならない別れだけど
大きな別れの悲しみが、私の小さな悲しみを、きっと包んでくれると思った
誰かに聞いて欲しかった
誰かと共有したかった
そうじゃないと、虚しさで死んでしまいそうだった
日常は歯車が外れたようにカラカラ回り
私は何の手応えもなく笑ったりしゃべったりしていた
誰かに、言える恋なら良かったのに
誰にも言えなかった
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