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さえずり(短編集)第6話

Mother(SF)

 銀色の宙船スターシップNoahが大気圏に突入する。私達人類は安住の星を求め長い旅をしてきた。
 ようやく適合する未開の星を見つけ、着陸しようとした矢先。老朽化した船は大気圏突入の衝撃に耐え切れず、機体の一部が損壊した。

 私は艦長マザー。船の乗組員こどもたちべる存在。私には責任がある。私を先に逃がそうとする彼らに命令する。

 総員速やかに脱出せよ。

 地上での繁殖が可能なように、不老処置を施された肉体は若い姿を保っている。見た目は少女と変わらない私に、未来への希望を託された他の少年少女達が涙ながらに頷く。私は操舵室に残り、コンソールパネルを開いた。全員の1人用脱出ポッドが宇宙空間に射出されていくのを見守る。

 幾つかのポッドに不具合が見つかったのは、ほんの数時間前のこと。修理は間に合わない。私は即座に覚悟を決めた。この船、Noahと運命を共にすることを。

「Noah、もう全員脱出した?」
【いいえ】
「なんですって?」
【まだ1人残っています】
「私以外に?」
【はい】
「誰?」
【セト】
「あの馬鹿」

 思わず毒づいた時、操舵室の扉が開いて誰かが中に入って来た。黒髪を短く刈った背の高い少年の姿を認め、不覚にも胸が高鳴った。生意気そうに口を尖らせた彼が、私を見て馬鹿にしたように嗤う。

「馬鹿はどっちだよ」
「セト!早く脱出しなさいと言ったでしょう。命令に背くの?」
「従えません」
「今ならまだ間に合うから早く行きなさい」
「嫌だ」

 精一杯の圧を込めて睨む私の視線を軽く躱したセトは、弾むように近づいてくる。既に人工重力発生装置は壊れてしまったのだろう。セトはその長く逞しい腕を伸ばし、軽く浮き上がった私の体を抱き締めた。服で温度管理はされているはずなのに、熱いくらいの体温が私を包む。固まる私の耳元でセトが囁いた。

「全部分かってるよ。アズラ」

 私がマザーに選ばれる前から一緒に過ごしてきた、大切な友達。よく喧嘩もしたけど、お互いが一番の理解者だった。見上げた黒い瞳の中に、青い星の光と、私が映っている。

「じゃあ、もう話さないで」
「いえす、マザー」

 星が近づいてくる。絶対に離さない、と呟いた彼の胸に頬を預けながら、私は笑って目を閉じた。

第7話 https://note.com/namacochan55/n/n72bac3c1b7ae?sub_rt=share_pw

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