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川面に煌めく想いは、昇る太陽とともに。
ここの土手に上がってのぞむ景色が、好きだった。
荒川に架かる環七の鹿浜橋から下流へ、尾久橋通りの扇大橋あたりまで。北と東に雄大な川面、背後は池袋のサンシャインも軽く見通せ、天気が良ければ富士も見えた。その橋をさらに越えると土手近くまで高層マンションが迫り、眺めが遮られて息苦しい。ならばいっそ、西新井橋も越えて千住元町の方まで行くのも良い。土手下の海抜が下がるので、相対的に見晴らしが良くなる。水害的には極めてリスクの高い地域だが。
まだ日の昇らぬ頃、あるいは日が傾きかけた頃、そのあたりの土手まで自転車を駆り、空と街をぼんやり眺めるのが好きだった。
今日は前者。家を発ったのは薄明の中。
◇
父が、世を去った。
闘病の果ての、夏の盛り。大地を熱く照らす太陽に迎えられるがごとく、その日それが地平線から顔を出すのと一緒に、高く高く昇って行った。
◇
昨夜も熱帯夜だった。夜ごとまとわりつく湿気は、自転車で切る風とともに少し剥がれていく気がしたが、「間に合わないかも」とよぎった少しの焦りがペダルを漕ぐ脚に力を入れ、汗がにじむ。
川の向こうにそびえる首都高中央環状線が明るく見え始める頃、自転車は江北橋のひとつ上流に架かる五色桜大橋をくぐろうとしていた。
江北ジャンクションの手前で荒川に架かる、首都高の内回りを上層、外回りを下層とした、二層構造の珍しい橋だ。道路の上側に跨がるアーチからX字状にケーブルが張られた、ニールセンローゼ橋という構造。巨大物恐怖症の気がある私は、橋の威容に気圧されぬよう自転車を加速させ、下をくぐり抜けていく。
右にゆるやかにカーブする土手を少し進み、扇大橋との間で自転車を停めると、少し時間が経つのを待った。日が昇るこの時間は、ちょうどX年前に父が旅立ったとき。いなくなってからX年、この1年もひとまず無事に、息災に、みんなでがんばったよ。今日も暑くなりそうだ。
じゃあ、またね。
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