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架空

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私の頭の中に存在するもの
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2021年5月の記事一覧

蛙の海に二人、一人

「貴方に助けてもらったあの日を私は決して忘れません。
あの金属の箱に閉じこもり、想像した死の恐怖、そして扉を開いて貴方一人の姿を目にした時の安堵を、今でも鮮明に思い出すことができます。
そして私の途方もない安堵を差し引いたとしても、貴方が私の為に疑似餌を使ってくれたという行為は、絶望的な現状の中で、感謝しきれない程に利他的なものでした。
貴方は優しさを私は尊敬していました。貴方の賢さを私は尊敬して

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鳥の瞰る景色

木々が等間隔に立ち並ぶこの森には、人工的な趣があった。原生生物の気配はその不自然さを覆い隠そうとしていたが、木々を具に観察すれば、注目すべき点は明らかだった。目に入る全ての木々は死んでいた。黒ずみ、乾ききった表面に軽く手を触れれば、外皮は容易く剥がれ落ちる。内側の組織を垣間見たとしても、水の通っている様子は無い。頭上を見上げると、葉は一つもなく、空へ続く視界を遮るのは鋭利な枝ばかりだ。落葉樹の類と

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