英語学習者としての三浦春馬さん
West EndでKillian DonnellyさんとMatt Henryさんがチャーリーとローラを演じるキンキーブーツを観劇して以来、キンキーブーツに夢中になった。その作品の日本公演が決まり、三浦春馬さんのローラの美しさに息をのんだのが、彼についてもっと知りたいと思ったきっかけだ。
映像作品を求めて、三浦春馬さんと佐藤健さんがニューヨークを散策する様子を収めたDVD、「HT~N.Y.の中心で、鍋をつつく~」を手にしたのは数年前になる。英語でコミュニケーションをとりたいと意欲を燃やしていたのは佐藤健さんの方だったが、その映像には、Brooklyn Bridgeで通行人に ”Excuse me."と話しかけることさえ緊張する姿があった。しかし、"What time is it now?"を「掘った芋いじくるなだっけ」、「いや、掘った芋いじるなだよ」とのやり取りや、車中で行われた英語での質問に答えられないこと、そして英語でアドバイスをもらいながらも手探りで演劇を学ぶ中にも、彼らのめげないひたむきな姿勢が随所に表れていた。英語が話せないことを笑いに繋げて消費してしまうのではなく、もっとこうしていきたいという思いが感じられるような映像に救われた。Broadwayのダンスセンターやスタジオなど、観光では行けない場所や、私が2005年にWest Endで観た"Billy Elliot"を観劇する様子もあり、内容を知っているのに、いつ観てもわくわくを与えてくれるDVDである。
それから一年ほどの時を経て、第二弾「HT~赤道の真下で、鍋をつつく~」が発売されている。私は第一弾と同時に購入しているので、その一年の月日で彼らがどのような努力をしたのかわからないまま続けて視聴して驚いた。そこには、ニューヨークで"Excuse me."と話しかけることに躊躇していた二人が、マレーシアで積極的にコミュニケーションをとって楽しむ姿があった。"delicious","so good"など、反応が自然と英語で出てくる。"How many?"や"How old are you?"といった質問もどんどん出てくる。ニューヨークでは案内されているというイメージが強かったが、マレーシアではぐいぐいと自ら進んで現地の方と交流し、目の前にあるものを享受している印象だ。小学校での交流後に、涙を流して別れを惜しむ子がいたくらいだ。ニューヨークで鍋をつついてからの英語に対する意識や取り組みについて知りたいと思った。
二人はドラマやCMで引っ張りだこの人気者であったため、本当に寸暇を惜しんで英語と触れ合う努力をされたのだと思う。その後、三浦春馬さんが進撃の巨人のワールドプレミアでロサンゼルスを訪れた時に、インタビュアーから質問を受け、通訳者がそれを日本語に訳して三浦さんに伝えたが、その時に英語で、"It gave me a lot of pressure."と答えたことが私にはとても嬉しく感じられた。アメリカを訪れているのだから、その国の言葉で話したいという思いがあったのだろう。しかしそのインタビュアーは即座に"What's that?"と聞き返してしまった。三浦さんの英語はclearだし十分に聞き取れるものであった。"Pardon?"ではなく"What's that?"とはなんとも辛い。普通ならば赤面するような恥ずかしさを覚えるところだが、三浦さんは違った。即座に日本語に切り替えて思いを伝えたのだ。自分の発信した英語が伝わらなかったことへの羞恥心をすぐに取り払って、映画について語り始めたのだ。英語学習者が恐れる場面、それも世界中に流れる映像の中で、三浦さんは本当によく切り抜けたと思う。
ロンドンに2か月ほど留学をされた後に、「日本のことを知らないから、他国の人のように語れなかった」ということをおっしゃられたことが、新井リオさんの英語学習法へとつながっていったのだと推察する。英語学習用の参考書や問題集には、普段の生活で自分が語りたいものが溢れているわけではない。自分が言いたいことを日本語で書き出し、英語に直し、英語母語話者に確認してもらうという手順を踏んでいたのが、Instagramだ。Instagramを始められてからは、英語で記すこともあり、その時には英語母語話者に英文を確認してもらってから投稿していたようだが、忙しく活動する中でも、海外での活動も視野に入れ、英語学習を継続していた様子がうかがえる。
三浦春馬さんが英語を話している場面を目にする機会はそう多くはないが、城田優さんがRamin Karimlooさんに三浦春馬さんを紹介したり、キンキーブーツ演出家のJerry Mitchellさんと交流があったりと、活動が広がっていくような高揚感があった。中でも今年1月に行われたCynthia ErivoさんとMatthew Morrisonさんとのミュージカルコンサートは、彼の活躍の場を一気に世界に繋げる期待感もあった。英語の歌1曲の発音を確認するのに5時間かかるとインタビューで答えていたが、1月にあった3人へのインタビューでは、三浦さんは自分の思いを英語で伝えている。そして2人の返事に対し、自然な反応を示す。必死に英語を話そうとしているのではなく、伝えたいことがあって、そして相手が伝えようとしていることを受け止めている。19歳の時に「掘った芋いじくるな」と言っていた彼が、10年の時を経て、自分の伝えたいことを英語で発信しているのだ。
思い返すと、20代前半ではバラエティ番組で、ものまねを披露することがよくあった。英語学習は真似ることが大切だといわれる。聞いてすぐさま再現するというのは、高橋優さんとの「ルポルタージュ」でも発揮されていた。一度聞いただけで、覚えてしまうその様は、その場にいた誰からも賞賛されていた。1st シングルのFight for your heartやYouのレコーディングでは、英詞部分のリンキングを確認する様子が映っていた。彼自身の才能とも言うべきところだろうが、ストイックと言われ続けたその姿勢は、英語学習にも通じていたと思われる。目指す目標があり、そこに向けて努力を惜しまない取り組みと姿勢が三浦春馬さんを常に高めてきた。彼の軌跡を辿ることで、気持ちを落ち着けようとしているが、辿れば辿るほどに、三浦春馬さんが恋しくて仕方がない。美しくてパワフルなローラに会いたくてたまらない。
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