「酔いどれ句会」鳴兎小吉投句集(於:BBQくにむら)
第175回(2023.9.4)
兼題「蜻蛉」
赤レンガ倉庫に夕陽赤とんぼ
夕とんぼ黄泉のとばりの向こうへと
新盆や家族のかたち変わりつつ
男声の御詠歌のせて盆の風
縄文の合掌土偶魂迎 ※たまむかへ
第174回(2023.8.7)
兼題「木、林、森」(どれでも可)
火葬場にワイシャツの子ら木下闇 ※こしたやみ
生と死のはざま老衰の極暑
八月や鬼籍に入りし人の顔
禿頭の幼馴染と生ビール
白髪のテニスダブルス青葉風
第173回(2023.7.3)
兼題「こい一切」(来い、恋、故意、鯉、など)
万緑の濃い影に吸い込まれそう
さへづりて森いっぱいに恋のうた
ぶらんこを漕いでも漕いでも元戻る
「それでいいよ」と頷き揺れる亜麻の花
郭公やベッドタウンに残る森
第172回(2023.6.5)
兼題「鉱物一切」
夕凪や子を授からずルビー婚
「生きてるんだからいいさ」ICUに鯉のぼり
リラ冷や夫婦で通う整骨院
水曜の有給休暇空は初夏
大夕焼僕らはみんな詰んでいる
第171回(2023.5.1)
兼題「動」
電動自転車を卒寿で買った父の春
不動明王の叱咤春眠果つ
紅梅やデイサービスの誕生会
母と子の相合い傘や木の芽雨
母と児の進まぬ散歩クロッカス第170回(2023.4.3)
兼題「立」
鳶職の立つ足場から雪解風
千手観音立像黙しておぼろ ※りゅうぞう
折りたたみ傘は水色雪解雨
春光や石巻から牡蠣届く
みほとけのひかりみちたり春の空
第169回(2023.3.6)
兼題「絵」
淡雪や絵本「パパラギ」そっと閉じ
雪晴に聳ゆガラスのピラミッド
ジュエリーアイス酷寒からの贈りもの
サンピラー雪の浄土を祀りけり
春めくや介護の後のホットラテ
第168回(2023.2.6)
兼題「千」
新千歳空港離陸雪煙
ひとひらの雪のひととき光りけり
深雪晴日曜午後のジャズ・ピアノ ※みゆきばれ
春節やキャリーケースの繁体字 ※はんたいじ
冬ざれて交通誘導警備員
第167回(2023.1.9)
兼題「冬の食べ物飲み物一切」
夫婦して自宅療養薬喰
陽性となりゆっくりと蜜柑むく
鯨汁ずうずう弁の鼻濁音
独酌につまむ冬至南瓜二片
牡蠣届く大震災も兎年
第166回(2022.12.5)
兼題「瀬」
冬怒濤奥尻遥か瀬棚港
しぐるるや卒寿の父の嗄れ声 *しゃがれ
冬日さす介護ベッドの背を上げて
冬の虹父の介護の帰り道
冬うららハローワークへ離職票
第165回(2022.11.7)
兼題「晴」
秋晴やエラーした球追う外野
日本晴芒すっくと立ちにけり
「死んだら青空になるんだ」秋高し
ひとつぶにいのちありけりななかまど
樹木葬のちらし手に取り秋の虹
第164回(2022.10.3)
兼題「鮭」
インディアン水車跳ね飛ぶ鮭の眼にもみぢ
あるべきようは山色づきて鮭還る
秋爽や土曜の朝のストレッチ
秋雨や整体院の問診票
秋浜の乾いた砂に名前描く
第163回(2022.9.5)
兼題「霧」
川霧を抜けて空知野札沼線
セピア色の結婚写真吾亦紅 *われもこう
スマホから般若心経終戦忌
六十点で人生オッケー秋の空
そこここに老老介護霧月夜
第162回(2022.8.1)
兼題「満」
女満別空港離陸雲の峰
満開のラベンダー畑や夏天 ※かてん
そよかぜにゆらゆらゆらら亜麻の花
桜桃の箱詰め終えて津軽弁
松島のけぶる小島や戻り梅雨
第161回(2022.7.4)
兼題「薔薇」
薔薇園の女児大輪のアップリケ
道東道夏大空を追いかけて
夕焼の啄木歌碑よ釧路港
ふるさとの潮の香かすか浅蜊蒸す
師を偲ぶ白髪禿頭冷し酒 *とくとう
第160回(2022.6.6)
兼題「新緑」
新緑よ高校二年生の頃
新緑や付かず離れず初デート
新緑やほどよき距離の老夫婦
リラの香をマスクはずして風は初夏
初夏の空足取り軽くリラの道
第159回(2022.5.2)
兼題「洋」
雪解風石狩川河口洋洋
春暁の凪を太平洋フェリー
ふきのとうがひっそりすべてをみつめてる
春風はどこのだれにもあたたかい
木の芽風を追いかけまわしドッグラン
第158回(2022.4.4)
兼題「線」
花咲線海へ大地へ雪解光 *ゆきげこう
残雪光新駅に沸く札沼線 *ざんせつこう
うららかや意のままならぬそのままに
春分やあの世この世を生きる爺
春の地震己が立ち位置確かむる *はるのなゐ
第157回(2022.3.7)
兼題「息」
流氷に乗りてひと息尾白鷲
黙々と除雪鉄道保線員
ホワイトアウト時空すべてを飲み込んで
我もまたいつか光に風光る
豪雪はやがて豊かな水源に
第156回(2022.2.7)
兼題「古」
寒稽古強くなるのは負けたあと
湯豆腐や古女房の手の温み
雪晴を深紅のダウンジャケットで
雪晴や生きづらかった日々越えて
制服に制帽の美女出初式
第155回(2022.1.10)
兼題「心」
暴風雪警報風神の嚏 ※くさめ
冬銀河心にいつも大宇宙
雪しんしん心にずしり雪しんしん
冬至来て心がちょっと軽くなり
遅番の帰路は静けき大晦日
第154回(2021.12.6)
兼題「行」
行く秋や翳る百年記念塔 ※かげる
内省があまりに辛く落ち葉踏む
落ち葉踏むひたひたやってくる孤独
憂国忌行き交う人のなき路傍
ぬかるみ踏むこの一歩から冬ざるる
第153回(2021.11.1)
兼題「声」
秋声や禍福がそっと忍び寄る
虫の声諸行無常を囃し立て
秋の薔薇ひと言多い伯母と叔母
血涙よ漆紅葉に降る雨よ
デイサービス楽しカーディガンは萌黄色
第152回(2021.10.4)
兼題「秋刀魚」
大空を水揚げされて見た秋刀魚
九・一一「醒めよ迷ひの夢さめよ」
秋爽や瑠璃色の風吹く予感
お散歩カーに園児七人ななかまど
二人とも杖を右手に萩の寺
第151回(2021.9.6)
兼題「撫子」
撫子や和装の女性メダリスト
哀しみを虚空に放つ牡鹿の眼
車椅子ラグビー上腕二頭筋の夏
白木槿老父老母の御襁褓替え ※おむつ
五輪閉会静静と長崎忌
第150回(2021.8.2)
兼題「端」
積丹の岬端碧き夏の海 ※こうたん
冥界を我知り顔の青葉木菟 ※アオバズク
白日傘ラベンダーより亜麻が好き
生まれ死ぬ生きて死にゆく蝉時雨
蝉時雨ほんとうのこと隠しきる
第149回(2021.7.12)
兼題「天」
囀は天が私を祝う歌
天帝もつい溜息か遠き雷
雲の峰鳶天空に点となる
父の日か産まれざる子のありにけり
遠雷が「メメント・モリ」とそっと云ひ ※「死を忘るなかれ」
第148回(2021.6.7)
兼題「石」
薫風は海へ釜石石巻
ふと見ればすでに葉桜石巻
郭公よだって仕方ないじゃない
二歳女児はパパが大好き花りんご
すずらんをコップに活けてステイホーム
第147回(2021.5.3)
兼題「地」
地を這うように生きてても春に逢う
天と地を繋ぐは吾と舞雲雀
ひっそりと地湧の菩薩ふきのたう
?き出しの大地容赦なき春塵
スズメ目アトリ科鳴き交し新緑
第146回(2021.4.5)
兼題「今」
今を生きる九十三歳梅芽吹く
熱々の今川焼と雪解道
延命十句観音経春光の避難所
三・一一その時のこと皆言える
聖火ランナーの硬き表情陸奥は春
第145回(2021.3.1)
兼題「発」
緊急事態宣言発出寒禽かしまし
発育の遅き初孫春浅し
紅鶸の群白樺林の余寒 ※ベニヒワ
淡雪や十年経ての大余震
大鷲の瞳の中の国後島
第144回(2021.2.1)
兼題「九」
マント干す北八西九にありし寮
九字切らんコロナ禍猛き寒の入
大晦日客なき店に聴く第九
寒雷はホワイトアウトの号砲
銀山猿子の眼ナナカマドの実 ※ギンザンマシコ
第143回(2021.1.4)
兼題「世」
世辞べんちゃらの不得手な祖父の嚏かな ※くさめ
コロナ禍の深む世情よ注連飾る ※しめかざる
柚子湯してなんまんだぶなんまんだぶ
発熱すステイホームの日向ぼこ
煤払ふナウマンゾウの牙太し
第142回(2020.12.7)
兼題「女」および「女を含む漢字」一切
板さんがふと津軽弁鮟鱇鍋
釈迦如来坐す本堂を小春風
女川は終着駅よ冬の虹
白露はニッポノサウルスの泪
木枯はティラノサウルスの嘆息
第141回(2020.11.2)
兼題「糸」および「糸を含む漢字」一切
紅葉かつ散る禅寺の竹箒 ※もみじ
筆を擱く写経道場秋気澄む ※ふでをおく
秋夕焼ゆらりゆらゆら蜘蛛の糸 ※あきゆやけ
雪虫はこの世あの世を往き来する
秋天へ男女二列で逆上がり
第140回(2020.10.5)
兼題「長」
円空仏木喰仏の笑む夜長 ※もくじきぶつ
野仏は観音菩薩曼珠沙華 ※のぼとけ
邯鄲や老父幾度も同じ問ひ
ムックリの残響果てて夜長なり
旭岳初冠雪と聴く夜長
第139回(2020.9.7)
兼題「休」
ジム休む土曜の午後の缶ビール
ワインディングロード夏鶯とひと休み
雨音に悲哀のリズム原爆忌
敗戦忌の雨まとわりつく湿気
老鶯や色褪せてゐる偉人像 ※ろうおう
第138回(2020.8.3)
兼題「蜜」
当別の蜜蜂亜麻の花が好き
蜜豆や従兄弟と遊び疲れ果て
水蜜桃母の実家の縁側で
赤啄木鳥の雛の声消ゆ松古木 ※アカゲラ
雲の峰百連凧に祈りのせ
第137回(2020.7.6)
兼題「傘」
日傘さす刺繍マスクの麗夫人
ラベンダー畑の中へ白日傘
万緑やアイヌ・コタンの遺跡群
ハシブトに襲われ逃げる夏日かな
蝦夷仙入の「じょっぴんかけたか」自粛の夜
第136回(2020.6.8)
兼題「時」
更衣「そんな時代もあったねと」
苺をふたつステイホームの午後三時
鶯や演習場の砲弾音
スケボーの女児は疾走鳴く青鵐 ※アオジ
黄鶲や幼児のシャツの真っ黄色 ※キビタキ
第135回(2020.5.11)
兼題「笛」
春天のそこに鳶笛モエレ山
ソーシャル・ディスタンシング鷺はぽつんと春の沼
囀りて億千年をリフレイン
たんぽぽや犬のリードは伸びきって
陽炎や三・一一ウイルス禍
第134回(2020.4.6)
兼題「損」
春分の日ぞ損得は半分こ
春風や大漁旗縫ひリアス線
母眠る救急病棟梅白し
精霊満つ仙台湾の春うらら
龍天に昇りて碧し仙台湾 ※あおし
第133回(2020.3.2)
兼題「卒業」
啓蟄や自己欺瞞からの卒業
向う見ずに出でし故郷や卒業歌
ホームに轟くストームの唄卒業期
ぬるき世の風にふわりとぼたん雪
マスクの群衆令和天皇誕生日
第132回(2020.2.3)
兼題「夢」
氷瀑の雄滝雌滝のつながりぬ
露天湯の眼下寒暁の松島
冬青空はわたし本当のわたし
冬休み帳夢はユンボの運転手
ホワイトアウト夢よ現よ実存よ
第131回(2020.1.6)
兼題「音」、または自由題
冬青空キャッチボールの捕球音
雪狂ふ夜は風音のシンフォニー ※よはかざおとの
凍空や巨漢相撃つタックル音
雪しんしん音絶えし夜の垂り雪 ※しずりゆき
我が干支の二度目の年の果てにけり
第130回(2019.12.2)
兼題「みち」一切 (道、路、など)
雪ひとひらの生まれて消ゆる幾億回
マインドフルネス本当の自分よ落葉径 ※おちばみち
枯木道の一隅ななかまどの実
返り咲くラベンダー知る人ぞなき
手料理を妻へ勤労感謝の日
第129回(2019.11.4)
兼題「露」
露のしずく落ちた宇宙がひとつなくなった
ブラックホールを孕みて光る露の玉
紅葉かつ散る名刹の写経会
露けしや煩悩無尽誓願断 ※せいがんだん
天高し仏道無上誓願成 ※せいがんじょう
第128回(2019.10.7)
兼題「色の名、一切 (赤、青、黄色など)」
万緑やラガーマンの上腕筋
秋分や白黒つかぬことばかり
痩せ狐の赤目野の闇吾の闇
名月に白切り通す私です
秋天へ放物線の楕円球
第127回(2019.9.2)
兼題「知」
戦争を知らぬ子として敗戦忌
還暦のつたなき知恵や晩夏光
蛍火や前世来世を知らぬ吾
盆の月我が魂の往きどころ
ラジオ体操じじばばの数子らの倍
第126回(2019.8.5)
兼題「文」
祖父は文盲潮焼けの皺また皺
滝壺は虚無深淵へ入るところ
夏の宵子狐吾を見据える眼
炎昼や切り終へて爪ぢっと見る
ラベンダー畑へふわり揚羽蝶
第125回(2019.7.1)
兼題「舟」もしくはそれに類するもの一切
二拍子を刻む艪の音舟遊び
終電に船漕ぎ父の日は果つる
夏波や進水船の大漁旗
新緑やばあばが曾孫のぞきこむ
程よき不幸は程よき夏の雨
第124回(2019.6.3)
兼題「和」
聖五月令和初日のブーケトス
日和山神社大海原は凪ぎて夏
倅ほどの年の和尚や新樹光
リラ冷やひっそり開拓母の像
鳶職のラジオ体操五月晴
第123回(2019.5.6)
兼題「金」
薫風ぞ笑えよ金剛力士像
中尊寺金色堂を牡丹雪
カベルネ・ソーヴィニヨン焼いた目刺のはらわたと
緑のおばさんへ皆でお辞儀の一年生
還暦や立ちすくむほど夕焼けて
第122回(H31.4.1)
兼題「美」
陽炎や往時知りたる美唄駅
御詠歌の老女の美声彼岸講
無死の死と無生の生と春うらら
秘してこそ美学美意識月おぼろ
春分や半々ずつの躁と鬱
第121回(H31.3.4)
兼題「平」
平泉の夢東北の夢春吹雪
極寒や純白極む地平線
凍星や逆縁の子の一周忌 ※いてぼし
被災地に氷柱の涙落ちにけり
吾は帰宅難民還る雪夜の先の闇
第120回(H31.2.4)
兼題「十」
投句なし
第119回(H31.1.7)
兼題「開」
投句なし
第118回(H30.12.3)
兼題「走」
落葉走る音 冬物語序章
枯野走る熊と見まがふ牡鹿かな
初雪や走るや走る子ら走る
逆光の牡鹿動かじ冬夕焼 ※ふゆゆやけ
夕暮れの枯野牡鹿の白き角
第117回(H30.11.5)
兼題「悪」
投句なし
第116回(H30.10.1)
兼題「実」
両手一杯の木の実を母に差し出す子
木の実降る森の開拓百余年
蜘蛛の巣のとんぼ天空睨みをる
満月は黄泉の国への這入り口
台風よ地震よ大地よ青空よ
第115回(H30.9.3)
兼題「化」
投句なし
第114回(H30.8.6)
兼題「祈」
炎天や隠れ祈りし天主堂
祈願終ふ伽藍の庭を黒揚羽
七夕の短冊あふれ出る祈り
横たふて天空近きお花畑 ※おはなばた
双子して蜘蛛の巣越しのにらめっこ
第113回(H30.7.2)
兼題「至」
投句なし
第112回(H30.6.4)
兼題「雲」
雲水の立つ交差点風薫る
存在の不安入道雲のちぎれ雲
恋人の聖地の鐘や雲の峰
夕蝉や眼下厚田の浜は凪
リラ冷や華美に過ぎたる念仏堂
第111回(H30.5.7)
兼題「残雪」※訓読み、読み下しも可。ゆきのこる、のこりゆき等。
投句なし
第110回(H30.4.2)
兼題「丸」
午後二時四十六分うっかり過ぎて丸七年
雪原の底より丸き水の音 ※まろき
鳶の輪の丸く大きく春の空
カップルの卒業旅行牡丹雪
クラークの指さす街や月おぼろ
第109回(H30.3.5)
兼題「空」
青空の直下氷の水平線
ともしびすべてものがたりあり寒夜
雪空や火葬場走る喪服の子
子の骨を砕く火葬場寒波来る
冬青空皺多き手に子の位牌
第108回(H30.2.5)
兼題「生」
生意気な顔してにらむ雪だるま
歓声は何語か不明雪遊び
諸行無常生死一如や冬木の芽
生きる目的はって聞かれてもなあ雪しんしん
寒晴やクラーク像のポーズ真似
第107回(H30.1.8)
兼題「直」
青天へ樹氷ポプラの直立す
五十センチに及ぶレシート年用意
けあらしの彼方より新しき年
青く白く天地玲瓏大晦日
コメントに旧師の訃報年賀状
第106回(H29.12.4)
兼題「待つ」
雪しんしん合否連絡待ちて黙
廃業と決めて勤労感謝の日
熱燗やひとり人待つ縄暖簾
法話待つ老老男女冬ともし
新しき世の号砲か冬の雷
第105回(H29.11.6)
兼題「どこ」
もみぢ裏返し己を振り返る
仲秋の初冠雪や手稲山
どこまでも澄む秋空は吾がこころ
どこまでもひとり
どこからかひとり来てどこかへとひとり去る
第104回(H29.10.2)
兼題「いつ」(時間を表す言葉)
いつの間にか見渡すかぎり芒原
秋暑し今日は駄目だと笑む釣師
秋天や鳶は無音の輪を描く
対岸は欧州露西亜海の秋
秋蝶の群れる岬や日本海
第103回(H29.9.4)
兼題「大」
開拓の村の大樹や秋の天
老年よ大志は如何秋うらら
終戦日中華観光客大勢
キャンパスに採る者もなく山葡萄
太古にもあめんぼサクシュコトニ川
第102回(H29.8.7)
兼題「素」
体中の素粒子踊る大花火
昼顔は素通り自然遊歩道
二メートルほどの素潜り夏休み
ラジオ体操終えて駆け出す夏休み
ラジオ体操の聞こえぬ朝の雨涼し
第101回(H29.7.3)
兼題「紫陽花」
紫陽花に鬼がほほえみ潜んでる
称賛は麻薬あぢさゐよただ咲け
北鎌倉の雨は藍色濃紫陽花 ※こあじさい
然別湖畔の足湯青葉冷 ※あおばひえ
四十年や北大祭にリラの雨 ※よそとせや
第100回(H29.6.4)
北大吟行(兼題なし)
追憶は緑雨に煙る北大祭
再生の黒百合に雨ひとしずく
学祭の裏手牡丹の落ちにけり
第99回(H29.5.1)
兼題「花の名一切」
キャンパスへ通学の列クロッカス
白木蓮何か楽しいことありそ?う
化け物が私の中に居る朧
如是如是と自分に言いて道おぼろ
海うらら仏と語り合えそうな
第98回(H29.4.3)
兼題「出」
酔ふために世に出でしかも月おぼろ
出自みな仏性とかや彼岸寺
ふるさとは割り切れぬもの彼岸過ぎ
パプリカの黄色を選ぶ春の昼
春泥の音と匂ひの真昼どき
第97回(H29.3.6)
兼題「入」
入れ食いのわかさぎ釣りにおだつ子ら
繰り返す入退院や冴え返る
入学を待てぬ子の背のランドセル
レシピ本どおりのカレー春の昼
建国日護憲改憲日本晴
第96回(H29.2.6)
兼題「寒」
朝厳寒大地純白空真青
寒林のなか病棟の白々と
雪国に住む醍醐味や深雪晴
大雪のやみて兆せし曙光かな
凍つる道コツコツ刻みゆくヒール
第95回(H29.1.8)
兼題「初」
初夢に大鷲となり国越ゆる
嗚呼二度寝初夢忘れちまうとは
冬満月欠けることなきものいのち
冬落暉老ひて出てくる本音かな
樹林みなきらめく朝や寒に入る
第94回(H28.12.12)
兼題「酔」
酔ふて寝て見慣れぬ駅の吹雪かな
雪の香に酔ひたき夜のありにけり
雪野ひとり酔はんばかりに雪薫る
幸せのかたちばらばら冬怒涛
深淵が私を見てる冬銀河
第93回(H28.11.7)
兼題「林」
歓声の落葉松林きのこ狩
秋風やツインテールのバイシクル
霧雨や聞こえぬやうにひとりごと
見回して見上げ見下ろす谷紅葉
鉄道少年隊の車内放送外は雪
第92回(H28.10.3)
兼題「葡萄」
子を掲げひと粒とらす葡萄狩
四角なる都心空き地の虫時雨
一畳の庭に鈴なりミニトマト
秋蝶や老父ゆったり庭仕事
木の実落つ初老にて問ふ生の意味
第91回(H28.9.5)
兼題「節」
節つけて真似て見上げる蝉の声
台風一過果てなき空を置き土産
満身に夏風吸って退院す
目を細む病窓越しの極暑かな
小児科病棟の壁白々と夏の果
第90回(H28.8.1)
兼題「帽子」
(投句せず)
第89回(H28.7.4)
兼題「火」
(投句せず)
第88回(H28.6.6)
兼題「静」
新緑の静寂ふうと息をつく ※せいじゃく
ライダーを前傾させて春疾風 ※はるはやて
被災地へ続くこの空揚ひばり
リラ冷やときに歩みを止めるのも
はまなすや女子小走りに学祭へ
第87回(H28.5.2)
兼題「雲雀」
制服の袖指にまで初ひばり
がんばればいいことあるさ揚雲雀
白鳥を磨きてやみぬ春の雨
合掌の老婆小さしなゐの春 ※なゐは地震
母の手を離し駆け出す一年生
第86回(H28.4.4)
兼題「朝寝」
朝寝して猫にご飯と鳴かれけり
復興の見慣れぬ故郷辛夷咲く
ゆくゆくは海の男ぞ入学す
石巻駅に山茶花旅の果
防潮堤登り故郷の春の海
第85回(H28.3.7)
兼題「日」
バス停の春日や雀かしましく
瓦斯燈の煉瓦倉庫や雪光る
雪解野のしろがねの風空青し ※ゆきげの
手袋を忘れし散歩春きざす
静まりて鎮めんや三月の海
第84回(H28.2.1)
兼題「氷柱」
青空へきらめき返す大氷柱
耳たぶの痛み引き連れ冬将軍
寒青空両耳おおひ見上げけり
雪雲と青空天を真っ二つ
蒼天を突き刺すポプラ霧氷林
第83回(H28.1.11)
兼題「マスク」
通勤のマスクの列の迫り来る
水行の気合とともに寒に入る ※みずぎょう
雪原にいやな自分を埋めてきた
覚えなき脛の傷あと忘年会 ※すね
初夢や吾もののふとなりて果つ
第82回(H27.12.7)
兼題「温」
温々と窓から見てる吹雪かな ※ぬくぬくと
仲間みな落伍はさせじ雁の列
冬立つや明日でよいこと今日はせず
初氷踏んでは止まる登校児
ぴくりともせぬ風車列小春空
第81回(H27.11.2)
兼題「歩」
初雪や気を丹田に込め歩く
渓流の野天湯にひとひら紅葉
片方のサンダル残し野分去る
楕円球はるか蹴り上げ天高し
北国の秋は短し収穫祭
第80回(H27.10.5)
兼題「夜」
遠花火澄みし夜空をキャンバスに
通り雨去るや湧き出る虫の声
空高し額の皺を深くして
老父母の顔見し帰途や秋桜
秋薔薇やブルーチーズに赤ワイン
第79回(H27.9.7)
兼題「残」
大敗を抱きしめ夏の甲子園
夏風邪をこじらせ戦後七十年
夏にしか風邪を引かぬと独りごち
青鷺の見つめる先や敗戦忌 ※あおさぎ
残照の街に灯るや白木槿 ※しろむくげ
第78回(H27.8.3)
兼題「草」
子を守る母猫の牙草いきれ
込み上げる甘酸っぱさよ夏の浜
坂道をジグザグ進む蝸牛
桜桃のひと粒に糸雨ひとしずく ※しう
あじさいに濃淡ひとにキャラクター
第77回(H27.7.6)
兼題「みどり」(ミドリと読む漢字を含む)
露天湯の波紋小さき緑雨かな
短夜の夢の続きの長思案 ※みじかよ
一樹のみ揺らして青葉風の道
雪渓を下にニセコドライブウェイ
蝦夷梅雨やざるそばやめてにしんそば
第76回(H27.6.1)
兼題「茶」
リラ冷や茶碗を両の手のひらに
見送りは母とたんぽぽ一年生
園児らの笑顔車窓に新樹光
たんぽぽを寝坊させたる朝の雨
囀りてつなぐいのちのシンフォニー ※さえずりて
第75回(H27.5.11)
兼題「野」
春疾風サロベツ原野風車群 ※はるはやて
霞晴れはるか真白き利尻富士
キャンパスに童顔あふれ春の虹
復興の槌音とかや落椿
日本海望む曠野のふきのたう ※こうや
第74回(H27.4.6)
兼題「苗」
農家からもらひし苗ぞ父の春
冬越えし苗札ありて土匂ふ
春津波生き延び希望となりし苗
うすれゆく3.11海霞 ※うみがすみ
ひと息に天地吸い込み卒業す
第73回(H27.3.2)
兼題「本」
ぶらんこに置かれたままの文庫本
氷紋はひとときのみの曼陀羅図
鋏もて切り置きたきや寒満月 ※はさみ
青空に深く呼気して雪解待つ ※ゆきげまつ
ひとすじの雪解光あり座禅会 ※ゆきげこう
第72回(H27.2.2)
兼題「にすい(冫)の字」
禅堂を行きつ戻りつ冬の虫
地の如く融けては凍るこころかな
雪雲と追いかけっこの帰宅かな
狂う雪生死はともにありにけり
荒波を揺りかごにして鰊群来 ※にしんくき
第71回(H27.1.5)
兼題「肌」
雪を踏む音なつかしき初冬かな
ぎんなん落つ雪に黄色の点を打ち
ぼた雪や在の女性の白き肌
雪と過去消しておくれよ冬の雨
寒木の肌に触れ聴くいのちかな
第70回(H26.12.1)
兼題「遠」
遠景にはたと気づきし枯木立
遠いからこそ想いありひとり鍋
冷え冷えと降る雨よりも雪がいい
霙降るタイヤ換えよか空にらむ
賑わえる蕎麦屋勤労感謝の日
第69回(H26.11.3)
兼題「香」
薪バスの白煙の香や天高し
天空を翔る秋雲露天の湯
天地吐血すナナカマドの葉から実から
禅堂の長尺線香草紅葉
葡萄香る今朝はやさしい人になる
第68回(H26.10.6)
兼題「通」
虫の音や来し方いつも綱渡り
虹二重残して秋の通り雨
秋雨に曇る車窓に丸を描く
通勤に女性ヴォーカル聴きて秋
秋の空心通わぬこともある
第67回(H26.9.1)
兼題「間」
敗戦忌人間魚雷ありし日々
秋空や移ろうてこそ生きらるる
露天湯の灯籠ともり秋暮るる
峠には熊の標識雲の峰
天災の地を悼み散る白木槿 ※しろむくげ
第66回(H26.8.4)
兼題「暑」
こんなんで暑いなんて内地の人に怒られる
天からの暑中見舞いか大花火
線香花火ほかの生き方あったろか
浴衣着て走る先にある青春
麦秋の丘に黄金の波走る ※ばくしゅう こがね
第65回(H26.7.7)
兼題「山」
郭公を聴く里山の露天風呂
山法師こころの棘と共に生く
活イカに山わさび添え冷酒酌む
はまなすの香の鋭さや桜桃忌
夏草や寮歌隊列進みゆく
第64回(H26.6.2)
兼題「感」
リラ冷や鈍感だから生きられる
札幌の初夏のそよ風嗚呼快感
ひとひらが魂の輝き延齢草 ※たまの
レットイットゴー野に花咲いて風薫る
冠雪をわずかに残し五月晴
第63回(H26.5.10)
兼題「心」
幾年も病み臥す友よ外は春
浜春風ゆるりくるりと風見鶏
末吉のおみくじ結び春うらら
春光を心おもむくまま行かん
肌に聞き心にて聴く春の風
第62回(H26.4.7)
兼題「三月」
被災地を見守る鳥居春の風
真実は人の数だけある朧
三月や風化は復興より疾く ※はやく
復興は朧の中にありにけり
道に並ぶ新入生とふきのとう
第61回(H26.3.3)
兼題「巡」
三陸に巡りきたるや春三度
紀元節誇りは個々の胸に秘め
魚氷巡り巡れば人氷
屋根落つる雪音春を告げにけり
想うほどに言葉飲み込み春暖炉
第60回(H26.2.3)
兼題「数字一切」
寒満月雪野をさらに白くして
大寒や赤いほっぺの始業式
九階のベランダに笑む雪だるま
厳寒に聞く鳥の声こそ希望
究極の静寂つれてホワイトアウト
第59回(H26.1.6)
兼題「松竹梅鶴亀から一文字以上」
音すべて青く凍りて雪月夜
雪の夜のジャズや竹鶴飲み干して
今年やり残した分だけ雪積る
初日受け走る女の背や凛と
かぼちゃ割る御役賜る冬至かな
第58回(H25.12.2)
兼題「指」
あかぎれて来し方語る母の指
鼻唄のラジオ体操小春空
小春日に無心となりて窓磨く
指の節さすり勤労感謝の日
パソコンの起動待つ間の時雨かな
第57回(H25.11.4)
兼題「冬隣」
葉の青き中にぎんなん冬隣
落ち葉踏む音の乾きて冬隣
白く染まる手稲山頂冬隣
台風一過見上げればななかまどの実
変わるもの変わらないもの秋深し
第56回(H25.10.7)
兼題「実」
われもまたその中にあり星月夜
星月夜を仰げば生きている実感
噛みに噛む玄米ご飯や秋の空
余命とてふたりで最後の月見かな
夕焼へ走るポニーテールかな
第55回(H25.9.2)
兼題「波」
紛争の記事の絶えざる敗戦忌
盆踊り終えて静けき月夜かな
手をかざしバス待つレディ白木槿 ※しろむくげ
波瀾万丈とにもかくにも鰻喰う
蝶よ蛾よ誰が魂の舞なりや ※たがたましいの
第54回(H25.8.5)
兼題「湯」
涼もとめ秘湯さがして夏十勝
生きている嗚呼生きておる草いきれ
夕立に祭りの声の遠のきて
遠花火思い深くも言葉なく ※とおはなび
恐竜に子らの歓声夏休み
第53回(H25.7.1)
兼題「酒」
夏風や吾はポプラとゆうらゆら
さざ波のひとつひとつに夏光る
旅装解き薄暮ひとりの麦酒かな
キャンパスを吹き抜け未来へ初夏の風
郭公やいのちの息の出づる音
第52回(H25.6.3)
兼題「歌(曲名も可)」
朧夜や終わらぬ歌を口ずさむ
一輪の白梅にみる希望かな
背中全部ランドセルだね新入生
もみぢ手を開いて握り春の歌
春爛漫少しの酒に歌いだす
第51回(H25.5.6)
兼題「植物の名一切」
虚空より突如あらわれ初ひばり
雪山のぐんぐん小さくなりて春
北国の春色まずはクロッカス
新歓の立て看並び木の芽吹く
残雪と白さを競う水芭蕉
第50回(H25.4.1)
兼題「つくし」
二時四十六分春の光に手を合わす
我らみな不全かかえしつくしかな
観音にハグされし夢春うらら
春日浴び雪疲れの身溶け出して
春満月のようには丸くなれんなあ
第49回(H25.3.4)
兼題「平」
愛は吹雪突如狂ふてやがて消ゆ
吹雪一過春の光の匂いあり
烏賊翔ぶや春大海の水平線
五十年平々凡々春を待つ
屋上は真っ平御免雪下ろし
第48回(H25.2.4)
兼題「兆」
群来白き海に命の兆しあり ※くき
病院のスターバックス冬うらら
ため息で溶かしちまえよその雪を
街路樹の樹氷となりて月曜日
すすきのの場末のバーや大氷柱 ※おおつらら
第47回(H25.1.7)
兼題「新」
新雪を二人踏みゆく聖夜かな
きっともう大丈夫だよ冬至越ゆ
横なぐり頬と心を撃つ吹雪
新年の雪野に新しき光
外の雪ただただ美しくありて
第46回(H24.12.3)
兼題「震」
初雪は落葉に冬を告げて消ゆ
くしゃみして空を震わす巨漢かな
マフラーを悲喜こもごもに巻きに巻く
遺言セミナー窓の外には雪景色
五十路とて色づくことも冬紅葉
第45回(H24.11.5)
兼題「色」
紅葉の色も空なり瑞巌寺
熟年の色は何色天高し
渓紅葉炎の色と燃えにけり ※たにもみじ
晩秋や心に羽があればなあ
人生の晩秋なりや紅葉愛づ ※もみじめづ
第44回(H24.10.1)
兼題「流」
天高し自分探しの果てもなき
流さるることもよきかな秋の雲
被災地に過ぎゆく時や流れ星
萩ゆれて流るる風に気づきけり
褐色の被災地にまた冬が来る
第43回(H24.9.3)
兼題「涼」
満月の白き光に涼みけり
首かしげ目もと涼やか麦わら帽
入道雲肥大続ける自我がある
赤みさすななかまどの葉夕涼み
八月のスケートリンクに涼みけり
第42回(H24.8.6)
兼題「雨」
熱帯夜雨は救いの神となり
あきらめの笑顔駆けゆく驟雨かな
夏雨に照り輝ける椿の葉
夕立に道化したくなる少年
睡蓮の白き一輪孤高なる
第41回(H24.7.2)
兼題「天」
天つ風トマム雲海吹きとばす
晩酌を終えて明るき夏天かな ※かてん
朝焼けや仕切り直しは何度でも
大夕焼天空すべて染めきらん ※おおゆやけ
青天へ紫の波リラの風
第40回(H24.6.4)
兼題「身に着けるもの一切」
春滝の眼鏡くもらす飛沫かな ※しぶき
隠したき心それぞれサングラス
初夏の街ペアの真白きスニーカー
リラ冷えや厚手薄手の服を手に
夏来たる心の厚着脱ぎ捨てて
第39回(H24.5.7)
兼題「春の食べ物・飲み物一切」
蕗味噌の届かぬ春や父老ゆる
鯉のぼり生かされてある身の自由
若き日は尖りて白き延齢草
吾もまた背筋伸ばさんつくしんぼ
白木蓮人みな秘めし思いあり
第38回(H24.4.2)
兼題「運」
春吹雪受験の運を分けにけり
春津波去りて音なき夜となりぬ
おぼろ夜に瓦斯の火ともる運河かな
傘ならぶ小樽運河や彼岸荒れ
春星や大震災の夜の静寂 ※よのしじま
第37回(H24.3.5)
兼題「春」
雀らの声のリズムに春を聴く
あの海の春牡蠣粒が大きくて
内示あり悲喜こもごもに春を待つ
春遠き十勝の嶺の白さかな
残雪の寮舎跡地や青春譜
第36回(H24.2.6)
兼題「毛」
寒月を浮き上がらせて闇夜かな
深雪をふめば真白き音すなり
毛嵐の川を飛び立つ夫婦鶴
雪しんしん音すべからくなくなりて
氷爆は溶ける定めに輝きて
第35回(H24.1.9)
兼題「初」
再生の海に初日は昇りけり
初日出て天地言祝ぐ鴉あり ※ことほぐ
天変地異の年の晦日ぞ静かなる
雪分けて在の祠へ初詣 ※ほこら
穏やかな天地を慶す年初かな
第34回(H23.12.5)
兼題「鳥の名一切」
祈りてもとどかぬ病雪がふる
列をなし水辺の鴨の日向ぼこ
裸木をくぐり顔出す雀かな
廃サイロ残る枯野に鳶の舞
駒ケ岳を仰ぐ枯野のからすかな
第33回(H23.11.8)
兼題「葉」
夕張の今昔を知る紅葉かな
夕張の坑道出れば紅葉晴
一樹のみ色づく紅葉まつりかな
十勝野に億万落葉降りにけり
晩秋や五十路の日々は何やかや
第32回(H23.10.3)
兼題「風」
萩の花揺らして風の去りゆけり
そよ風が肌に初秋をおいてゆく
秋風や心も風邪をひくという
秋風や鳶は高みへ高みへと ※とび
空知野の稲穂さざ波風渡る
第31回(H23.9.5)
兼題「在」
競い合い存在誇示す蝉しぐれ
流燈や御詠歌ひびく北上川
流灯に在りし日の名を北上川
原爆忌あみださまにごめんなさい
観自在菩薩度一切苦厄天高し
第30回(H23.8.1)
兼題「花」
乙女なる應援團長花水木
三陸の小さき漁港揚花火
ひとことで会話終りぬ遠花火
トロフィーを天に捧げり濃紫陽花 ※こあじさい
原色を競い花咲く夏美瑛
第29回(H23.7.4)
兼題「魚の名一切」
飛魚とんで七つの海を想ひけり
鰈突き浮上しつつ見る空の青
ソーランの祭り横目に鰊喰ふ
摩周湖の青はなないろ夏の空
アスパラを手折りてかじる十勝空
第28回(H23.6.6)
兼題「輝」
輝輝として閑けき初夏の噴火湾
被災地に輝く笑顔新入生
紫に地を輝かす芝桜
白砂の輝く浜辺夏少女
キャンパスの初夏輝くやジンギスカン
第27回(H23.5.9)
兼題「北海道の地名」
鎮魂の白き焔よ白木蓮 ※ほむら
被災地と呼ばれし故郷春夕焼
春風や北大キャンパス銀輪群
被災地に空即是色桜咲く
蝦夷や今こぶしれんぎょううめつつじ
第26回(H23.4.4)
兼題「芽」
避難所の子らの遊び場つくしんぼ
安否不明なれども木々は芽吹きたる
被災地の闇に春星潤みをり
避難所に肩を寄せ合い彼岸寒
被災地の子ら慎ましくふきのとう
第25回(H23.3.7)
兼題「過」
過ぎし日の大方忘れ春眠し
酒蔵の大黒柱冴返る
最北の酒蔵に汲む春の水
シリウスは明る過ぎるよ冬の恋
過去はなぜ変えられないの春の夢
第24回(H23.2.7)
兼題「氷」
氷紋の窓の向こうは白き闇
寒の通夜窓の氷紋とけぬまま
波かぶるオロロンライン滝氷る
白き野となりて石狩川氷る
寒の月こころ氷らすひかりあり
第23回(H23.1.10)
兼題「年」
極彩のブラジルからの年賀便
我が心身攪拌し過ぐ地吹雪よ
ふるさとの土産たずさへ新年会
初日待つ我流の祈祷ささげつつ
初日いま土手に漢の仁王立ち ※おとこの
第22回(H22.12.6)
兼題「雪」
曼荼羅を大地に描く落葉かな
旅先へメール画像の雪便り
雪降らば雪降るもよしひとり酒
雪ぼたる宇治の伽藍に漂ひて ※雪虫の異名
雪虫が五重の塔からふわりきた
第21回(H22.11.1)
兼題「匂い香りなど嗅覚関連一切」
お湯割りの芋の香ただよふ句会かな
古本の香に追憶の鼻を突き
ふるさとの川の匂ひぞ鮭のぼる
高原の朝は澄みきり冬かをる
恋ふるかよ山気つらぬく鹿の声
第20回(H22.10.4)
兼題「虫および虫の名一切」
ぶら下がり花とゆれをり秋の蜂
虫の闇足取りぎこちなき父よ
ボージョレーヌーボー背伸びし若き日の苦さ
邯鄲や帰郷叶はぬ男あり
今ここに鳴くを定めと虫時雨
第19回(H22.9.6)
兼題「樹木の名」
ゑびすビール有ります。 極暑です
竜胆や鈴鳴らし行く神の山 ※りんどう
空知野にポプラぽつんと秋高し
箱館の旧街道や白木槿 ※しろむくげ
楡大樹離れ仰がばいわし雲
第18回(H22.8.2)
兼題「雷」
ふるさとも吾も変はりぬ盆の月
万の眼の雨天睨みて待つ花火
極暑日や人間魚雷秘し戰
隣家から雷おやぢ盆太鼓
黒雲の雷鼓乱打す十勝岳
第17回(H22.7.5)
兼題「光」
夕立も楽しむ旅の始めかな
大夕焼いっそ泣いてしまえばいい
雲海の底のトマムや朝の月
雷鳴のトマムの山をころげきて
栄光へ蹴球たけなは夏の真夜
第16回(H22.6.7)
兼題「土」
田植機の爺を見送る老婆かな
夏来る蝦夷の楽土に遊ぶなり
エメラルドグリーンの湖や風薫る
支笏湖の新歓合宿夏の空
岩魚らと目の合う水中遊覧船 ※いわな
第15回(H22.5.10)
兼題「みどり」
春昼の雑踏ながめカプチーノ ※しゅんちゅう
スペースシャトル春紺碧の天空へ
オホーツクの海に碧の風光る
夕映えの夕張山地雪残る
ふきのとう心の闇を仄ひらく
第14回(H22.4.5)
兼題「飯」
烏賊飯を車窓に並べ春の海
春ゆふべ乳色深む大雪山
モノトーン続く石狩春霙
雲上の銀嶺不二の春茜
春空へ真直ぐな道をスロウジャズ ※ますぐ
第13回(H22.3.1)
兼題「明」
鰊群来海は明るく濁りけり ※にしんくき
雪解けの音にかさねて口笛す
雪嶺のセピアに暮るる春夕焼 ※はるゆやけ
ホワイトアウト胎内はかくありしかも
宵の明星春待つこころ照らしけり
第12回(H22.2.1)
兼題「凍」
凍風に両耳もっていかれさう ※いてかぜ
友逝きし日なりシリウス輝けり
冬深し夫婦はともに丸くなり
うずくまる家なき人よ街凍つる
寒満月家なき人を包みけり
第11回(H22.1.4)
兼題「星」
イカール星人の襲うハコダテ小春空
冬青空ほんとの自分少し出し
流星群見るを忘れて忘年会
凍星や天文手帳出さぬまま ※いてぼし
まあそんなもんだなと女つぶやき年暮るる
第10回(H21.12.7)
兼題「海」
心折れることもあるさ冬の海
冬満月天に孤高を極めけり
ひとかかえ落葉ぶっつけ鬼ごっこ
海鳴りて天を言祝ぐ神威岬 ※ことほぐかむいさき
北風の千切る波頭や雄冬岬 ※おふゆさき
第9回(H21.11.2)
兼題「道」
稲光はるか吾が道照らしけり
パドル上げ流れのままに紅葉川
照紅葉湖に光を返しけり ※てりもみじうみに
銀杏落葉風に遊ばれ道に舞ふ
秋深む武道場から溢るる氣
第8回(H21.10.5)
兼題「月」
大ぶりの猪口なみなみと月見酒 ※ちょこ
蒼空に真白き月ぞ浮かびける
名月の石ぞやエキスポ’70
原爆忌いかな言辞も月並みに
星月夜即今当処曼荼羅図 ※そっこんとうしょ
第7回(H21.9.7)
兼題「熱」
猛残暑ならば熱々スープカレー
熱砂降るサハラよアッラー・アクバル
原爆忌ノーブレス・オブリージュこそ
魂の往き交ふ月夜イヨマンテ
投票日熱き風吹き大夕焼 ※おおゆやけ
第6回(H21.8.3)
兼題「青」
青緑紫黄色夏富良野
ざらつきし青春の日々遠花火 ※とおはなび
お日様を月のよぎるや桃かじる
眉寄する異形の阿修羅原爆忌 ※いぎょう
酔うて臥す中央ローン青葉光 ※あおばこう
第5回(H21.7.6)
兼題「水」
大噴水上がるや鳩の翔けにけり
紫陽花や水月観音半跏像 ※あじさい ※すいげつ
すいませんお水ください夏カレー
みちのくに置ききし夢かさくらんぼ
高らかに河島英五草いきれ
第4回(H21.6.1)
兼題「雲」
ボヘミアンたらんか友よ雲となれ
来し方の雲霧払えり花吹雪
夏雲がどかんと山に座りをる
億光年はるか星雲娑婆ありや
夏空に一片の雲羊蹄山
第3回(H21.5.11)
兼題「風」
風走る旧寮の森一輪草
鯉幟風を喰らふて真横なり
春暖炉老犬寝息をたてにけり
まっ白な柔道着ゆれり春の風
空にV描きて雁の帰るなり
第2回(H21.4.6)
兼題「空」
オホーツクブルーの空へ流氷原
大鷲は空のかなたへ風光る
大不況とて春日燦燦空海忌
うららなる虚空へ独り大背伸び
友の遺志継ぎキャンパスへ雪解空
第1回(H21.3.2)
兼題「白」
節分や己が悪鬼は心奥に
隊列は背丈の順ぞ息白し
白ワイン殻付き牡蠣をすすりつつ
受験日や寮の跡地と誰か知る
多喜二忌の小樽に兆す雪嵐