血も涙も
ガシャン、と鎖の音。真っ暗な視界。鈍い鉄の匂い。鼻につく腐敗した何かの匂い。刃物を研ぐ音。自分の知っている声で聴こえる知っている曲の鼻歌。
「な、つ…?」
刃物を研ぐ音が止まる。
「ああ、赫起きたんだ。おはよ」
目を覚ました赫の方に向かってくる足音。
「ね、赫」
ビクッと肩を跳ねらせる。腕を動かそうとするものの、鎖が邪魔をする。
「…っ、なあ、これ…どうなってんだよ」
彼はクスクスと笑う。
「どうって? 赫が捕まってる、のかな?」
「捕まってるって…誰に?」
「もちろん、僕に」
だんだんと本当の顔を見せ始めた殺人鬼は獲物に向かって微笑みかける。…まあ捕まっている張本人は目隠しされていて見えないのだが。
「じゃあまずはね〜、電気から」
ふふっと笑うと彼は機械の電源を入れる。
「赫、暴れないでね?」
バチバチと言わせながら赫の体に機械を押し付ける。
悲惨な叫び声がその部屋に響く。
「う…ぁ…」
「あれ、もう限界? でもね、まだこれからなんだ」
ニッコリと笑うと、片腕を鎖から離し、自分のやりやすい位置にしっかりと固定をする。
「な、つ…」
「どうしたの? 赫」
刃がボロボロになったナイフと磨きに磨き上げたナイフを一本づつ用意する。
「くる、し…」
「大丈夫。僕が楽にしてあげるよ。でもね、まだ待ってね?」
斬れ味の良いそれを赫の固定した手に刺す。
痛々しい叫び声が響く。が、誰の耳にも届かないままただ痛みを味わう。
「ほら、そんなに叫ばないで?」
手に刺したナイフを引き抜く。赤々とした血がドクドクと流れる。
「ねえ、痛い?」
痛いと言えど痛いと言わずと彼は今よりももっと痛くするだろう。
人の苦しむ姿が彼の快感を満たしていく。
「僕だって、赫のこと好きだよ?」
そんな上辺だけの“好き”を言いながら彼はまたナイフを刺す。
部屋に響く痛々しい叫びとただ止まることを知らないように流れる赤々とした血。
「んー…次は今よりちょっと痛いかも」
そう言うとナイフをその固定している手首に振りかざす。終わらない叫び。ガシャンガシャンと必死に抵抗するほど痛みが増していく。
「ほらほら暴れないで? 動けなくなっちゃうよ?」
暗闇に光る赤い目。緋、朱、紅…。
ナイフを持ち替え、もう片腕の指を数本切断する。鎌で腕ごと斬り落とす。声は鳴り止まない。
「…もう。そんなに暴れるから可哀想になっちゃったじゃん」
そんなことを笑いもせず、悲しい表情を見せもせず、表情のない顔で言う。彼は同情なんてしない。反応が面白くなく終わらせたいだけなのだ。
「…んーっと」
彼はチェーンソーを持ち上げる。
「僕みたいな細い腕じゃ持てないと思ってた?」
ニッコリと笑うと電源を入れる。
「さ、じゃあもうこれで終わりだよ」
赫の首にチェーンソーを近付ける。
「僕も大好きだよ、赫」
その笑顔を崩さずに首を斬り落とす。それと同時に声は鳴き止む。
「…なーんてね」
返り血を浴びて真っ赤になった自分を、自分の後ろの月明かりに照らされた鏡で確認する。
「僕が好きなのは君じゃない」
顔に付いた血を指で拭い、その血で鏡に名前を書く。
「お風呂入ろっと」
チェーンソーをその場に置き、部屋を後にする。明日の遊び相手を見つけるために。
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