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アーツ・アンド・クラフツとデザイン展
久留米市美術館で開催してた「アーツ・アンド・クラフツとデザイン」展に行ってきた。
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と言ってもだいぶ前に行ってて、記事を書こうと思ってたらそのまま開催期間が終了してしまったという……(情けない)
ただ私の好きなウィリアム・モリスを始め、モリスと一緒に活躍したアーティスト達の作品を沢山見ることが出来たし、何より「苺泥棒」を一目見れたのはいい思い出になったので、その感想をちょっとずつ書いていこうと思う。
モリスの新たな視点とカリスマ性
さて、この展覧会の名前にもなっている「アーツ・アンド・クラフツ」というのは、もともと「アーツ・アンド・クラフツ運動」というモリスが手仕事と生活が結びついていた、かつての「ものづくり」の時代を理想とする考えが元となっている。
この運動が生まれた時代背景に、19世紀のイギリスでの第二次産業革命による機械化が進み、機械による画一的な製品が流通するようになっていたことが挙げられる。
機械により大量生産が出来るようになった時代に、職人達が自らの手で物を作り、生活の中に生かしていくべきだと考えたモリスに多くのアーティストや職人が賛同し、アート運動にまで広がったのは、きっとアーティストたちの今まで培ってきた確かな技術を絶やしてはいけないという信念と誇り高きプライドがあったからだと思う。
しかし、この運動ではただ機械の出現や機械が作り出す物を否定するだけでなく、生活の中に溶け込む手仕事と、機械の大量生産が出来る利点、お互いの良いところを掛け合わせて、新しいアートを生み出していった。
これにはもちろん発案者のモリスの柔軟な視点も必要であったろうが、それ以上にこのモリスの考えに賛同して多くのアーティストが一緒に共闘してくれたことが重要である。
だとすれば「アーツ・アンド・グラフツ」運動にはモリスの人脈の広さと、そして人の良さも大きく関わっていたんだと感じた。
日常とアートのつながり
展覧会に展示してある作品を見ていると、デザインのモチーフになっているものは草木、花、鳥や小動物など自然にありふれてあるもので、どこか長閑な田舎の風景を思い出させるものだった。
これらがデザインされたものは、部屋のカーテンや壁紙として使われ、日常の中に溶け込んでいたという。
屋内にいながらも心落ち着く美しい自然の風景が楽しめる。
まさに生活上必要な機能の中に“美“がデザインされており、日常とアートが繋がっている。
100年以上の時間が経過しても、モリスらのデザインが人気が高いのは、それらが日常に溶け込みやすい普遍的な美しさを持ち合わせていたからだろう。
心豊かな暮らし
先ほどの項目でも述べた通り、モリス商会から出ているデザインの多くは自然をモチーフにしており、そのデザインはたくさんの描き込みがあるにも関わらず、目にうるさくなく、寧ろずっと見ていたくなるような不思議な魅力を持ち合わせていた。
これらがもし今の私の部屋にあり、いつもの日常に溶け込んでいると想像してみる。
忙しくて毎日仕事のストレスや、悩みを抱えつつ、心が磨耗していく日々。
それでもあの自然をモチーフにした可愛らしいデザインに囲まれていれば、それらが完全になくなることはないとしても、ふとした瞬間にその心は癒されていくのではないか。
現代のシンプルで無機質な空間の中でも、どこか1箇所だけ、モリスのデザインが広がってるだけで、ホッとひと息つける。
それがモリスの提供したかった心豊かな暮らしに繋がるのではないかと、私はたくさんのデザインを見て感じていた。
最後に
モリス達が世に残してくれたデザインは、長い時を経ても尚、多くの人に愛されている。
私はこの展覧会に行く前は、モリスのことを、めちゃくちゃ惚れていた奥さんを尊敬していた先輩に寝取られ、その奥さんにも死ぬほど嫌われ、最後の最後まで愛人を作られていた可哀想な画家としか思っていなかった。
しかし、実際の家業の方では、自分の行動に賛同してくれる仲間が沢山いて、沢山の人に影響を与えるアート運動を引き起こし、後世にも残る作品を残すことが出来たとても優秀な画家であったことを、この展覧会に足を運んだことで知ることが出来た。
もう展覧会が終わってしまったけれど、もし貴方の興味があれば山田五郎氏のチャンネルのこの回を見てほしい。
モリスがどんな悲劇を辿ったかがよくわかる動画となっている。
言わずもがなものすごく興味深い内容となっているので、是非。