連載小説 魂の織りなす旅路#50/暗闇⑷
【暗闇⑷】
「お母さんは、お腹の子は絶対女の子だって、調べる前から言っていたんだよ。調べてもいないうちから、女の子用のベビー用品をどんどん揃えていくんだ。あまりにも確信に満ちているもんだから、お父さんには止めようがなかった。」
「うん。だってお母さんは本当に知っていたんだもの。当然よぅ。」
「お腹の中の耀(ひかり)が、私は女の子よって教えたのかい?」
「うーん。ちょっと違うなぁ。」
娘はしばらく口をつぐんだ。それからふぅっと深呼吸をすると、唐突に話題を変えた。
「ねぇ。今、お父さんの目は明暗もわからなくなっているんだよね。」
話題が急に変わったので一瞬躊躇した僕は、娘の真剣な声色にこれから何が話されるのかと緊張しながら答える。
「ああ。真っ暗で昼も夜もわからないよ。」
「それって、暗闇と同化するような感覚にならない? 自分の体の境界線がわからなくなるような。」
「そうなんだよ。なんなんだろうなぁ、あの自分の体が空間に溶け込んでいく感覚は。」
こう答えたあと、目が見える娘になぜこの感覚がわかるのだろうと奇妙に思う。
「そういう感覚なのよ。胎内って。」
「ああ、なるほど。胎児は目が見えないのか。」
「でね、その感覚を研ぎ澄ましていくと、お母さんの魂と触れ合うことができるってわけ。」
「たましい・・・か。」
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