連載小説 魂の織りなす旅路#33/書道教室⑷
【書道教室⑷】
しかし、そこは駐車場になっていた。広々とした道路沿いにオフィスビルや高層マンションがそびえる街並みからは、最近区画整理されたであろうことがわかる。
誰かに尋ねてみようにも、父親が日本に住んでいたのは半世紀も前のことだし、あの封筒もかなり古いものだった。果たしてそんな前から住んでいる人など、この街に残っているだろうか? 残っていたとして、どのマンション、どのビルを探せば会えるのか?
悠(はる)さんは不動産屋なら何か知っているかもしれないと、いくつかの不動産屋を回ってみた。けれど、どの店舗にも封筒の差出人のことを知る人は1人もいなかった。
ある日のこと、悠さんは酒の席で「興信所」という言葉を耳にした。どうやら探偵のようなものらしい。話の流れでそれとなく聞いてみると、酔いのせいもあるのだろう、なんだお前は興信所も知らないのかと、その場にいたみんなが競うように、手持ちの興信所情報を悠さんに教え出した。
おかげで父親のことを一切話すことなく、悠さんは評判の良い興信所情報を手に入れることができたのだった。
翌日、悠さんはその興信所まで足を運んだ。評判通りとても親切で、驚くほど迅速だった。
そこに住んでいたのは父親の父方の伯父、悠さんの大伯父だった。彼は定住を嫌ったらしく、建設業界を転々としながら全国を渡り歩いていた。封筒に書かれていた住所にも2年しか住んでいない。若いうちに離婚して以来、子どももおらず、天涯孤独のまま8年前に亡くなっていた。
何故、悠さんの大伯父は定職に就かず、定住もせず、全国を転々としていたのだろう?
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