連載小説 魂の織りなす旅路#4/不毛の地⑵
【不毛の地⑵】
僕が寝ていた低木が遥か彼方の点となり、とうとう見えなくなったとき、僕はため息をつき呟いた。
「生まれたてのほやほやとはね。ふざけた話だ。」
そして、馴染みのない自分の手を見つめながら、ぞんざいな口調で男に話しかける。
「ところで、こんな大きな僕を生んだのは、いったい誰なんだろうね?」
男は皺くちゃの顔を僕に向け、口元を緩めた。
「そりゃあんた、あんたは始まりの者から生まれたんさね。」
男は当然のことのように、しかし僕が知らないのは仕方がないという風に答えた。始まりの者。創造主といったところか。男はなんらかの宗教の信者なのだろう。面倒な人間に拾われたものだ。
「宗教とは違うさね。ここも、あすこも、あんたも俺も、始まりの者で満ちているさね。」
男は僕の胸の内を見抜いたかのように言った。さっきもそうだった。裸でいることを不思議に思ったときだ。そんなに思ったことが顔に出ているんだろうかと訝りながら、僕は投げやりに答える。
「僕には赤土と、ところどころに生えている低木しか見えないね。」
「そりゃあんた、始まりの者は見えるもんじゃないやね。」
「でも、そこから生まれたという僕の体は、しっかり見えるじゃないか。」
「そうさね。あんたの体は見えるやね。でも、始まりの者は見えっこないやね。」
どうやら、この男とは会話が成立しそうにない。僕は再び黙って歩くことにした。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?