ソウルハッカーズは傑作"だった"【3DS版クリアレビュー】
初心者向けメガテン。
何十年もその名を恣にしていた遊びやすさ特化のアトラス作品。
それが僕にとってのソウルハッカーズの印象でした。
ただ令和のいま、新しく遊んでみるとどうなんだろう?
僕は好き。人気の理由もわかる。これは間違いなく傑作だった。
でも、いまから勧めるのはなぁって印象。
3DS版をプレイ。難易度DOWN,他ハック使用。12時間でクリア。
【評価点】からネタバレありです。ご注意。
プレイフィール
やっぱり斬新な設定
個人が番号で管理され、ヴァーチャルリアリティが存在して、電脳世界にダイブできる。
20世紀末にはいろんなSFが生まれたけど、本作もそのうちの一つ。
攻殻機動隊とか好きな人にはブッ刺さる世界観。
とはいえ、こういったSFにありがちな管理社会〜とか閉塞感はなし。政府の権力もそこそこ弱め。当面の敵は政府じゃなくてアルゴンソフトっていう一企業。裏でコソコソとやり合うインターネットのねちっこさが染み込んでる。
バリバリに現代に振り切ったかと思えば、本筋の神話はネイティブアメリカン。しかも北アメリカの。
ネミッサもマニトゥも元ネタはアルゴンキン族だそうで。
ちなみにアルゴンキン族とは、簡単にいうとイヌイット(エスキモー)のお仲間。当方、世界史ガチ勢で西洋史専攻。初めて聞きました。
「お約束ですよね?」と言わんばかりのこの広がり。まぁ、デビサマ1のラスダンに古墳を持ってくるぐらいだしね。大雑把な加減がたまらないのよ。
シナリオを楽しむ傍ら、改めてデビルサマナーの偉大さを思い知った。
デビルサマナーの世界観
デビサマの世界では、悪魔は一般人に認知されていない。
だから悪魔召喚士なんて影の存在だし、誰からも称賛されない。
それがとってもいい。心の奥にある琴線にバシバシと触れまくる。
世界を揺るがすほどの存在に立ち向かっているんだけど、みんなそれに気づいていない。一部の同士だけが裏の顔で付き合ってくれる。この世界観がたまらんのよ。
ところで、『デビルサマナーらしさ』とはなんだろうか?
メガテン本筋も悪魔召喚士なわけで、DevilをSummonしてるわけで、「明確な違いなんてないのでは?」と、つい考えてしまう。
答えの一つは、『周囲の認知』にあると思う。
僕らが知らないだけで、世界はいまでもひっそりと壊れてて、それらに立ち向かっている人がいる。
「一般人」と「サマナー」を区分けした本シリーズは、より僕らの『コソコソ感』を際立たせる。それがハッカーズやサマナーに痺れる人の優越感なんじゃないのかな。
僕はてっきり、ハッカーズは精神的続編なだけであって、コンセプトも何もない外伝だと思っていた。でも、違った。そこにはデビサマシリーズとしてのコンセプトが流れていたんだ。
こういう路線はライドウに引き継がれていったように思う。
だから、その、ライドウの新作を、お願いします……。
胸を張って推せる遊びやすさ
本作のUIはとても素晴らしい。遊んでて嬉しかった。
「アトラスが優しい!」
開始数秒で確信した。やるじゃん。
PS(元はセガサターン)のほぼベタ移植にしては、サクサクとしたUI。もちろん全てに満足しているわけじゃないけど、それでも充分に嬉しい出来。これで文句言ってたらアトラスなんか遊べないぞ。
初代デビサマで面倒だった忠誠度システムも大幅改善。
これぐらいならエッセンスとしてOK。めんどいけど。
冷静タイプの扱いに少し困ったぐらいかなぁ。それでも許容範囲。
ハッカーズは、「名前は聞くよ〜」って層が遊びやすいように作られていると思う。
『メガテン関連作品』の中ではかなり遊びやすい部類。トップとは言えないけれど。
でも、『メガテンらしさ』や『デビサマナンバリング』としての雰囲気は担保しつつ、それでも遊びやすくできたのは素晴らしいと思う。
流石に無関心層を取り込むほどの訴求力はもはやないけれど、気になってる人は満足できる作品だと思う。実際、僕も遊んでて面白かった。
以下、詳細に入っていきます。
評価点
僕たちはスプーキーズが大好きだ
P1,2やデビサマでも書いたけれど、この頃のアトラスはキャラ紹介が早い。
ぽんぽん進むキャラの色付けと紹介で、あっという間に好きになっちゃう。
プレイ時間やボリュームは少ない。ヌルヌルプレイで遊んだとはいえ、12時間で終わるのはかなり早い部類。歴代アトラスの中でも最速なんじゃないか?
でも、キャラクターの印象はめちゃくちゃ強く焼き付いている。それが僕にとってのスプーキーズだ。
当時じっくり遊んだ人にとって、キャラの愛着はとんでもなかったんだろうなぁ。
リーダーのゆるい感じも、ランチのめんどくさい感じも、シックスの薄っぺらさも、ユーイチの幼稚なところもまとめて好きだ。
凸凹してるメンバーは嫌味がなくて好感が持てる。
「あ、僕もスプーキーズなんだ」って思いたくなる。そんな仕上がりでした。
その中でも、彼女の存在は欠かせないでしょ。
最初は傍若無人だったけど、終盤から人格者になっちゃう落ちモノ系ヒロインネミッサ。
人気キャラな理由も頷ける。強いし、可愛いし、好きになっちゃうわ。
個人的には、ヒトミの可愛らしさにも注目したい。
こいつ、地味にめっちゃ可愛いぞ。アトラスのヒロインのくせに、一体どういうことだ!?
なんとなく4Fのアサヒちゃんに同じ路線を感じる。ヒトミも幸せになったし、きっと彼女も幸せになるんだろうなぁ(すっとぼけ)
主人公=自分の圧倒的没入感
これは3DS版とは少し違うけれど、PSやSS版は徹底して主人公を描かなかったそうな。あってもパッケージだけ。説明書はどうだったんだろう。
少なくとも、ハッカーズからはRPGとしての本気度がありありと伺える。
というか、僕=主人公を徹底してくれたような気がしている。
プレイヤーの一人だから、その姿を描写しなかった。
無個性無機質な主人公に、プレイヤーは好きな主人公像を代入する。
それが本作への没入感を高める仕掛けであり、魅力なんだと思う。
特徴的なのはパラダイムXに入る瞬間。
ネミッサは主人公に向けて手を伸ばしてくれているんだろうけど、プレイヤーはどう感じるだろうか。
3DSの小さい画面では無理がある。でもPSやSSで発売当初に遊んだプレイヤーは、まるで『じぶんが誘われてるような感覚』になったはずだ。
そして、ビジョンクエストも忘れちゃいけない。
これ、かなり画期的なシステムだと思った。
めんどくさいシステム説明を、レベル差とか圧倒的な強さでゴリ押す仕掛け。
「最終的にはこうなるよ」っていうのを教えてもらえると、僕みたいなプレイヤーにはありがたい。青写真があれば何をすればいいのか大体わかるからね。チュートリアルとしても優秀だし、劇中劇も仕組みとしておもろい。
うん、やっぱり主人公は僕なんだ。自分自身なんだ。
だからゲームの中で映画を見ることも不思議じゃない。だって僕なんだから。
こういった没入感を高める仕掛けは、のちのペルソナ3に繋がったと思う。
いま調べてみたら、スタッフに橋野氏がいました。鳥肌。
それに他人の魂(ソウル)に不正侵入(ハック)してる感じがオシャレだよね。
鋭く光るシナリオセンス
僕はこういったファンタジー(SF含む)に二段階の想像力が必要だと思っている。
一つは世界設定を考える想像力。どんな設定でどんな暮らしがあるのか。世界自体の説得力だと思ってもいい。
もう一つは、そこで何か起きるのかを考える想像力。後者はファンタジーに限らず、創作全般に必要だと思うけれど。
ハッカーズがすごいのはそれら二つをやってのけたことだ。
シナリオ規模としては決して大事にはしすぎず、考えうる範囲で展開しきる。どこかで”無駄のないシナリオ運び”とか見た気がするけど、まさにそんな感じ。その分、大事な部分をギュッと詰めると、シナリオは短いんだろうけど。
VRが存在していて、そこにはマイナンバーが必要で、個人は番号で管理されていて、何をするにも番号が必要で。
そういう社会において、自陣をハッカーに置くのかぁ。もうワクワクするよね。ダークヒーローな感じがさ。
ランチが言ってくれるように、この街で番号を奪われるのは死活問題だ。
こういう展開の仕方が好き。めっちゃ好き。僕らの想像力の範囲内で、納得感がある感じが好き。それをメインシナリオに組み込んでくれるところが、当たり前なんだけど好き。練り込んだ設定を余すとこなく使ってる感じが。
それだけじゃなくて、ネット社会の闇も炙り出していたのはびっくりした。
発売は1997年。なんとWindows98よりも前!
そんな時代にこの世相を言い当てるのはびっくりだ。
現実を直視せずにネットに逃げ込む若者たちの姿がありありと描かれている。
現実じゃできない格好のアバターで仮想現実を練り歩く人たち。
もはや現実には期待せず、ネット世界に全振りする人たち。
そして、ネットだけに安らぎを求める人たち。
作中のトモコの有り様なんか、まさに現代っ子だ。
パラダイムXをYoutubeやTiktokに代入すれば何も変わらない。
これには僕含め、多くの人たちもドキッとすることだろう。本当に予言通りになったなぁ。
思わずこんなにレビューしてしまうほど、やっぱりパワーを持った作品でした。ちなみに、いつも何も決めずに書いているので、長くなる=熱があると置き換えてもらっても結構です。関係ない話か。
うん、根強い支持も納得だ。当時遊んだ人は革新的だっただろうなぁ。
僕もかなり好きな作品です。周回が早かったから、またやりたいと思えるくらいに。
さて、ここからは不満点です。
ちゃんとあるぞ、天下のハッカーズにも。
不満点
賞味期限切れの設定
怒られそうだとは思うけど、素直な感想です。
近未来を題材にしたSFとなると、時代が追いついてしまうことがある。
ハッカーズなんてまさにそうだ。開発当時の近未来に現代が追いついてしまった。
だから、もはや「近未来感」なんかなくて、ただのファンタジーに成り下がってしまっている。それこそ、バック・トゥ・ザ・フューチャーの「未来」が現代人の「過去」であるように。
僕はそういった部分を足し引きを考えちゃう人間だ。
「ま、言っても97年発売だしな」と思ってしまう。少し容赦しちゃう。
でも、「ソウルハッカーズってのが名作らしい」って言われた人がプレイした時に、どう思うのかっていうところは考えたい。
少なくとも3DSリメイクが出た2012年には、もう「近未来感」が薄れつつあったのではないだろうか。
作品への不満というわけじゃないけど、構造上仕方ないかなぁと思ってしまう部分。
というか、リアルタイムで遊べたユーザーを羨ましく思う。ぐぬぬ。
初心者向けとしての限界
ハッカーズは初心者向けなメガテンだ。
システム周りは本当に快適。プレイフィールでも書いたけどびっくりした。
そしてキャラの説明も早い。メガテン特有のおどろおどろしさがない。明るく爽やかなキャラゲーテイスト。難易度も全体的に低め。
でも、ディープなファンにとっては薄っぺらく感じてしまった。底が浅い。
尖ってるのは設定だけ。それすらも時代が陳腐化させてしまったいま、他シリーズを遊んだファンがハッカーズに唸る部分が少ない気がしている。
例えばペルソナ2とかは、まだ唸れる。というか大爆弾を抱えているから、わざわざ遊ぶ意義があるように思える。
ハッカーズにそういうのを期待していると肩透かしを感じると思う。
サクッと遊べるし、なめらかな手触りだから万人受けはする。
ただ僕みたいに真3から入って、いろんな作品を遊び尽くした果てにたどり着くと、覚える感動は薄いと思う。なんかもっと、ゴリゴリなシナリオが遊びたかった。
シナリオは全体通して75点が連続する。別に悪くないけど、特段訴求力も強くない。やめ時がいくらでもあったゲームだった。
「じゃあゲームとしては?」と言われると、それもそこまで。
ハッカーズが優秀なのは、SFCのメガテンシステムをブラッシュアップし切ったところにある。
僕の感動は真1から続いたシステムへの不満から来るものだ。
「ペルソナ5とハッカーズ、どっちが優秀なUI?」なんて馬鹿げた質問は誰もしないだろう。
演出で誤魔化してはいるけど、やっぱり6人バトルは面白くはないし、前後列の概念はいらない。嫌いじゃないけど、現代の感覚(中高生を想定)からすると「ナニコレ?」ではあると思う。
入口がハッカーズであれば、挙げた不満点の多くは気にならないと思う。
みんなが最高傑作にあげる理由もわかる。
でも、今更遊んでみた結果、粗は見えてくるなぁと思った。
ゲームとしては物足りないし、シナリオ展開はパンチが足りない。システムの古臭さも否めない。
誰も言わないから、僕が代わりに言っておく。
レトロゲーに両足突っ込んでる。現代人(中高生)が遊んでも面白くないかも?
総評
ハッカーズを遊んだことで、デビルサマナーシリーズを見直すきっかけになった。
やっぱりいいよねぇ、探偵物。というか裏社会か。最高だよ、この雰囲気。
葛葉とかレイとかキョウジとかもっともっと擦ってほしい。
使い倒してほしい。ああああああああ、ライドウが遊びたい!
外伝に逸れた時にお祭り感が増す感じが好きなのよね。
ただ少し疑問なのは、「ここからどう展開させるつもりだったのか」っていうところ。
多くの媒体が口を揃えて「ハッカーズは初心者向けだ!」って言ってる。
でも、そのあと何を遊ぶべきなの?
メガテン本編は真3からプレスターンで、ペルソナは独自システム。
ハッカーズで得たノウハウを使うには、デビサマ1かSFCメガテンに遡るしかない。戻ったところで待ってるのは「コレジャナイ」感だ。
入口で大きく集客した割には、その出口を見失っているような気がした。
というか、そんな感じがありありとする。
このシステムとかこの感じでリバイバルしたら、それはそれで大コケしそう。根強いファンがいるIPだから、アトラスも余計な一手間を加えられなかったんじゃないかなぁ。
正直に告白すると、今回のプレイは”次”のための通過点でした。
さぁ、どんなお話なんだろうなぁ。
¥2,000で買えるPS版じゃなくて、わざわざ¥8,000近く払ったんだぞ、ハッカーズ2。
僕にアトラスの意地を見せてくれ。
ハッカーズ2のレビューもお楽しみに!
ハッカーズ2をクリアしました!
デビルサマナーはこちらから!