見出し画像

泥棒が入った日

子供心に怖いものはたくさんありますが、私は誘拐と泥棒が恐ろしかった。

自分自身の誘拐ではなく、弟が誘拐されることを考えては夕暮れ時にガクガク震えながら弟の帰宅を待っていました。

夢の中では何度も泥棒に遭遇しました。大声で助けを呼ぼうとしても一切声がでない、逃げようとしても全く走れない…目が覚めるとうつ伏せに寝ていてドキドキの心臓が圧迫されている。心臓を圧迫したら怖い夢を見るという法則を発見して、大人になった現在でも気を付けています。

そんなとある日曜日、ついに中薗商店に泥棒が入りました。ほぼ毎日営業していた店でしたが、この日は親戚宅での「おしょい」(親戚や知り合いが集まりごちそうを食べる)があり、そういう時には店を閉めて家族で参加することが、優先順位上位なのです。

おしょいが終わり、早めの夕方に帰宅して母は当たり前のように店を再開し、私は縁側でキャプテンの単行本などを読んでゆっくりしていました。と、祖母の呼ぶ声が聞こえ祖母の部屋へ行ってみました。おしょい用から自宅用のラフな服に着替え終わった祖母が困ったような顔をして足元を探っています。

「なんか、足が痛いんだけど」

ほぼ視力のない祖母の足元にはガラスの破片と血まみれの裸足が…!!瞬間的に事態を把握できない小学生はとりあえず大きな声を出して祖母がガラスの破片に触れないよう動きを止めました。そしてサッシ窓に目をやると、鍵部分のガラスが破れて穴があいていました。

ま、まさか…

何かの間違いじゃないのか、ばあちゃんが鍵を開けたら何かの反動でガラスが割れたのじゃないのか、いやいや元々割れていたんじゃなかったっけ、などと目の前の現実を避けよう避けようと考えを巡らせていました。

お母さんを呼んできて!

異変に気づいた祖母の一言で、私はやっと母を呼びました。

何気ない日曜日の夕暮れ。はじめて見る私服警察とお巡りさん。サザエさんどころか、びっくり日本新記録やすばらしい世界旅行をテレビで楽しむ時間もないほど、中薗商店は厳戒態勢でした。テレビドラマで見たことのある「指紋ポンポン」も間近でみてしまいました。近所のお客さんはふつーに来て、母もふつーに接客してましたけどね。でも、私だけは(たぶん)、

つ、ついにこの日が来てしまった…

と、不安いっぱいマイナス思考民族に頭を征服されていました。

泥棒と誘拐!!

これで、近いうちに弟が誘拐され、身代金を要求される。また警察がやって来て電話の逆探知をする。ああ

犯人の指紋を特定するため、家族全員の指紋もとられました。「これで将来悪いことをしたらすぐ捕まるな」という、警察ジョークがさらに私の不安を増幅させます。あの時の指紋はいまも警察データベースかなんかに保存されているのだろうか…

結局、弟はオジさんになった現在まで一度も誘拐されることなく、私もデーターベースで検索されることなく、泥棒も数週間後には捕まり警察に連れられて謝りに来たそうです。父の背広の内ポケットに入っていた5万円はかえっては来ませんでしたが。

それ以来、少しだけ防犯を工夫した中薗商店には再び泥棒が入ることはなく、火事や地震・雷などの災害にもみまわれませんでした。水害はちょっとだけありましたので、オヤジ被害とともにまた別の機会に紹介します。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?