第11話『正しい距離』

 行きと帰りで道のりにかかる時間が違うのは何故かと考えた人がありました。
 足取りが重かったり、困難に見舞われる時と、意気揚々と進む時には、実際に進む距離も違うのではないかということです。
 確かにかつて東洋では、土地を治める神の機嫌次第ということがありました。
 万物の創造種が多くの事柄を担っている地域では、それは概ね悪魔の気まぐれの結果でした。
 本当の正しい移動距離を計測するための距離計が工夫された時代もありました。状況に応じて距離を加えたり少なくしたりするための歯車が加えられているものです。
 非常に珍しい品ですが、大英博物館をはじめ、幾つかの博物館に収蔵されているので、目にする機会もあることでしょう。
 距離計の技術は、羅針盤と同時に東洋から西洋に伝わりました。西洋においても非常に精巧に複製されはしましたが、意味不明の道具としか考えられていませんでした。
 西洋では当時既に、悪魔や古い者たちとの邂逅は、ただちに命に関わる危険な事柄で、神の加護を得られてこの困難を脱し、人生を再び平穏に過ごせると感じた人にとっては、その時に移動した距離などとても瑣末なことでしたし、この様な不幸なできごとは、二度、三度と繰り返さない様に注意する様な種類の事柄だと考える人は居ませんでした。
 東洋では今も、位置関係や場所の様子などから様々なことを読み取る技術が使われていますが、この距離計が必要になるほど土地神などの影響が強い事態が聞かれなくなって、はや数百年が経つと言われています。

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