第55話『蜜蜂の全て全ての蜜蜂』

 ある朝、養蜂家は蜂がどこにも居なくなっていることを発見し、半ば自棄になりながら、周囲を探してうろうろしていました。
 蜂が二度と、帰るべき巣箱に戻ることがないことは薄々感じていました。
行く先々、どこに行ってもこれっぽっちも蜂の姿を見ることができませんでした。
 一日探し探し回ったものの、何も見つけることができなかった養蜂家が、ため息をついてうつむいていると、何かの大きな影に自分が覆われていることに気が付きます。
 恐ろしくなって身動きができなくなった養蜂家の頭の中に、なんとも言い難い調子の声が響きました。
 それは、多くの時代の多くの蜂の絶滅や盛衰、様々な巣別れと蜂同士の小競り合いについて、あらゆる時間のあらゆる順序を越えて、蜜蜂をめぐるあらゆることを養蜂家に伝える声でした。
 養蜂家は、自分の蜂が居なくなったのは、蜜蜂という生き物が存在していることそのものに関わるあり得ない間違いで、全くのとばっちりなので、早晩どうにかなるだろうということを理解しましたが、実際に蜂の姿を見るまでは、ずっと蜂箱の前で寝起きしていたそうです。

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