映画を撮る気になった映画監督が居て、あれこれ話をしているうちに、映画を撮影する段取りが始まった。思いつきから衝動的にスタートしているので、そもそも予算というものがない。
中学校が冬休みに入った瞬間に、一気に撮影する方向で、準備が進んでいる。監督のやる気がいい感じなので、あろうことか、いい大人が全員手弁当で集まりそうになっていたり、そもそも手弁当前提だったりするので、少し焦っている。
時間は簡単に経つし、とにかく撮影をすること以外には、なんの目処もないので、とりあえずシナリオ未満のものを世の中に放り出してから、何かを考えてみる、フルオープンな試み。
プロジェクトへの参加や、プロジェクトへの支援も、絶賛受け入れます。
冬の昼間ひとりの小僧がプロジェクト
『題未定』
登場人物
レイチ 中学一年生男子
レイチの父 レイチの父
ヤスコ レイチの父のイトコ。近所に住んでいる。
大学は東京だったので、ばぁちゃんの世話にもなっている。
ばぁちゃん レイチの祖母。父の母。東京在住銀座で飲み屋経営。 レイチが「ばぁちゃん」と呼ぶと「チエちゃん!」と訂正する。ヤスコは心得ており「チエちゃん」と呼んでいる。ばぁちゃんのばぁちゃんは氷見出身。
レイチが通りかかる場所の人たち。
歩くレイチと出会う人たち。
近所のジーノさん
肥料、農業資材店。森捨商店の純ちゃん
植木屋の山﨑さん
レイチの父の友人のテスラ缶をくれるおじさん
たまたま散歩していたレイチの父の友人
日本語字幕が必要なほど、強烈な氷見弁の人々
場所。富山県氷見市。
氷見駅から10kmほどの場所と路上。氷見駅周辺。
#冬の明け方・レイチの部屋
部屋で眠っているレイチ。
戸が開く気配。
レイチの父の声。
父の声「おい、おいレイチ。レイチ。レイチ」
目を開けないまま、もぞもぞと動き、返事をするレイチ。
父「ばぁちゃん、危ないらしい。」
レイチ「(もぞもぞしたまま)うん。」
父「おとうちゃん、ばぁちゃんのとこ行くから。」
レイチ「(あくまで起きない)東京?」
父「うん。とりあえず、また連絡すっから。」
レイチ「(目は開かない)うん。」
去る父の気配。
レイチは起きない。そのまま再び毛布をかぶって眠りに落ちる。
父が玄関から出ていく気配があるかもしれない。
#午前10時40分頃・レイチの部屋
レイチはまだ部屋で眠っている。
携帯電話の着信音。
手を伸ばして応答するレイチ。
レイチ「はい。ああ、おとうちゃん。」
父の声「うん。ばぁちゃん、死んだから。」
レイチ「え。」
父の声「うん。このまま葬式になるから。」
レイチ「あ、俺は?」
父の声「ああ。新潟とか長野とかで大雪で、始発の後は新感線止まってるらしいから、お前、とりあえずそっちに居とけ。開通になったら来い。」
レイチ「うん。わかった。あれ。ずっとか」
父の声「開通したら来い。おばちゃんには言ってあるから。開通するまで、おばちゃんのとこ行っとけ。」
レイチ「わかった。」
レイチ、起きるかと思いきや、再び寝返りを打って、まだ起きない。
玄関が開く音。
女性の声「レイチ、レイチ。」
レイチ、声に反応して「ん?」。
女性の声「いつまで寝てんだい」
レイチ「ばぁちゃん?」
女性の声「チエちゃん」
レイチ「チエちゃん……」
レイチ、飛び起きて部屋を出る。
#玄関
レイチが玄関に来るが、全くなんの気配もない。
レイチ「ああ。」
携帯の着信音が聞こえる。
レイチ、玄関から去る。
玄関の入り口から、去っていくレイチを見ている人影。
#レイチの部屋
携帯電話が鳴っている。
レイチのオバ、ヤスコからの着信。
レイチ、携帯電話に出る。
オバは父の従妹。近所に住んでいる。
レイチ「はい。」
ヤスコの声「レイチ?聞いたよ。チエちゃん」
レイチ「ああ。うん。」
ヤスコの声「新幹線通ったら、おばちゃんも行くから。こっち来とかれ。」
レイチ「うん。」
ヤスコの声「あんた、まだ寝とったん?」
レイチ「ああ。」
ヤスコの声「ネボスケけ。来て、なんか食べられ」
レイチ「うん。ありがとう。」
ヤスコの声「うん。待っとるよ。」
レイチ「わかった。」
ヤスコの声「じゃぁね。」
レイチ「じゃぁ。」
電話を切るレイチ。
モゾモゾと着替え、身支度をする。
#民家の前、玄関の外
それらしい荷物を持ったレイチが登場。
玄関をあけて「こんにちはー」などと挨拶。
そこはさきほど電話をしてきた、ヤスコの家。
返事をしたり招き入れたりするヤスコの声なども聞こえてくる。
ヤスコの家に入っていくレイチ。
#ヤスコの家の居間。
とりあえず、ヤスコから、軽く食べるものを出されて食べるレイチ。
寒いし、お昼はうどんでもしようよ。などという会話。
ヤスコが、大学は東京に行っていたころ、チエちゃんにはすごく世話になったという話なども出る。
そうこうしているうちに、ばぁちゃんの気配を感じて、レイチはいてもたってもいられなくなり、冬の道を徒歩で氷見駅に向かう。
氷見駅までは10kmほどある。
#冬の氷見の路上
道の途中で、様々な人に会うレイチ。
レイチがすれ違ったり話したりするのは、町の変態たちや、何を言っているのかわからない、強烈な氷見弁の人たち。
レイチはなぜか、会った人からなにかを受け取る流れで、出会った人と分かれ、駅に向かって歩き続ける。
ばぁちゃんの幽霊は時々登場し、ばぁちゃんの気配は、あちらこちらでする。
レイチは時々、ばぁちゃんと会話する。
ばぁちゃんは、銀座で飲み屋をやったりしていて、とにかく都会が好きで、田舎については文句しか言わない。
レイチが「ばぁちゃん」と呼ぶと、「チエちゃん」と名前で呼ぶ様に訂正する。平常の感じに、いきなり凄まじい鋭さで訂正が入る鮮やかさが、素人ではない。
近所のジーノさんに声をかけられて、軽トラで駅に送ってもらうことになるが、軽トラがエンスト。
ジーノさんは電話して救援を待つことにする。
ジーノさんは、救援に、ついでに送って貰えばと言うものの、レイチは辞退する。
流石に寒いぞということで、ジーノさんからドカジャンを借りる。
森捨商店の前で、父の又イトコの純ちゃんに声をかけられる。
鼻水出てるし、ちょっとあったまって行けと言われるものの、辞退。
純ちゃんは、精米器の修理業者を待っているので動けない。
自販機の暖かいコーヒーをもらう。
とおりかかったものの、急いでいるので、とりあえずテスラ缶をくれる、父の友人の氷見弁のおじさん。
なん、わからんけど、これでいいがになるらしいから。寒さもしのげるかも。
普通に散歩している人と出くわして、しばらく一緒に歩いたりもする。
例えば誰かと話しながら歩く。しばらく一緒にあるくものの、相手は普通に散歩コースをいくので、分かれ道まできたらレイチとは別の方向に行く。それまで話していたりしたので、レイチは無駄に寂しい気がする。
昔、ばぁちゃんが富山に来た時に、一緒に遊びに来た公園。
名前の訂正ネタは入る。
ばぁちゃんにとって、富山は、ばぁちゃんのばぁちゃんの家のある田舎。
ばぁちゃんは、ここが田舎すぎて、全然好きじゃないと言ったレイチの記憶。
レイチは、寒いやら情けないやら、よくわからなくなって、何か叫び声をあげて暴れる。
寒い中で、強烈な氷見弁でP.D.C.A.を回す話をしている人々。
あこんとのオババに、あんたなんPばっかりで、全然DもCもないなかいね言われて、はやびっくりしてのう……。
レイチが居ないことに気づくヤスコ。
ヤスコのところに、森捨商店の純ちゃんから電話。
店の前を歩いていた。氷見駅行くってことだったので、もう半分ぐらい歩いとることになるね。など。
ヤスコは、車でレイチを追いかける。
#氷見駅前
レイチの声、新幹線が不通になっていることを再確認している駅員との会話。
トボトボと駅から歩いて出てくるレイチ。
ヤスコ「レイチ、レイチ。」
レイチ「おばちゃん。」
ヤスコ「どうしたん。」
レイチ「ばぁちゃんが。」
ヤスコ「うん。」
レイチ「新幹線動いてないって。」
ヤスコ「動いたら、一緒に行こう。チエちゃんのとこ。」
レイチ「雪ないやん。どこにも」
ヤスコ「新潟とか、長野はすごいらしい。」
レイチ「いつ動くんけよ。」
ヤスコ「動いたら行こう。」
立ち尽くして俯くレイチ。
ヤスコ「帰ろう。寒いし、うどんでも食べよう。」
レイチ「うん。」
ヤスコの車の後部席に乗り込むレイチ。
そこにはすでに、ばぁちゃんが乗っている。
ヤスコの車が出発する。
#車の中・後部席
ヤスコに気づかれない様に、小声でばぁちゃんに話しかけるレイチ。
レイチ「来いって言ったやん。」
ばぁちゃん「言ったっけ?」
レイチ「言った。」
ばぁちゃん「ふぅん?」
レイチ「言うたから駅に行ったのに」
ばぁちゃん「(褒める)そうか。上等だ。」
レイチ「(不服げ)上等……。」
#車の中
ヤスコがルームミラーで後ろを見ると、レイチが眠っている。
少し微笑むヤスコ。
#車の中・後部席
レイチは、ばぁちゃんに寄りかかって眠っている。
ばぁちゃんの手が、レイチにかかっている。
終わり