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20-対人関係の基本スキル③「観る」

「場をみる力」の前段である1対1の対人スキル「聴く・訊く・観る・応じる」。対人関係の基本スキルについて述べていると「カウンセリングやコーチングでも傾聴や訊き方はやっているが、大勢を一同にという場面ではどうするの?進行的に何を取捨して、一人も全体も同時に大事にするコツやポイントのようなものってあります?」と言われる。それに関していえば、圧倒的に「観る」から判断することが多くなる。5感の中でも視覚の情報処理は約80%を占めるとも言われるように、言語化が追いつかないほどのエッセンスがあるが、今回は複数人が同時多発的にリアクションが出てくる「場」の進行に通じる部分について述べていきたい(それらは1対1の対人スキルでもほぼ共通している)。

※「応じる」については対話の補助的位置付けとして捉えており「聴く・訊く・観る」のいずれのコラムでどのように「応じる」かについて語ってきたため、今回を持って対人関係のスキルについて述べることは一区切りにする。

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・何を観る?

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「観る」は非言語メッセージをキャッチすること。口調や表情、態度は言葉通りかもしれないし、言葉と裏腹な態度の場合もある。喋らない人がいても、それは「無言」というメッセージであるし、表情、態度から「無言」が伝えていることもわかる。「観る」は、同時に複数の反応がうかがえるため、場の深まり、転換点、確認のポイントなど全員一致でないにしろ、かなりの高確率で全体の進行の舵取りが落ち度のないものになる。

・GOの合図(うなづき)

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私は海外や外国人相手のファシリテーションを手がけたことはほとんどないためわからないが、日本の場では言葉で主張することのハードルはかなり高い。そのために安心安全なワークショップのデザイン設計が重要になってくるのだが、どちらにせよファシリテーターが無理強いに「何か喋ってください」というのは、逆効果になる場合が多い。

そのため、「みなさんの反応を観て進行していきますので、OKだったらうなづいたり、違うなと思ったら首を傾げてください。頑張ってキャッチします(笑)」と冒頭によく伝える。それを何度か丁寧にやると、多くの人が非言語ながらメッセージを発してくれるようになる。

非言語メッセージに頼る場合には、必ず全体が3層くらいに分かれていると理解している方がいい。「積極的で肯定的な人(2割)」「流れに任せる人(6割)」「コミュニケーションが苦手だったり、場に馴染めない人(2割)」。最初に何度か反応を促すことで、グラデーションにあたりをつけるといいだろう。

全体の進行で「次に行けるな」と思う時は、「流れに任せる人」の数割がうなづいてくれていることや、「コミュニケーションが苦手だったり、場に馴染めない人(2割)」の目を観た上で伺うと小さく反応はあるため、それで判断する。(もちろん、あくまでもファシリテーターの「いけるな」という感覚頼みなのは否定できない)

・ストップの合図(沈黙と停滞)

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ファシリテーターとして「沈黙と停滞」は遭遇したくない場面の一つであろう。できるなら参加者全員が楽しく、前向きに手も声を動いて参加してほしいものだ。しかしながら、「沈黙と停滞」はかなりの確率で出てくる。そんな時に、無理に明るく振舞ったり、気にせず進めてしまうと「あ、この人、観てくれてないんだなぁ(向き合ってくれないんだなあ)」と参加者とファシリテーターの距離は離れてしまう。

ファシリテーターが都度「どうでしょう?これでいいですか?」と確認した時に沈黙や無反応が起こったとしても、慌てず焦らず「10秒待つ」が原則だ。10秒、沈黙を味わいながら全体を眺め回すと、大抵、肯定的な人が何か発してくれる。ファシリテーターはそこですぐに食いつかず「他にはどうですか?」とさらに待つと、徐々に反応が広がる。反応の広がりを感じられたら、その中で判断し「じゃあ、こんな風に進めていくことでいいですかね?」と伺うと、当初の沈黙と停滞はうなづきに変わることが多い。

もちろん、待って、促し、沈黙がそれでも続くのであれば、そもそも場の設定が違っていることが多い。こういう時は大胆にファシリテーター自らちゃぶ台をひっくり返す気持ちで、進行をガラリと変えざるえないであろう。

・転換の合図(無表情・手元遊び・上の空・首傾げ)

もちろん、沈黙が続いているだけで、進行をガラリとかえることはない。あくまでも参加者からのわかりやすい反応があってからこそだ。

「沈黙と停滞」がある中には必ず「無表情・手元遊び・上の空・首傾げ」といった反応が出ている。ファシリテーターには一番怖い反応をしている人たちであるが、逆にこれを「議論の展開のキッカケ役」として観るととても優れた合図を発していることになる。スライド2

ただ、これらの反応を出している人は、そもそも発言しようとはしていないため、オープンクエスチョンで「何かありますか?」「どうしましたか?」と聞いても「別に…」と返されることが多い。そのため、クローズドクエスチョンで「話の流れをつかむために頭の整理をしています?それとも出ている意見や流れに対して疑問や質問があります?それかそもそも違う意見を持っていたりします?」と訊くと相手も答えやすくなる傾向にある。

こういった反応をしてくれている人は、なんとなく場の流れに身を委ねている人たちの「実は、、、」な気持ちを代弁してくれていることが多い。

「頭の整理をしている」ということならば、今までの流れやどういったことで議論を交わしているかといったことを全体に伝え直す機会、疑問や質問であればきっとわからない部分が他の人にもあるだろうし、そもそもの違う意見であれば、新たな視点を促してくれる機会となる。

このように無言のメッセージを発してくれる人たちを、立ち止まることのシグナル役と捉えると、ファシリテーターの心の余裕も生まれ、同時に場全体の受容感も高まり、結果、良い場になることが多い。

・「聴く」を観ることで得られる合図

今まで述べてきたことは、比較的沈黙ベースで発する非言語メッセージの捉えた方であったが、言語メッセージへの真意を表情・態度・仕草を観ることによって、ある程度絞ることはできる。また、それ以外でも出てくる言葉や発言する単語の数を「観る」ことによって、発言の趣旨ではなく「場の変化」を感じられることも多い。

これもファシリテーターの数だけ、各々にキャッチしているものはあるだろうが、考えられる「聴く」を観ることで気づける合図についてまとめてみた。

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もちろんこれ以外に放つメッセージはあるだろうが、こちらの領域についてもカウンセリングやコーチングの領域の方が専門だと思うため、これ以上の言及は避けたいと思う。ただ、ファシリテーターも場を観る時に「言っていることと態度がどこかちぐはぐしている」と言った状況など、「観る」と「聴く」の相互作用の状況には敏感にならざる得ない。

・まとめ(場の合図)

視覚情報は数多あるため、すべてを言語化することはとても難しい。そのため、「場」の進行に関係する部分を中心に述べてみた。これで対人スキル「聴く・訊く・観る・応じる」の説明は一区切りつけたい。

ファシリテーターに求められる基本スキルとして「場をみる力」に不可欠な一人一人の意見・反応・雰囲気を的確にキャッチしていくためには、何を訊き、どう聴いて、どこを観る、と言ったところに尽きていく。

それを一つ一つ書いてきたが、度々書いてあるようにファシリテーターは自分なりに場の進行の判断基準として「合図」を持っている。「合図」はファシリテーターのキャリアや個性に応じて変わるため、一元化はできないが、私なりの「合図」は一連のコラムで幾度となく表現し、何をもとに動的判断をしているか語ってきたつもりである。

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そのようにして「場をみる」ことによって、出てくる反応や意見を取りまとめ、進行に役立てていく「場を見える化する力」について触れていきたい。

ファシリテーターにとって、見える化は避けて通れないくらい重要なスキルであるが、逆に手法に囚われてHOWTOばかり追いかけてしまう傾向にある部分でもある。

何をみているからこそ、どう書くか(描くか)、いつ用いるかまで含めて、次回は述べていきたい。





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