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25-場を転じる(その2「在り様」)

ファシリテーターの役割を「段階ごとに参加者の状況をみて、確認し、ルートを示し(時に変更し)、歩調を合わせて進んでいくこと」と伝えてきたように、段階を変えていく仕掛けやゴールに向かって歩みを進めていく促しは自覚的に操れなければならない。それを「転じる力」と表現しているが、今回は「(参加者の)在り様」を転じさせる試みに言及していく。


・在り様(ありよう)を転じるとは?

幾度となく述べているが、ワークショップは程度の差こそあれ、普段とは違う時間を作ることが求められる。限られた時間の中でいつもとどう違う時間をつくるか。前回のnoteでは「気分を転じる工夫」からいつもと違う振る舞いを促すことを述べたが、今回は立ち振る舞いそのものを変える参加者自身の「在り様の転じ方」について言及したい。

と言うのもワークショップのような「いつもと違う時間ですよ〜」感は逆に参加者の心身のガードを固めることがある。そのためにアイスブレイクで徐々にほぐしてリラックスしたコミュニケーションがうまれるようにするわけだが、それとは違うやり方や角度で、”その人らしさ”(自覚的な自分、無自覚な自分も含めて)が伺えるようなコミュニケーションを創るのが「在り様の転じ方」だ。

・背景を表出させる

初対面同士の場では、どうしても世間話的なやりとりから始まることが多いし、情報的な自己紹介で多くの時間を割くことになる。こういう場合、お喋り上手であったり社交的な性格の人が、目立っていく傾向になるのだが、その構造に陥らない仕掛けがあれば、他の場にはないコミュニケーションがうまれる場になりやすい。

例1).「持ち寄る」。

チェックインの自己紹介の時に、仕事の道具、流したい音楽(始めて自分のお金でかったCDや曲)、料理など、個人の嗜好や仕事での価値観、性格などが滲み出る「ナニカ」を持ち寄ることで、その人らしさが喋る以外でも伝わる。手ぶらであると、喋らない人の第一印象は、寡黙・真面目・実は反対派?などと思われるが、「持ち寄る」と”実はすごく熱心で想いを秘めている人”というような情報が伝わるかもしれないし、”やはり、貴重面な人”と伝わるかもしれない。「持ち寄る」ことは、喋るだけでは伝わらない奥行きと蓄積を持った情報が見えてくる。

また「持ち寄る」も角度を変えれば、土地の隠れた背景を表出するキッカケにもなる。農業中心の自治体で六次産業化を検討する業務の際、地域の”らしさ”、ブランディングの素になるキーワードはどれか探す際も、一品をそれぞれ「持ち寄る」ことで、話し合いでは見えてこない要素を見出すことができる。

郷土の魅力&味のリサーチプロジェクトにて、毎回季節の一品を持ち寄ってもらった。
持ち寄った料理を分類し、その土地らしい料理コンセプトを導く。


例2).「実は〜です」。

これもチェックインの時の工夫。自己紹介のとき、30秒〜1分自己紹介を喋ってもらった後「〜な私ですが、実は〜です」という工夫を入れてもらうようにしたりする。「実は〜です」という落差のみならず、それをどう伝えるか工夫するその人自身の思考も垣間見れる。また聴き手にとっても「実は〜です」は、相手のOKゾーンにアタリをつける点でも有効となる。冒頭で「実は1ヶ月で10kg太りました」といった人は、体重の話題がいける人かもしれない。

他にも参加者がサークルになって、とにかく早く一言で自己紹介を(何回も)回していく「3秒自己紹介」は、思ってもみなかった自分の紹介を言うことになるものや、A4を4分割して自己紹介キーワードを書く「四つの窓」と言う定番のアイスブレイクがあるが、そこを一つだけ嘘を入れる「嘘つき自己紹介」にすることで、振る舞いなどを通して言葉以外でその人らしい考え方が見えるやり方もある。もちろん、全て安心・安全な場を担保することがポイントである。こういった背景が表出されるチェックインやアイスブレイクをすることで、コミュニケーションに慣れた人や社交的な人ばかりが目立つ場や、定型的な自己紹介で終わってしまうことを回避する。

・マインドセットで非日常な自分に出会う

一般的なワークショップは”一定の型”があるため、慣れた参加者はその既視感から、知らず知らず「ワークショップ用の私」を出すだけにとどまることがある。その落とし穴にはまらないその場合、錯覚的な世界観に没入させることで、いつもと違う行動や思考を促し「こんな自分(の思考)があるんだ」という気づきを後から自覚化させる”裏狙い”を重視したワークショップもある(かなり変速的で危険性も高まるが)。

そんなワークショップを巧みに使いこなすには、マインドセット(物の見方、考え方)や、プログラム中の世界観の統一性などが重要になってくる。冒頭で思考や心理状態を特殊な状態にセットできると、ワークショップ中での参加者の在り様が随分変わる。

しかし、これはいわばマインドコントロールになりかねない。ワークショップは体験を伴いながら、講義も行うので、心身に影響を与えることがとても多い。そのため、特殊かつ変則的なワークショップを行う際は最後に必ず種明かしを行い、セットしたマインドを解くこともファシリテーターの心得として大切である。マインドセットを重視したワークショップは依存的な関係性を構築してしまうので、そのあたりは細心の注意を払いたい。

その裏目的に満ち溢れたプログラムづくりの巧み者は、コモンズ・デザイナーの陸奥賢さんだ。

(陸奥賢さん/コモンズ・デザイナー)

陸奥さんはコモンズ(誰のものでもなく誰のものでもある)デザイナーとして「コモンズは異質と出会う場でもある」ことを大切にしており、「オワコン(終わったコンテンツ)のリノベーション」を得意としているだけあって、時代が手放してきたコンテンツの魅力を再構築し、異質との出会いをもたらすプログラムが多い。

直観讀みブックマーカー」というプログラムを例に挙げる。「本との偶然の出会いが現代は希薄になっている」という問題意識を徹底的に掘り下げた結果、誕生したプログラムである。

と言っても、陸奥さんはこの課題意識は冒頭では一切言わない。「オリジナル栞を活用した「本占い」をしましょう」という体裁である。むしろマインドセットを奇天烈にすることで、参加者の意識をヘンテコ本占いの世界へと導く。

「本には神様が宿っており、なんでも知っています。なぜなら日本は古来より八百万の神がおり、あちこちに宿っていると言ってきました。ですので、今日は本の神様を降臨させて、色々教えてもらいましょう」と不可思議な講釈から始まる。進行中も「真剣にお祈りすれば、必ず答えをアドバイスしてくれます」と何度もいい、オリジナル栞に「愛ってなんですか?」「私の遺言を教えてください」「誰にも言えない悩みへの答え」と描き、参加者全員でお祈りポーズを行い、目をつぶって開いたページの一文を指差し、その言葉がどういう啓示なのかをグループで語り合う。

選んだ本を頭上に掲げてお祈りする

参加者は完全に奇妙な集まりとなった自分たちを笑いつつも、とは言え「これはこういう意味では?」「何、この文章?」という風に本の新しい遊びに興じていく。一通りすむと陸奥さんは結びの話に「あくまでこれは遊びです」と占いの世界観を解体し「普段読まない、手を取らない本を今日は開いてみた人は多いのでは?偶然の本の出会いが少なくなった時代です。本屋や古本屋などを改めて楽しむ事も大切に」と締めくくる。その時、参加者は「なるほど」と我に返り、裏狙いに考えを巡らせながら、帰路につく。

陸奥さんの他のプログラムも裏狙いを巧みに想起させる特殊なマインドセットや世界観が施された変則的な作りになっている。マインドセットや世界観を固め、イリュージョン(錯覚、幻覚)に導き、参加者の在り様を転じさせるやり方は、異体験から新たな気づきやいつもと違う知覚が起動する。場からうまれる言葉づかいや振る舞いをそもそも変えるようなインパクトが欲しい時に用いたい。

なお、参加者をマインドセットしイリュージョン(錯覚、幻覚)性を高めるワークショップは、ファシリテーターが率先して錯覚・幻覚の住人になっていく振る舞いが求められるため、自身のキャラクターに合った(もしくは合わせられる)マインドセットプログラムかどうかの見極めは重要である。

なお、私はそれほどこういったイリュージョン性高くマインドを変えるやり方は得意ではないが、いつもと違う眼差しで世界を見つめるワークショップによって、参加者の知覚を変えるやり方をよく手掛ける。(例:食べられる野草を探し、その場でお茶や料理に変えていく「ワイルド午後ティー」

・関係を変えて、関わりを変える

在り様を転じるにあたり、その人自身を形成する「背景」を活用したり、「マインドセット」で全く違う世界へ誘ったりするわけだが、3つ目は人と人の間で形成されている「関係」を変えることで、その人とのコミュニケーションが普段と変わるやり方もある。

売る買う、教える教わる、支援する支援される、親と子といった社会的な関係が強固なものを変えることで在り様がいつもと変わり、違和感や新鮮味から、関わり方が変わる。マインドセット同様、チェックインやアイスブレイクで活用するというより、ワーク全体を通して常識や固定観念を揺さぶる仕掛けである。

例1).買い物行為を売り手と買い手の共犯関係に仕立て上げる「ツレヅレ弁当」

市場や商店街で販売しているおかずを、その場でお弁当に「小分け」してもらいながら完成を目指す

数名単位のグループで空のお弁当箱を持ちながら、商店街や市場を練り歩き、買い物をしながら、その場で一品一品を分けてもらい弁当づくりをしていく。一手間かかることをお願いする「買い物」行為は、「買い物」から少し逸脱したコミュニケーションは、売り手買い手の間柄を超えて、どこか共犯性を有した一体感を生む。

例2).親子関係と帰属する社会関係が出会うことでうまれる気まずさを利用した1日食堂「オカンと僕と、時々オトン」

今は離れて暮らす中年息子と後期高齢者の両親の親子関係を編み直す取り組み。

いわゆる昭和の高度成長期を駆け抜けてきた典型的な両親。
中年息子「ボク」は、パラレルキャリアの働き方をしている。
(大学講師、まちづくりプランナー、コミュニティデザイナー)
これは親子関係の編み直しと共に、「ボク」の社会的な帰属関係の編み直しでもある。

教師と学生、クライアントとプランナー、クリエイターの友人といった「ボク」をめぐる様々な関係が
「親子関係」の中で、あたたかく混乱していく。

例3).職業体験イベントを通して親と子の関係を逆転させる「はたら子」

中心市街地活性化として、ニューファミリー層と個人商店の接点づくりを目的に企画した職業体験イベント。

お店の人に、参加者の「こども」は仕事内容を教わり、それを実践する。
その中で、「こども」はプロの職業人となり、親をホストする。
親に料理を食べさせることや、ボクシングトレーナーとして親にパンチを打たせるなど、
そこでは「親子」の上下関係は逆転し、不思議なコミュニケーションがうまれる。

・まとめ

「在り様を転じる」ための工夫や仕掛けを事例を通して説明してきたが、一見するとワークショップの範疇から外れているように見えるものもあるかもしれない。しかし、ワークショップを「一方通行的な正解もない中で、場にいる人たちの相互作用を及ぼしながら、(新しいor今までとは異なる)実感をつむぎだすこと」とするならば、これらの仕掛けが普段の社会から一定の距離をとることや、全く別の社会を一時的にでも創出しており、ワークショップたらしめるコミュニケーションとなっていることは理解してもらえるのではないだろうか。

ワークショップでは場にいる人たち同士の共創を期待されるが、予定調和な展開ばかり続くと無難な結論になることもよくある。それを回避するために、どういった展開を手掛けるかはもちろん重要だが、参加者の在り様を変えてうまれる状況だけでも、十分に意外性は担保できるのだ。

それでは、次のコラムでは、展開そのものをいかに転じるか、次のフェーズにどう行くかという時、最も重要になる発想の飛躍や、アイデアの閃きを参加者に促すコツについて語っていく。

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