15-ワークショップの組み立て方
ワークショップのプログラムを考えるにあたって構成要素を「コミュニケーションの関係・環境・構造・方法」として説明してきたが、そういえばワークショップの基本的なプログラムの組み立て方に触れていなかったため、今回、改めて述べる。
・『ワークショップ―新しい学びと創造の場』(岩波新書) 中野 民夫(2001/1/19)
・『人やまちが元気になるファシリテーター入門講座―17日で学ぶスキルとマインド』ちょん せいこ (著)解放出版社 (2007/02)
この2冊で語られていることを起点としながら進めたい。(ほんとにこの2冊、わかりやすく、大切なことが全部書かれている)
・まず目的、ニーズ、コンセプト。
中野民夫、ちょんせいこの書いている文章を引用しよう。二人とも「まずは目標、目的の設定から」と述べている。(太字は筆者独自の判断)
『ワークショップ』
(「第4部 ワークショップの応用」より P182)
まずワークショップでは、開催の意図や目的を確認し、皆で共有する。そしてスケジュールを確認したり、講師やスタッフの紹介がある。それから、参加者同士が自己紹介やゲーム的な工夫で自然に知り合って緊張をといていく工夫をする。
『人やまちが元気になるファシリテーター入門講座』
(「ワークショップの設計図①ゴールをきめる」より P64,65)
会議や講座を設計するときに、まず決めるのはゴールです。何をめざす集まりなのかを明確にし、参加者と共有すること。すべては、ここから始まります。
それからちょんせいこは目標設定について、少し詳しく言及している。
『人やまちが元気になるファシリテーター入門講座』
(「ワークショップの設計図①ゴールをきめる」よりP64,65)
「具体的な言葉」で、長い文章ではなく箇条書きでゴールを設定しましょう。
私は三つくらいのゴールを設定することを提案しています。一つひとつのゴールは有機的につながっていて、①が達成できたら②、②が達成できたら③、というように連動させます。これだと「最終ゴールは③だけど、今日は②まで行くことができた」とふりかえりやすくなります。
段階的であり有機的なつながりとなった3つのゴール設定は、非常に有効である。3つとも達成する必要はない。最悪1つ目は達成する、という心構えでいることが重要だ。なぜなら、ワークショップは参加者の反応によってどんどん構成を変えていく必要があるからだ。段階的なゴールを持っておくことで参加者目線に立った大胆かつ柔軟な決断が下せる。
とは言え、ちょんせいこと私の考えが違う点は、私はコンセプトは長く詳しく書いた方が良いと思っているところだ。なぜこのワークショップをやるのか、何が原因・課題だと考えているか、そしてどんな着眼点からプログラムを構想したかなど、細かく書けば書くほど、プログラムの構成にきめ細やかさと状況を察知する目が鍛えられる。
さらに二人ともその狙いや目標を導入時点で「参加者と共有する」重要性を語っているが、中野民夫は更に以下の5点を押さえておくべき点にしている。
『ワークショップ』
(「第4部 ワークショップの応用」より P182,183)
創造的な会議の「導入」にあたる部分では、
①招集した人から、その日の会議の意図、目的、ゴールを確認する。
②それを参加者全員で共有する。
③出席者の確認。皆のことを知らない人に合わせて、全員が一言自己紹介など。
④何時までやるのか、終わりを明確にする。
⑤アジェンダづくり。討議する項目とその順番、適切な時間配分を行う。
特に④⑤にある通り「何時までやるのか」「何をやるのか。順番とともに」としているように、「目的・ニーズ」「コンセプト」「達成目標3つ」が決まれば、次にタイムスケジュールやアクティビティを決めていきたい。
・タイムスケジュールとアクティビティ
中野民夫はワークショップの基本構成を「導入→本体→まとめ」もしくは「起承転結」としている。少し注意してほしいのは、アクティビティ一つひとつにも「導入→本体→まとめ」といった流れがある、という点である。
『ワークショップ』
(「第3部 ワークショップの意義 4、プログラムの基本構成」より P144)
大きく分けて、「導入(つかみ)」→「本体」→「まとめ」という構造が最もシンプルで一般的だ。起承転結の四段階で考えてもよい。またひとつのアクティビティの中にも同じような流れを含むし、数日にわたる場合は、一日ずつにこのような流れは必要だ。
また上記の説明どおり、数日や数回に及ぶ連続講座も「導入→本体→まとめ」という大きな区切りから構成を捉えることは、1年間のプロジェクトでも同様に読み取れる。プログラムの基本構造を理解しておくことで多様な領域やプログラムに応用できることとなる。
さらに中野民夫は引用ではあるが、基本構造を図解化したものを紹介し、「導入→本体→まとめ」の狙いを説明している。ちなみにアクティビティの考え方についてはちょんせいこの「ワークショップの中で取り組む活動のひとかたまりをアクティビティと言います。一つひとつのアクティビティは関連していて重ねるたびにゴールに近づいて行きます」の説明が最もわかりやすい。
上記の基本構造については「導入」を「チェックイン」、ふりかえりを「チェックアウト」と表現する人もいるし、最近では後者の方が一般的になっているため、私も「チェックイン(→アイスブレイク)→アクティビティ(→アクティビティ②)→チェックアウト」と基本構造の考え方を採用している。
なお、導入(チェックイン/アイスブレイク)の重要性は、中野民夫、ちょんせいこともに詳しく述べているが、特にちょんせいこのまとめが端的かつ秀逸なため、紹介したい。
『人やまちが元気になるファシリテーター入門講座』
(まずはアイスブレイクから始めましょう アイスブレイクの効能 P26)
冒頭のアイスブレイクでは、次のことをおこないます。
1、参加者が安心して自分を出せる、リラックスした場の雰囲気づくり
2、参加者同士のコミュニケーションのウォーミングアップ、トレーニング
3、ゴールの共有(スタート地点の共有)
これらを通じて、
A、波長合わせ……参加者の動機とヤル気を合わせていく
B、市場調査………参加者のモチベーションや場の力、ニーズをつかむ
C、信頼関係構築…参加者とファシリテーター、参加者同士が共に歩むための関係やルールづくり
をします。
これは先述の「段階的な有機的なゴール設定」に呼応していると考えた方が良い。ワークショップは常に動的判断で構成を変える対応が求められるので、プログラムデザイン面でもファシリテーターが状況を察知できるポイントを随所に仕込むのだが、序盤は特に重要だからだ。
・ワークショップは「流れ/山登り」で考える
以上が、ワークショップのプログラムの基本構造の考え方だが、ちょんせいこも中野民夫も組み立て方の注意点を「流れ」と表現して以下のように述べている。
『人やまちが元気になるファシリテーター入門講座』
(言葉の説明 アクティビティ P22)
あるところで盛り上がったアクティビティを違うところでやってみたら、全然盛り上がらなかった。「何が悪かったのかしら」という相談をよくいただきます。いろいろ原因はあるかもしれませんが、最も敏感になるべきことは、どのような流れのなかで、そのアクティビティは仕掛けたのか。
『ワークショップ』
(「第3部 ワークショップの意義 4、プログラムの基本構成」より P144)
プログラムを構成する個別のひとまとまりの要素は、分野によって「アクティビティ」「エクササイズ」「ワーク」「実習」など様々な呼び方がなされている。これらを有機的なつながりと流れのある学びのプログラムとして組み立てるのが、「プログラム・デザイン」だ。
この「流れ」で考える、というのがプログラムデザインにまだ慣れていない人は難しいと思い「コミュニケーションの構造のデザイン / 方法のデザイン」のコラムを書いたのだが、いかがだろうか。やはり場数で慣れていくしかないのかもしれないが、私はワークショップのプログラムを「流れ」というよりも「山登り」でたとえている。
詳しく書いても重複していくため割愛するが、登山で例えるなら、チェックインは「目的とゴールの共有」に加えて「服装や装備のチェック」の意味もある。マインドのみならず、事前連絡の服装や道具などを持参しているかどうかだ。もし揃っていなければ、揃っているレベルに合わせてスタートする。
アイスブレイクは心身がケガしないための「準備体操」と考えればよい。アクティビティも登ぼるアクティビティが終われば登頂や目標達成という達成感を味わえるように工夫はしたい。そして、下山では下山にふさわしいアクティビティも用意しておく。特に下山的位置付けのアクティビティは、気を緩ませるとケガをする恐れもあるし、登頂の余韻を台無しにしてしまうこともあるため、特に慎重に実行したい。
下山すれば、チェックアウトとして、今まで登ってきた山を振り返ろう。「感想のシェア」といった心地よい疲労感と充実感を味わうばかりでなく、「気づきや学びをどう活かすか」といったような家(日常)に帰るにあたっての心構えや、興奮した状態を落ち着かせる「談笑時間」といった翌朝に筋肉痛にならないような心身のストレッチにも気を配れると十分だろう。
・計画に頼りすぎず、道中の出来事、実感を大切に。
とはいえ、あくまでも大切なのは、道中で参加者がどう感じるか、ということだ。最初のアクティビティが予想以上であれば、引き続きその路線で楽しんでいってもいいだろうし(もちろん修正しても良い)、予想以下であればペースを落として今回のメンバーで登れる範囲を楽しむ、という柔軟性が重要だ。
これについては中野民夫も「人事を尽くして天命を待て」と独自の世界観にふさわしい言葉を置いて、以下のように語っている。長いが引用させてもらう。
『ワークショップ』
(「第3部 ワークショップの意義 4、プログラムの基本構成」より P144)
ワークショップは、主催者側の目的やねらいがあって企画されるものだが、意図した結論を押し付けたり、初めから落としどころを決めつけているようでは、よいワークショップとは言えない。
(中略)
健全なワークショップの事前の準備にあたっては、できるかぎり様々な状況を想定し、複数のアクティビティ案を用意するなど何通りかのプログラムを考え尽くしておくべきである。しかし、いったん本番が始まったら、事前に準備したプログラムにこだわりすぎず、その場の状況をよく読んで、臨機応変に対応することが大切だ。参加者からの提案や、そこで起こってきたプロセスを大切にして、予定にはこだわらずに流れに沿っていく方が、学びは深まる。プログラムの準備を熱心にすればするほど、その通りに進行したくなりがちだが、「人事を尽くして天命を待て」といつも心がけている。
私自身も状況のように臨機応変にしていくことを登山に例えながらまとめているが、特に大切にしていることが「④途中で休みと確認を行う踊り場のデザイン」である。段階的や有機的なつながりで流れを作るワークショップであるが、「流れ」という言葉に囚われて、途中の「休憩」や「プチふりかえり」が実はおろそかになってしまうことが多いからだ。その都度確認をしていくことで、十中八九、予定とは変わっていくのだが、むしろそれを当然として受け止める余裕がほしい。余裕のない主催者であればあるほど、途中に参加者の声を聴くといったことはしたがらない。
以上、基本的なプログラムの組み立て方を述べ、さらにはその上で計画にこだわりすぎず、状況状況に応じて動的判断の元、プログラムを進行していく重要性をお伝えした。
臨機応変というのは、事前にある程度の予測を持って組み立てられる知見がある故に、実際の反応のズレに敏感になれる、ということだ。それはワークショップデザインへの基本的な理解があった上で、ファシリテーターとしての力量が加味されて発揮されることを意味する。
今まではワークショップデザインについて言及してきたが、今回で一区切りとし、次回以後はその進行を司るファシリテーター、ファシリテーションについて述べていこうと思う。