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16-ファシリテーターに求められる基本スキル

今回からはファシリテーションにかかるHOWTOについて語っていきたいが、改めてこのマガジン「ワークショップデザイン・ファシリテーションAtoZ」の考え方をおさらいしたい。

・おさらい(ワークショップデザイナーの役割と求められること)

本マガジンではワークショップとファシリテーションを「学びと創造の両輪」として、双方が必要不可欠な役割とし、ワークショップを「場の領域」、ファシリテーションを「人の領域」と位置付けている。


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コラム03「答えも道のりも不確定なところからから引用するが、ワークショップデザイナーは「プロセスやプログラムの構成、場のデザインを携わる」役割とし、事前準備や目的の共有、複数のルートや動的判断ポイントを想定したプログラム策定が仕事である。

03-答えも道のりも不確定なところから「何を目指す?どう目指す?」より

プロセスやプログラムの構成、場のデザインを携わるワークショップデザイナーは、いったんそのゴールを仮設定しておいた上で、出発に挑む前から準備は始まる。目的を伝え、事前準備事項や連絡を行い、山登りに同伴するファシリテーターを探し(自分でやる場合もあるだろう)、道中のプロセスもいく通りかは想定しておきながら、どこまで外れても大丈夫かどうかの選択肢も考えておく(クライアントがいれば、判断の幅を確認しておく)。
その上でメンバー個々の状態で動的判断を下さねばならないから、想定するプロセスの動的判断ポイントをあらかじめ、把握していた方がいいし、そのチェックポイントのみならず、途中休憩や細かく振り返るポイントも決めていくことが求められる。

これらを実現させるために、何に配慮し、それに応じた組み立て方の考え方は、コラム08-15(ワークショップの系統、組み立て方の基本構造、4つのコミュニケーションデザイン)を通して書いてきた。

08-ワークショップの5系統
09-コミュニケーションのデザイン(関係編)
10-コミュニケーションのデザイン(環境編-会場ver)
11-コミュニケーションのデザイン(環境編-準備ver)
12-コミュニケーションのデザイン(構造編)。大人数の場合。
13-コミュニケーションのデザイン(構造編)。少人数の場合。
14-コミュニケーションのデザイン(方法編)
15-ワークショップの組み立て方

・おさらい(ファシリテーターの役割と求められること)

ファシリテーターは、ワークショップデザイナーが組み立てたプロセスを参加者とともに伴走する役割であり、参加者の「自己選択自己決定」を促し、次に進む背中を押すのが仕事である。

03-答えも道のりも不確定なところから「何を目指す?どう目指す?」より

プロセスの同伴者であるファシリテーターは、ワークショップデザイナーが意図していることを十分理解した上で、その時々、メンバーや参加者からどのような反応が出るかを見極めつつ、道中の細かなゴール設定や、休憩判断、動的判断などしていくことが求められる。
その中で様々な反応、意見が出てくるのは当然であり、その意見整理も行いながら、参加者同士の無駄な対立や衝突を避けながら、全員がそれぞれのレベルで納得できる自己選択自己決定を促すことが伴走者であるファシリテーターの仕事である。

04-大切なマインドの話。「共創」「納得解」とは」でも言及しているが、ファシリテーターはプランナーやコンサルタントとは違い、答えを提示し導くよりも、参加者同士の「納得解」を紡ぐことを大切にし、そして次の一歩を共に着想し行動していくのだ。

04-大切なマインドの話。「共創」「納得解」とは。
「納得解のカタチ」


 「納得解」というのも聞きなれない言葉かもしれないが、ファシリテーターは場の決定を参加者自身に促していくため、合意形成や決定にあたっては、説得ではなく納得を大切にする。「頭で理解できていても、腹落ちしていないから進まない」なんてことはよくあると思うが、それは納得できていないからだ。
 (中略)
「戦力が優れていて納得性が低い場合より、戦略が多少まずくても、メンバーの納得性が高い方が、成功確率が高い」(『ファシリテーション入門』堀公俊著/日本経済新聞出版社/33頁)ということである。
 (中略)
妥協や遠慮をして合意形成するのは納得解とは言わない。衝突を恐れず対話できる環境や関係性、プロセスが作られるかどうかが質の高い納得解をうむ。

しかし、ファシリテーターの役割として「プロセスを参加者とともに伴走し、「自己選択自己決定」を促し「納得解」を紡ぐ」には、どうしていけばいいのだろうか。

そもそも、このマガジンを書くキッカケ(「01-ファシリテーションは教えられない?」)でも述べているように「自分のキャラクターに応じたファシリテーションの型を作るのは間違いなくそうだし、それを教えることは困難だが、しかしながら、どんな領域でもどんな性格やキャラクターだとしても、ファシリテーターとして求められる最低条件的な必須スキルはあるのではないだろうか。それは教えられる(学べる)のではないか?」と書いているとおり、今回は「HOW TOファシリテーション」ではなく「ファシリテーションNEEDスキル」を述べていきたい。結果的に「では、どうやってそのスキルを身につけていくか、向上させるか」にも触れていきたい。

・ファシリテーターに求められるスキル

「ファシリテーターは参加者とともに伴走し、「納得解」を紡ぎながら「自己選択自己決定」を促し、次に進む背中を押すのが仕事」と表現したが、図で示すと下記のとおりになるだろう。

スライド1

今できることからプランを組み立て実行し、その実感から、次の一歩を組み立てていく。ゴールや目的も実のところ実感が伴っていないため、ぼんやりとしているが、徐々に明確になり、自分たちで見つけたゴールや目的を掴み取っていく。右往左往しながらも、その道筋に伴走し支援するのがファシリテーターだ。しかしながら、ファシリテーターとして求められるスキルを身につけていないと以下のような落とし穴に陥る。

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ファシリテーターの多くは「話し合い」を好む。それを否定はしないが、「話し合い」「語り合い」が目的化している集まりになっていることは、ままある(繰り返すが、それを否定はしない。私は「次」に進めることを大切にしているファシリテーターのため、「話し合い」「語り合い」を目的化した場の停滞感や内輪感が苦手なだけだ)。

むしろ、「話し合い」を目的化している自覚はなく「次」を目指しており、議題も変えているが、同じ階層をぐるぐる回ってしまうことの方が、思い当たる節のある人の方が多いのではないだろうか。

では何が足りないのか。私はどんなファシリテーターにも求められる基本スキルとして「場をみる力」「場を見える化する力」「場を転じる力」の3つを設定している。

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いずれも「場」という言葉を用いているが、デジタル大辞泉(小学館)による「場」の意味を引用する。(太字は筆者主観による)

ば【場】 の解説
[名]
1 物や身を置く所。場所。「足の踏み場がない」
2 ある事が行われる所。「仕事の場」「場を外す」「その場に居合わせる」
3 ある事が行われている所の状況。また、その雰囲気。「その場でとっさに答える」「場が白ける」「場をもたせる」
4 機会。折り。「話し合いの場をもつ」「場を踏んでなれている」
5 芝居や映画などの場面。特に舞台で、一幕のうち、舞台情景を変化させず、同じ場面で終始する一区切りの部分。「源氏店 (げんじだな) の場」
6 花札やトランプなどのゲームで、札を積んだり並べたりしてゲームを進めていく所。また、マージャンで、東西南北の局面。
7 取引所内の売買をする所。立会場のこと。「場が立つ」
8 ゲシュタルト心理学で、行動や反応のしかたに直接影響し関係する環境や条件。「場の心理学」
9 物理学で、そのものの力が周囲に及んでいると考えられる空間。電磁場・重力場など。

私のいう「場」は、上記の2、3、4、8、9の項目に共通するように「空間(ネットも含む)に人がおり、何らかのやり取りや影響を与え合う環境」と思っている。全員が一致していることもよし、それぞれがグループでも個人でもいい。ファシリテーターがホールドする「場」というのは対話的関係だけでもないので、「同時かつ複数におよぶ対人関係がある空間」としている。

・「場をみる力」とは?

スライド4

カウンセリングやコーチング的な1対1の対人関係のスキルやノウハウは、とても細やかでファシリテーションと親和性が高いのだが、ファシリテーターが担う場は、コミュニケーションが同時多発的に勃発するので、1対1の対人スキルだけでは処理しきれないことが多い(中には1対1の対人やりとりをそのまま複数同時に機能させる化け物もいるが)。

「同時かつ複数におよぶ対人関係がある空間」をいかにみるか。一人一人の意見・反応・雰囲気を的確にキャッチする力を、ファシリテーターは自分なりに習得することが求められる。ファシリテーターは時折「場をみる」と独特な表現をするが、それはつまり1対1だけでない同時多発な状況をポエジーに表していると考えていい。(じゃあ、何をみるの?というのはまた後ほど)


・「場を見える化する力」とは?

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「場」には同時多発なコミュニケーションが勃発するので、ファシリテーターだけが理解し、把握していても意味がない。それぞれの考え、立場、行動している人が「自分も含めて他の人は今、どんなことを言っているのか、何をしているのか」が理解されないと混乱はおさまらない。そこでファシリテーターはその状況を可視化し、一元化&構造化することで、「場」のベクトルを緩やかに束ねる。もちろん、意見の構造化だけでなくファジーな「雰囲気」も見える化できるとなお良い。場に集う人たちの自主性や自由を重んじながら、一つの方向を見るように促すのはまさに「場を見える化する力」の有無にかかっている。


・「場を転じる力」とは?

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そして、何より大切なのが「場を転じる力」である。先述したとおり、ファシリテーターが陥る落とし穴「同じ階層をぐるぐる回ってしまう」ことは、この「転じる力」不足によるものである。一人一人の反応をキャッチし、状況を周囲に共有した後「じゃあ、皆さんの意見や考えも満ちてきたので、次に行きますか」と促せるかどうかである。

多くのファシリテーターは、「場をみる」ことと「場を見える化する」ことに注力しがちだが、「いかに転じるか」という促しの引き出しをどれくらい持つかは、圧倒的に継続的なパフォーマンスに差が出る。

・まとめ

「ファシリテーターは参加者とともに伴走し、「納得解」を紡ぎながら「自己選択自己決定」を促し、次に進む背中を押すのが仕事」とするように、どんな領域のファシリテーターでも求められる最低条件的な必須スキルが、先述の3つのスキルであると私は考える。

「HOW TOファシリテーション」ではなく「ファシリテーションNEEDスキル」に対し「では、どうやってそのスキルを身につけていくか、向上させるか」ということを次回以後、3つのスキルごとに述べていきたい。(まだ自分自身、言語化としても手探りであるがゆえに挑戦的であるが、頑張って試みたい)

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