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PJ04-プロジェクト型チームを作るコツと注意点
・楕円の法則(中心をふたつにする。協同体の関係をフラットにする)
プロジェクトの立ち上げ期を経て、チームの内輪感が出ないよう外に開かれた形であったり活動する中で、いかに「仲間のつくり、見つけ、輪を拡げていくか」ということに言及した前回のコラム「プロジェクトが拡がるコツとチームづくりの一歩」。
面白い人に出会った時、その人の事情に応じて、参加の関わり方を提案できる、という状態が実現していけば、プラスのスパイラルが発揮され、プロジェクトは地域に根差していく。
しかし、プロジェクトが拡がり、関わる人が増える、ということは力を持つ、ということでもある。力を持つようになると、多様性を良しとしてきたプロジェクトにも関わらず、次第に序列を作り出そうとする流れが生まれる。もちろん、プロジェクトがこなれていくに当たって、チームが安定していく必要はあるのだが、なるべくゆっくり熟成されていく方が好ましい。チームの安定を急ぐと、仕組みや構造が先行し、チームが作られていく時期に必ず悪影響を及ぼす。チームの会社組織化は、この時期に陥りがちなので気をつけたい。いかにこの状況を先送りするか、遅くするか、今回のnoteではそんなチームづくりのコツを伝えていきたい。
プロジェクトに円は危険。中心が一つでは閉じてしまう。
そもそもプロジェクトを立ち上げる時期から考慮しておきたいのだが、一人で立ち上げると、やはり自分の得意な領域や興味のあることなので、拡がりは限定的になる、と肝に命じておきたい。そして一人ではシンパシーを感じて協力してくれる人たちも、やはり同質性を帯びるということも理解しておきたい。コトの立ち上げ時期を経た後は、自分とバディを組める人を見つけるか、自分とは違うが対等(むしろ自分が魅力的だなと思える方が良い)に意見を言い合える人を見つけられるかが大きな分かれ目になる。
ちなみに言うと、私の場合、プロジェクトが立ち上がるのは、面白い人と出会って、意気投合して「なんかやろっか!」という盛り上がりをベースにしているので、常に「私+誰か」という座組みから始まる。
中心は二つに。楕円の状態が望ましい。
誰かと組むことからスタートしていると、それぞれ二人の領域やネットワークが違うので中心人物がそれぞれ刺激をもらえると共に新しい出会いの打率が上がる。さらに言えば、異なる領域の二人が組んでいるプロジェクトは、単なる足し算ではなく、新しい領域のようにも見える場合があり(ここでは錯覚が重要)、「どんな組み合わせ、掛け算が生まれのか」という期待感から、二人のネットワークにはない人物も現れたりするから面白い。
ここまで書いていて、ハタと気付いたことなのだが、私は「自分が飽きない。テンションが上がること」を大切にしているのだが、それは答えのない時代のプロジェクトの振る舞いとして通底しているじゃないかと思う。わざわざ新しいプロジェクトを立ち上げる、新しいコトや場を立ち上げる、というのは、どこか今の社会にモヤモヤすることがあるからだと思うのだが、わかりやすい成果(利益や集客)や、わかりやすい理由(社会の課題解決といったぐうの音も出ない正しさ)を活動していく第一の理由にしていくと、既に世の中にあるモデルの後追いにならざる得なく、結局、その活動は今の世の中のモヤモヤから脱出ないしはズレることはできない。中心人物がそれ以外の動機づけをどう見つけるかはとても重要だ。私は、その「自分が飽きない。テンションが上がること」の一つに、「誰かと組む」があり、そこから何か新しいモノやコトが生まれる”予感”がしているのと”ただ自分が楽しいから”という理由がある。
<近年のタッグ仕事やプロジェクト>
事例①
×陸奥賢「コモンズデザイナー養成私塾」
・コモンズデザイナーの陸奥賢さんとは、「むつわき」というユニット名にして陸奥さんの「まわしよみ新聞」など数々のオープンソースな取り組みを進行のコツや思いついた哲学感を教わり分解していく「コモンズデザイナー養成私塾」を。これは陸奥さんのファンが多くを占める参加者であるが、僕が混じることで今までにない内容(プログラム分解とノウハウ伝授)に期待して参加してきた方が多数いた。
事例②
×アサダワタル/×東信史「交流会3.0 vol.2 いつもと違う出会いのデザイン / 京都市みんなごとのまちづくり推進事業」
日常編集家のアサダワタルさんとは、日常と非日常の間を考えるトークセッショ
ン(企画としては、社会起業家の東信史さんと組んで、京都で活動するまちづくり団体の交流会「交流会3.0 vol.2 いつもと違う出会いのデザイン / 京都市みんなごとのまちづくり推進事業」を実施した)。これは完全に中心が二つというより、小さな中心の集積によるイベントで、150人超の参加のごちゃ混ぜ感が本当に面白かった。
→詳しいレポートについてはコチラ
事例③
×宝楽陸寛「コミュニティ界隈楽屋ニュース」
社会起業家でありファシリテーターの宝楽陸寛さんとは、二人が「今、自分が話を聞きたい人」をゲストに迎えて即興的なクロストークをしていく「コミュニティ界隈楽屋ニュース」。これは二人がそれぞれ呼びたいゲストが違うため、新しい出会いが互いに生まれ、またそのゲストのファンから僕らの組み合わせに期待する人など、毎回10数名の参加者なれど、かなり濃い面々と場になっている。
事例④
×淀川テクニック「地獄の淀川天国」
美術家の淀川テクニックさんとは、淀川区役所を舞台に淀川区をめぐる巨大ゴミスゴロクを作り、子供向けアートイベント「地獄の淀川天国」を実施。これは淀川区役所から京都造形芸術大学へ相談があってから実現したプロジェクトで、プロセスから学生も参加したのだが、淀川テクニックさんのプロジェクト学生から僕の知っている学生が混ざったチーム構成でそれもまた豊かであったし、何より淀川テクニックさんの世界観と僕のコミュニティやプロセスをどう作り上げていくか、という互いのスペシャルが混ざりつつ、統一された作品として参加型の作品になったのが魅力的であった。
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事例⑤
×中村清作「まな板の上の湖魚」
琵琶湖漁師の中村清作さんとは、年に一度の頻度で琵琶湖の魚の美味しさを知ってもらうため、彼が獲った未利用魚・外来魚を関西の料理屋さんとコラボレーションし食べる会を実施する「まな板の上の湖魚」。これは完全に中村さんの引き立て役・支援役として関わっているが、彼のモチベーションを維持するためのサンドバッグ役となって、二人の遊びの延長で「面白いからやる!」というモチベーションを大切に実施している。小さな試みが及ぼす効果や影響は、本当にゆっくりだし、ゆっくりじゃないと小さい体制は対応しきれないし、そうやって、少しずつ理解してくれるお店を増やしながら、湖魚流通のための鮮度処理の改善や、販路拡大、新商品開発など実際の成果に結びつけている。
→詳しいレポートはコチラ
事例⑥
×藤本遼×丸川 正吾「知らない街」
コミュニティエディターの藤本遼さんとシンクタンク研究員の丸川正吾さんとは、三人が一回も乗ったことのない路線の知らない駅を転々としながら飲み歩く、街をいつもと違う視点で遊ぶ「知らない街」。たった数名の飲み歩き遊びなんだけど、飽きないために三人のうち誰か一人が番組(勝手に言っているだけ)アシスタントとして若い女の子を迎えて、道中をめぐる。三者三様でコミュニティに関わる仕事をしている僕らが、全く違う手触りで街を遊ぶ、というところから生まれたが、設定だけでも日常は刺激的な遊び場になることを提案している。
事例⑦
×薮内都「芸術とコミュニケーション」
poRiffの薮内都さんとは、天理医療大学で学ぶ未来の看護師と臨床検査技師にむけて、チーム医療と対人支援に必要な「関わり方」を体験を通じて学ぶ「芸術とコミュニケーション」授業を。デザイナーでもあり福祉従事者でもある薮内さんと、コミュニティデザインやプロセスデザインを中心とする僕の二人でオリジナルのワークショップを考え、実践することはとても刺激的だし、何より医療従事者になる学生とも、いかに興味が重なるところを見つけられるか、というのが本当に面白い。
中心が二つのチームを活かすカタチ。あえてこんがらがるように。
さて、誰かと組むカタチでのプロジェクトがはじまったら、どんなチームにするか、ということも大切だ。もちろん、初めは二人からスタートするのかもしれないが、ゆくゆく輪が広がり、関わってくれる人も少なからず出てくることを想定した時、一応どんな風にするか、ということも念頭にはおいておきたい。…と言いつつ、それぞれがやりやすいチームづくりのままにする、という一見何も考えていない状態の方が実は良いと考える。
一番避けたいのは、どちらか一方の作りやすいチームのカタチに当てはめる、ということ。さらにどちらかが代表権を握る、ということ。一見、これが正解のように見えるだろうし、このカタチを作りたがる人は多い(特に行政)。しかし、これにしては、違うチームのカタチでやってきたもう一方の中心人物の魅力を削ぎ、その人のコミュニティの人たちが、いつもと違う感じがして集まらなくなるだろうし、何よりやはり上下を決めてしまうと力関係が発生する。
もちろん、リーダーを並列した状態でチームをスタートしていくことは少なからず混乱することはあるだろう。話し合うことも増えるかもしれない。そのプロジェクトにファシリテーターがいるか否か、もしくはファシリテーター型のリーダーの有無は重要だろう。もし、貴方が日頃からファシリテーションを意識しているのであればきっとこういった座組みのプロジェクトをスタートさせて欲しい。そしてできるならば二人から始めてみよう。三人以上から始めると、合意形成が中々難しい。話し合いよりも阿吽の呼吸で進めていくには、互いが尊重しあう関係性があることが大切だ。その阿吽の中で互いのネットワークのままで一つのプロジェクトのカタチになってくれば、それはもうかなり複雑なチームないしはコミュニティになっていく。リーダーでも頭があがらない人が出てきたり、実は先輩後輩という違うコミュニティでの関係性が再発見されたり、互いのチームやコミュニティが別々では起こらなかったカタチが生まれることが何よりも尊い。
中心が二人いることで、プロジェクトの進行中の波も極力抑えられることだろう。どちらかがテンション高ければ任せられるし、ピンチになればもう一方が頑張る。力加減の出し抜きがやはりやりやすい。もちろん、二人がフラットな関係だと、お互いがチグハグする時も出てくる。そんなときは、プロジェクトの誰かが「まあまあ」「ほんま、しゃあないなあ」と助け舟も出してくれる。「いつもと違う表情がここでは垣間見れる」「改めて、この人のここが魅力」。そんな新発見や再発見がプロジェクト型チームのいいところなのだ。
<中心が二つのプロジェクト事例①:鳴く虫と郷町>
プロジェクト型チームのプロセスを原点をふりかえれば、伊丹市昆虫館坂本昇さんとの「鳴く虫と郷町」になるだろう。坂本さんが昆虫担当、私が地域担当と分かれているが、お互いちょっと専門領域からは外れたところにも関心があったりしていてどこか共通点がある二人がひょんなことから出会い、少しずつお互いの領分で一緒にやる企画をやっていたら「鳴く虫と郷町」がひょんなことから街ぐるみの規模となった。当初は私のネットワークで地域の商店街に拡がっていったが、それを踏まえて、今度は坂本さんの市内ミュージアムネットワークが様々な取り組みと展開を生んでくれた。それが次第に混ざるようになり実行委員会化し、商店街の会長も市民も行政マンもアーティストもミュージアム職員もみんな平場でわいわい言いながら運営をしている。14年目を迎える現在は、このプロジェクトが醸し出してきた雰囲気が、一般の参加者にまで波及していることが継続の力を実感する。以下の動画は「鳴く虫と郷町」のPVであるが、私と坂本さんの関係性や役割分担と重なっている有様、それをどのような仕組みで広げてきたかの雰囲気が伝わる内容となっている。ただの催事紹介VTRではなく、コンセプトムービーを意識したので、伝わるといいのだが。
<中心が二つのプロジェクト事例②:伊丹オトラク>
伊丹オトラクは、初めは私一人で地域のライブを手がける飲食店をネットワーク化するところから、徐々に広場などの活用を音楽で促す「伊丹オトラク広場」「伊丹オトラクピクニック」や、伊丹まちなかバルと同時開催で一日に数万人が訪れる「伊丹オトラクな一日」など様々なフェーズごとにもう一つの中心を変えていった珍しい形態のプロジェクトだ。
たった一人で手がけていた時期の次の展開を目指した「伊丹オトラク広場」の時、ミュージシャンのネットワークもない、運営面のサポートもいない、となっていた時、たまたま声をかけてきてくれたミュージシャン・樋下善弘さんと元オトラク参加店であった成川雅人さんに協力を仰ぎ、オトラクに賛同してくれる人たちでチームを組み、少しずつ市内各地の広場や公園での利活用の実績を増やしていった。
「伊丹オトラクな一日」は急激な規模拡大から、オトラクの世界観をわかってくれるミュージシャンを幅広く集めることが重要課題となり、ほぼ泣きつく形でオトラクにコンセプトから賛同してくれるミュージシャンであった新井洋平氏と五月エコ氏に声をかけ、もともと運営面をサポートしてくれていた樋下義弘氏との三人体制でミュージックディレクターとして関わってもらい、音楽面でのクオリティを担保してもらった。
「伊丹オトラクな一日」の回数を重ねてきたおり、運営面が相変わらずドタバタだったため、運営面を一緒に考えてくれる市民メンバー数名に声をかけ、有志市民とのチーム編成に舵を切る。ここで改めて成川さんにも声をかけ、実行委員会化する際の会長になってもらう。この時期から伊丹オトラクは本当の意味での市民協働型のプロジェクトに変化し始め、ミュージシャンのディレクション含め全ての運営面において市民中心体制となる。
また現在は私が伊丹市文化振興財団(現、いたみ文化・スポーツ財団)の職員を辞したため、市民有志と財団職員が5:5となる実行委員会体制に組み替え、より市民と組織が協働する形へと変化している。
このようなカタチで「伊丹オトラク」については時期に応じてプロジェクトの中心2点を変えながら手がけてきた。
まとめ
プロジェクトは中心を二つにする、中心を二つにしたチームをカタチ作る、ということを伝えてきたが、事例を並べてみると自分でもびっくりするぐらいバラエティに富んでいる。プロジェクトの規模など大小問わず、幅を持ってみること。とりあえずやってみる、というスタンスの小さな取り組みは、その振れ幅を楽しむのが良い。とは言え、プロジェクトも最初から立ち上げるものばかりではあく、既存の組織やチームの中に合流していくような関わり方や、風を吹き込む役としてピンポイントでの関わり方を求められることがある。それもまたプロジェクトらしい関わり方である。そこで次回のコラムでは途中から合流する場合や既存組織(チーム)に関わりながら、それを多様な人が混ざるもしくは関係性がまぜこぜになる方法について語っていきたい。
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今までのnote記事
<プロジェクトのHOWTO もしくはAtoZ>
・はじめに
「平成」という時代とファシリテーター、ワークショップデザイナーに至るまで
・プロジェクトが始まる前に気をつけたいこと
プロジェクト型チームの危険性と心構え
・さあ!スタート!そんな時に
【コトの立ち上げ方、進め方】
・プロジェクト、少し慣れた頃の次のステップ
【プロジェクトが拡がるコツとチームづくりの一歩】
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今までのnote記事
<ワークショップの記録と振り返り>
「HOW TO or NOT HOW TO」(アイデア創出系)
「ツレヅレ市場弁当」(価値の変換、疑い系。出かけるコンテンツ)
「ワイルド午後ティー」(価値の変換、疑い系。出かけるコンテンツ)
「いつも何度でも(ワークショップデザイナーver)」(学びなおし系(メタ認知促進型))