19-対人関係の基本スキル②「訊く」
前回は「場をみる力」の前段である1対1の対人スキル「聴く」に関して述べたが、今回は「訊く」について触れたい。『ファシリテーション入門』で堀が「傾聴で話を受け止めたなら、質問を使って話を深めていきます」と述べるように「訊く=質問」と捉え直し、質問の力や、質問によってどのような言葉を引き出すのか、ということに触れていきたい。
・質問の目的
そもそも人は相手が語る言葉を「情報(コンテンツ)」レベルで受け止めて終わることが多い。「トマトが好き」と語る人がいたとしても、受け手の多くは「ああ、トマトが好きなのね」で終わってしまう。もしくは「(夏野菜が好きなのかな)」といった感想で終わるだろう。
「(この人はどんなトマトが好きで、なんでトマトが好きになったんだろう)」と背景や価値観(コンテクスト)まで理解しようと質問を重ねることが「訊く」ことである。質問の目的は「相手の考えを引き出し、相手の価値観を得ること」である。
しかも「訊く」ことで「相手も改めてその理由を自ら考え、自分の口から語ることで自覚化される」。訊き上手は相手の「自己選択・自己決定」を促し、うまく相手をエンパワメントしていくから不思議である。これもまた質問をする目的でもある。
・質問とは
質問は相手の価値観を理解するために、もっと言えば、相手の考え方の枠組みを理解するために、更にその考え方で自分の思考を巡らせることができるシンクロ状況を目指すために用いる。
ではどんなときに質問をするか。訊き手は質問する前に相手がどのような受け答えをするかある程度予測をしているだろう。予想と相手の受け答えにズレ(誤差)が生じた時に質問を重ね、自分の予測と相手の受け答えのズレが少なくなったとき、相手の考え方の枠組みで考えられたと捉える。
「予測と誤差の繰り返し」をわかりやすく例えたやり取りを以下のようにまとめてみた。
相手のことを掘り下げていこうとするなら、最初は先入観でもいいので相手が答える内容をいろいろ予測し、ズレたところこそ、相手のコンテクストが潜んでいると考え、質問を展開していく。背景や価値観が十分に引き出し、相手の考え方で自分も考えられるようになってきたら言い換えたり、応じることによって相手から「そうそう、そういうこと」というシンクロを示す合図が確認できれば、別の”問いを立て”、次の話題やフェーズに展開していく。
・オープンクエスチョン
質問にはオープンクエスチョンとクローズドクエスチョンの2つがあり、訊き手はこの二つの性格を理解した上で適宜タイミングに応じて使いこなすことが求められる。
オープンクエスチョンのことを堀は「質問に対する答え方が決まっておらず、回答者が自由に答えられる質問」と定義づけている(『ファシリテーション入門』98p)。続けて「自由に発想をふくらますときや、なにかを探求したり内省したりするときに効果があります」(同、p97)と使いどころにも言及しているが、オープンクエンチョンには「相手の考えや意見を知り、予測を増やす”素材集め”」の一面もあり、オープンクエスチョンを使う場合は相手が自分のタイミングで語れるよう訊き手としては「待つ」ことが大切だ。
オープンクエスチョンでも、「最初の訊き方」と「発言を踏まえての訊き方」は分けて考えている方がいいだろう。堀が「5W1Hで訊く質問」と例を挙げるように「なに、いつ、どこ、誰、なぜ、どのように」は最初のキッカケとしてはいいだろう。ただ、これだけにすると話題を深めていきたい時に、逆に高圧的な印象を与え、自発的な言葉の芽をつむことになるのも気をつけたい。
例)
「好きな食べ物はなんですか?」(what)
「トマトかな」
「どうして?」(how)
「(え・・・好きに理由なんているかな?)夏に食べる瑞々しい感じが好きだから」
「なぜ?」(why)
「(…なんだかなあ)うーん、、、(もういいや)なんでだろうねえ」
そのため、発言を踏まえての訊き方としては、情報や事実といったコンテンツの情報から感情、経験といったコンテンツの種から背景、価値観というコンテクストを「引き出していく」と言う感覚で質問の言葉づかいを選びたい。ちょんせいこ『元気になる会議 ホワイトボード・ミーティングのすすめかた』(40p)で紹介しているような「〜というと?/どんな感じ?/もう少し詳しく教えてください/具体的には?/例えば?/エピソードを教えてくださいな」が良い例だろう。
例)
「好きな食べ物はなんですか?」(what)
「トマトかな」
「具体的には?」
「夏のトマト。畑の採りたてかな?」
「どんな感じ?」
「青臭さもある中で、瑞々しさがたまんないの」
「エピソードはあるの?」
「小さい時、夏休みでおじいちゃんの畑で・・・」
・クローズドクエスチョン
クローズドクエスチョンを堀は「イエスかノーのようにあらかじめ答え方が決まっている質問」(同、98p)と説明している。質問と言われるとオープンクエスチョンよりクローズドクエスチョンの方を思い浮かべたり、使いやすく感じるかもしれないが、クローズドクエスチョンは「聞き手が主導権を握り、答えをコントロールしていきます。その反面、あまりやりすぎると刑事の尋問のようになり、相手は閉塞感を感じてしまいます」(同、102p)と堀が注意喚起するように、ファシリテーターとしてクローズドクエスチョンを用いる時は、相手の言葉が抽象的・曖昧な時に解釈の齟齬を防ぐためであったり、核心に触れたい時やコンテンツの発言ばかりで話題がうわ滑る時など、使うタイミングは注意しておきたい。
例)
「好きな食べ物はなんですか?」
「トマトかな〜」
「と、いうと?」
「あの”ビュッ”となって、”じゅわわ〜”な感じがたまんないの!」
「えと、ビュッというのはトマトが畑で大きく育っている意味?」
「違う違う、噛んだ時にトマトから出てくる果汁の”ビュッ!”ね」
「(となると、”じゅわわ〜”は口に広がる果汁のことかな)。なるほど、じゃあ”じゅわわ〜”というのは口に広がる様子?」
「それもそうなんだけど、むしろ口からこぼれるあふれんばかりの感じ!」
・オープンとクローズドの組み合わせ
相手の意見を自由に発散してもらうオープンクエスチョン、あいまいな言葉づかいを絞り込むために使うクローズドクエスチョン。対話のやり取りの技術であるが、これらを組み合わせることによって「話の流れ」を作ることができる。ファシリテーターは誘導的な進行は避けなければいけないが、場の目的に応じた議論を活発化させることや深めること、行動に移る合意形成などが求められるため、この組み合わせで「質問で場の考えを引き出すこと」や「問いを立てて話題のフェーズを変えること」をうまく使い分け、場を次のステップへ促す。
(ちなみに、「とい(TOI)」にもいくつか種類があると思っていて、発見や発明の種となる「疑問」、相手の考えを引き出す「質問」、相手の考えの転換を促す「問い」に分かれる)
組み合わせでも順番として、定番的なルートは存在する。
①「オープン&オープン」(発散)
②「オープン&クローズド」(収束の軸を伺う)
③「クローズド&オープン」(収束の軸に応じた発散)
④「クローズド&クローズド」(収束の選択を絞るか、話題のフェーズを変えるか伺う)
例)
「〜について日頃からどう思います?」(オープン&オープン)
「①〜だったり、②〜だったりするけど、でも一方で③〜なこともあるからわからないけど、④〜なのかなあ」
「意見をお聞きする中で①〜④のように4つに分かれると理解しましたが、その解釈でいいですか?」(オープン&クローズド)
「はい、間違ってないです」
「③が要因で①と②が④にならざる得ないように聞こえたので、もっと③について詳しく教えてもらえますか?」(クローズド&オープン)
「そもそも①と②を目指すためにAと決めていたことが、状況によってBに変更したことから③が出てきたと僕は思っています。だったら④にかえるべきかなあと」
「なるほど。AをBに変えたことで③が出てきた、ということですか?では、選択肢でB以外の方法があるかないか検討するためにも、③の結果を踏まえながら、もっと発散してくことはどうでしょうか?」(クローズド&クローズド)
「そうですね。そういえば③を振り返ったことはないですね」
「わかりました。では③について思っていることを自由に話して行きましょう」(オープン&オープン)
オープンクエスチョンとクローズドクエスチョンを組み合わせながら、「話しの流れ」を作っていくことは相手の発言の摩擦部分や矛盾点、判断の分岐点などを「合図」としてキャッチし、その部分をより詳しく訊いたり、発散を促すことが求められる。
・何を聴く?どこまで訊く?
「話しの流れ」を作っていくことに関し、「発言の摩擦部分や矛盾点、判断の分岐点を合図に聴く」と伝えたが、しかし、合図は単に論理的な齟齬だけではなく、もちろん言葉づらだけでもなく、感情的な部分も含めてキャッチすることが求められるため、改めて、1対1の対人スキル「訊く」でどこまで「聴く」かを語りたい。
相手を知るには価値観や背景といった「コンテクスト」まで理解することであり、「質問」によって単なる情報から経験・実感の伴う「コンテクストの種」を引き出し、それを積み重ね、相手が情景ベースで語り始めるまで待つ。ちょんせいこはオープンクエスチョンを重ね「第一階層、第二階層、第三階層をへて情景の共有できることころ」を目指そうと表現するが(『元気になる会議 ホワイトボード・ミーティングのすすめかた』50p)、堀のいう「コンテンツ」と「コンテクスト」の表現と合わせて考えてみると上記のようにまとめることができるのではないだろうか。
複数人がいる「場」において、全員の発言をコンテクストレベルまで訊くことは時間がいくらあっても足りないだろうが、一人一人のコンテクストを理解できていると、なぜ感情的に反対するのか、どういう考え方をすれば納得してくれるのだろうか、という考えはやりやすくなるため、本来であれば、やはりこのレベルの理解をファシリテーターは目指したい。そのため、一回の会議でそのレベルを目指すのではなく、一緒にプロジェクトを進めながら、発言に限らず行動や性格などを通し、徐々にコンテクストを理解し、周囲とも分かち合うことがいいのだろう。
一方、会議やひと時の時間を共に過ごす「場」については、コンテクストレベルまではさておき、一人一人の経験や実感レベルまでは聴くことが求められるし、訊く必要がある。
以前のnoteにも書いたが、表面の言葉と喋り方の誤差が感じられれば、質問などを通して、より深く語ってもらえる機会になったり、相手も気づかなかった気持ちの自覚を促すことができる。例えば、先ほどのオープンとクローズドの組み合わせ例を、「感情」や「実感」をベースに「聴く」とどうなるかを例に挙げてみたい。
例)
「〜について日頃からどう思います?」(オープン&オープン)
「①〜だったり、②〜だったりするけど、でも一方で③〜なこともあるからわからないけど、④〜なのかなあ」
「意見をお聞きする中で①〜④のように4つに分かれると理解しましたが、その解釈でいいですか?」(オープン&クローズド)
「はい、間違ってないです」
「④は改善や打開策の意味合いで語ってましたけど、言い方が少しトーンが低くて、消極的だったり納得できていない感じを受けたのですが、何かありましたか?」(クローズド&オープン)
「そもそも①と②を目指すためにAと決めていたことが、状況によってBに変更したことから③が出てきたと僕は思っています。だったら④にかえるべきかなあと。でもちょっとわからないんですよね」
「なるほど③にたいしては微妙なのはわかっているけど④もどうかわからない、、ということですよね?では、選択肢でB以外の方法があるかないか検討するためにも、③で感じたことをもっと発散してくことはどうでしょうか?」(クローズド&クローズド)
「そうですね。ちょっと遠慮してました」
「わかりました。では③について思っていることを自由に話して行きましょう」(オープン&オープン)
このように、何を聴くか、というのもファシリテーター次第であるし、できれば喋り手の性格や思考に合わせて聴き方・訊き方を変えられるといいだろう。
そのため、ぜひオープンクエスチョン、クローズドクエスチョンの扱い方を理解して、オープンクエスチョンを重ねることで相手の言葉の階層の変化を「待てる」こと、「自覚」できることを目指したい。
その階層がわかり、待てるようになってくれば、きっと感情や論理性の齟齬、摩擦、ギャップをキャッチして、そこの誤差に「質問」を投げかけ、さらに「問いを立てる」こともできてくるはずだ。
では次回は、さらに非言語コミュニケーションの最たるものである「観る」という対人スキルを述べていきたいと思う。「聴く」と「訊く」だけでは「場をみる」ことは中々困難である。対人スキル「観る」を通し、どうやって複数名同時多発的なコミュニケーションが勃発する「場をみる」か、何をキャッチするのか、といったことに触れていきたい。