WSプログラムデザインの記録「いつも何度でも(ワークショップデザイナーver)」
実施日:2019.4.20 10:00-16:00
場所:小田地区会館 3階会議室
参加者数:11名(講師、インターンスタッフ含む)
イベント名:WSD 切磋琢磨だ!学び直しの会(≧∀≦)
主催:りとるぱーてぃ 島田
WSタイトル「いつも何度でも(ワークショップデザイナーver)」
カテゴリー区分:学びなおし系(メタ認知促進型)
【ねらい】
テーマは「反復」と「一時停止」。
今、社会は「対話を拒否する」「考えることを停止する」「自分を疑わない」という雰囲気がひたひたと私たちを包んでいる。わかりやすい二項対立のロジックはもちろんだが「みんな違って、みんな良い」というユートピア思考も実のところ構造は同じだ。就労も就学も子育ても老後も結婚も介護も環境もエネルギーも食料も何もかも不透明で不安だらけだからこそ「わかりやすさ」を求めたくなるし、自己判断を停止すればパソコンがちゃんとオススメを目の前に用意してくれる。そういう時代を私たちは生きている。
やはりわかりあえない他者とは対話をしない方が楽に生きていけるのではないか。しかし、ワークショップデザインを学んだ私たちは、なぜか対話を避ける方向に足は向かない。「わかりあう」(いやむしろ「わかりにくさ」の)魅力を知ってしまったかもしれないが、むしろ「考え続ける」態度、そして「変わり続ける」態度に「わかる・わからない」「正解・不正解」といったシンプルかつ強いロジックを求めてくる社会の流れから「“一旦”外れる」術を見出したからであろう。そう、ワークショップを体験することは「今日この時は世界がどうあれ“一旦外れる”ことを良しとする」。そして、終わった後も世界を一時停止して見つめなおす重要性を”身体と頭と心”に刷り込んでくれる。
では、「考え続ける」態度、「変わり続ける」態度を促すワークショップをデザインする私たちにおいて大事なのは、なんだろうか。私は「メタ認知力」であると言いたい。もっと言えば、自分自身がワークショップを受けている最中、その時の自分の心の機微や関係性の変化、またはそれに作用したプログラム構成までも分解して考えられる「ライブなメタ認知力」を求めたい。それこそ、ファシリテーターに求められる動的判断のアンテナ磨きであるし、ワークショッププログラムを考えるデザイン力の鍛錬になる。「ワークショップデザインを学びなおす」本講座は、その場の反応を伺いながら動的判断100%で構成され、そのプログラム自体もワークショップとして相互に関わりあいながら、学びを深めていくことを目的とする。そして所々で「“一旦”外れ(る)」て俯瞰的に語り合い、一時停止した後、プログラムは互いの動的判断をつむぎながら進んでいく。
「共に過ごす」体験を通して、他者と自分が「当たり前はどこまで当たり前で、どこから当たり前じゃないか」と言った“狭間”を実感し、「一人一人ちがっていい」と「一人一人違っていると困る」のふれ幅に身を置くことで”自分の答え”と”自分の感情”の誤差にも敏感になっていこう。すべてはそこから始まる。そのズレや幅にある多様な選択肢に正解はない。「今回はどの地点を選ぼうか」と個々の選択が問われることが重要であり、「私はなぜそう選んだのか。そう行動したのか」という自分と社会の在り方・関わり方の見直しが始まることに意味がある。更に言えば「他者はどう選択したのか、他者はどう感じたのか」という気づきも生まれれば、社会と私のメタ認知は加速し、より柔軟性の高い個人および社会になるはずである。
「やってみせ、教えてみせて、させてみせ、誉めてやらねば、人は動かず」
この大前提を参加者自身が実感できるプログラムである。
【内容】
※本講座は動的判断をベースに組み立てられた為、大文字はあらかじめの予定として記載する。ライブで組み立てられた細部の構成は、そのあとに記載する。
10:00-12:30 自己紹介と今日のダイジェスト的体験と参加動機の把握
①談笑と「隣の隣のリレー自己紹介」(30min)
(◯◯が好きな◯◯です。→◯◯が好きな◯◯さんの隣の□□が好きな□□です。→◯◯が好きな◯◯さんの隣の□□が好きな□□さんの隣の…)
②紙のくしゃくしゃビフォーアフター(30min)
・紙を1分間くしゃくしゃにしたらどうなるかを書き出す
・紙を1分間くしゃくしゃにする
・くしゃくしゃにした紙はどうか、①で書いた倍の量を書き出す
・隣同士でシェア
・全体で感想喋り合う
③参加動機自己紹介(90min)
・最初の自己紹介ネームの50音順で喋る
・最初二人ぐらいは、一人ずつ喋った後、講師が応じて、「ああ、〜ということで参加したんですね」と要約
・三人目以降、次に喋る人が喋った人に応じてから、参加動機自己紹介
・最後の方は要約した後に要約を重ねる
・最後の1名についてはインターンスタッフの学生が要約をする隣でリアルタイムでそのやりとりを講師がプチ指導
・全員終わったら、講師が全員分の参加動機から今日の目標・目的を定める
・始まる前
会場に入った時、机の並びは「ロの字」型であった。ワークショップを伝える机の並び方としては、ふさわしくない。ここで最初は受講生とともに「初めはロの字型でそわそわした気分で座ってもらってから、最初は机の配置を色々変えて、場のデザインを体験しながら、一番適した並び方にしていく」というワークショップデザインの最初の一歩である「会場デザイン」を体験する構成も頭をよぎった。しかし、主催の方や早く到着した参加者から「ロの字」配置について、なんのリアクションもなかったため、それなら最初から適正な机の配置にしている方が、場のスタートは整うと思い、机を4つ固めて大きな島を一つ作った。参加者も来始めているため、作り込んでいく様子が見えるとまた得るものがあると思い、インターンスタッフに細かく指示を出す。
例)受付用に教室の外にテーブルを一つ出す。余った長テーブルと椅子は部屋の隅に並べ、荷物置き用にする。会場の外に部屋名に大きく催事名を書いた紙を貼る。プロジェクターを投影する際の暗さを決めるのに、カーテンの開き具合や照明を消す量を細かく色々試す。
・隣の隣のリレー自己紹介
遅刻連絡の方も数名いたので、開始は遅らし、しばし参加者の談笑の様子を伺う。ワークショップデザイナー育成プログラムの修了生の集まりであり、同期や知り合いが多いのかな、と思っていたが、喋っていない人もいたり、どこかまだ集中できていない雰囲気(緊張している様子はなかったが、弛緩はしていた)もあったので、まずはこの雰囲気を変えることと、座として一つにすることを最初の導入にすることに決めて、「隣の隣のリレー自己紹介」を手がける。
・紙のくしゃくしゃビフォーアフター
次に個々の感受性を高めることを意識した。個々の感受性が高まっていない中でグループワークをしても、ただコミュニケーションが生まれるだけで、学びが深まることは少ない。そこでもう一歩集中力と五感全部使って感度を高めるために「紙のくしゃくしゃビフォーアフター」を実施する。ただし、なんの条件設定もしなければ”よく観察する”というスイッチは入らないので、最初にどう変化するかの予測を書き出し、実際やった後は「倍の量」を書き出す、とした。「倍」としたのは、個々の度合いを問わず、注意力や観察眼を全員あげられるためである。また通常ならばここでは「1分間でできるだけ書いて」とするところであるが、参加者個々の「私が思いつくMAXの量」を吐き出してもらうことが重要なため、時間設定も行わなかった。
これを実施すると「◯◯したらどうなるだろう。こうなりそう」みたいな声や反応がある。倍を出した後で隣同士でシェアをしてもらい、話す中で「そんなこと思ったんだ!」という印象的なことを全体に言ってもらった(自分から発表するよりも、他者を介した方が場はあったまる)のだが、そこで「くしゃくしゃの紙は水をかけたら染み込みそう」という言葉があり、それを聴いた他の受講生が思わず、持っていた水を垂らそうとしたので、すかさず「そうそう!気になる、気になる!どうなのかな?」と全体に伝えてみんなでその様子を観察することにした。イレギュラーな構成であるが、こういうライブな衝動を活かすことはワークショップの「相互作用の中で学びあう」という基本原則に則っていることと、今日のメンバー全体で一つの状況を試す、見守る、という一体感の向上にも効果的である。こういうところを見逃さないキャッチ力もファシリテーターにとっては一つの技術である。
・参加動機自己紹介
集中力・観察力・感度もグッとギアが上がったところで、午前中のメインアクティビティ「参加動機自己紹介」を行う。午後以降のプログラム構成を考える素材集めが目的ではあるが、もう一つの目的として、ファシリテーターの基礎力である「聴く・訊く・考える・応じる」を徹底的に意識して実際にやってみることと、ワークショップデザインを考える上での基礎ポイント「やってみせ(見本)、教えてみせて(解説)、させてみせ(体験)、誉めてやらねば(できたところを見つける)、人は動かず(意欲の向上)」を実践するためである。実は午前中に本日の目的が全て詰まっている(「いつも何度でも」というタイトルはこういうギミックが随所に仕込まれていることから名付けている)。あと、これをやることによって「普段から自分はいかに(もしくは本当の意味で)人の話を聴いていないか」が自然と体感できる。
学びなおし系のワークショップで重要なのは、自分の変化や成長を感じられることと、まだ足りていないところを気づくことが重要だからだ。ファシリテーターはここでは見本を示すことや相手の良いところを見つけることに加え、改善ポイントも伝える反応が重要なため、終始集中力を高めていないといけないので、本当に疲れる。またこれが終わった後に、全員の発言の要点を抽出して、今日の場の目的を定めることが必要なため、それも覚えておかないといけなく、この時間の満足度を上げることは実は難易度が相当高い。
ちなみに最後の「参加動機自己紹介」で受講者から「無目的で参加することを大切にしています」という言葉が出て、思わず全員が「それはとてもいい言葉だ」「なんかわかる」という反応が生まれ、そこから何人かがそれを活かした参加動機を語ってくれた。私自身も「無目的」はいい言葉だな、と思ったが、あまりにも使い勝手が良いのと解釈の幅が広がることから、「私はもちろん目的や持って帰ってほしいことを意識して今日のワークショップをデザインしているが、「無目的」という言葉を借りていうと、参加の皆さんが何を持ち帰るかは、何を見つけるかは確かに自由ですし、私が考えている狙い以外の魅力もあると思う。ぜひ終わった後、「無目的」そして「ただ在る」という姿勢から時間をすごしたことで、何を見つけた、どう感じたかは、ぜひ最後の振り返りで教えてください」と伝えて、「無目的」という言葉が受講者の集中をふわふわした状態に戻さないことだけは意識した。
12:30-13:30 昼休み
「ワークショップデザインのおさらい。何か自分の現場に活かせるものを持って帰りたい。無目的に場に佇んでみる」と言った参加動機であったことから、ワークショップデザインのことのみならず、ファシリテーションについても時間を割くことが重要で、午後の配分をどうするか頭を悩ましていた。今日のワークのプログラム分解は必ずするように考えていたが、それに加えて何かワークを入れると講義や語り合う時間が失われるし、しかし、プログラム分解と講義ばかりだと退屈にもなりかねない。今は決めず、冒頭の講義やその時間の過ごし方で、判断しようと分岐点だけ決めておいた(なんとなくだが、午後のプログラム開始30分の間で分岐点がやってくると考えていた)。
13:30-15:10 参加動機に合わせたアクティビティ①と振り返りと講義
①談笑と講義(50min)
「ワークショップって?ワークショップをデザインするって?」
・ワークショップとファシリテーションの違い、その両輪への考え方
・ワークショップってそもそもなに?6つの特徴
・ワークショップは、3つのコミュニケーションデザインを意識する
・ワークショップの入り口。環境のデザイン
・ワークショップのプログラムでのコツや注意点
②アクティビティ①(50min)
フリートークしながら「午前中からのプログラムを分解」
・談笑と講義
自発的に声が出てくる方がいいので、比較的ゆったりと昼休憩から徐々に講義に入っていくスタイルをとる。講義もテンポや間をゆっくりとして、気軽に声を挟めるように心がけ、そこから脱線したり、問いを投げかけるなど、隙間や関わりしろを多くして進める。意識したのは「講義なんだけど、みんなでフリートーク」というコミュニケーションの構造。また、環境のデザインにおいては、最初に実践しなかったこともあり、ここで時間をとって、少し実際に試す。意外と身体も動かしたり、空気感も良いままで、ワークショップデザインということに思考が深まっていったので、この時点で「じゃあ、ワークショッププログラムの基本的なおさらいもしたところで、午前中から今ままでの流れをメタ認知しましょうか」と「ワークショッププログラムの分解」に突入する。ファシリテーションについてのお話は休憩後になるということと、ゲーム要素の強いアクティビティは今回はやらない、と決めた。
・プログラムの分解
私がホワイトボード前に立ち、ファシリテーター役として、プログラムの順番や内容、コミュニケーションの構造、方法など訊き出しながら、見える化し「その時、どう感じた?」「どこからそう感じた?」「だとしたら、このプログラム構成の狙いはなんだろう?」と言って一緒にメタ認知していく。しかし、ある程度、講義っぽく解説も挟みつつやってしまったので、今振り返ると、やはりここは受講者主体で考えてもらった方が良かったかもしれない。
15:10-15:20 休憩
15:20-16:10 参加動機に合わせたアクティビティ②と振り返りと講義
講義「ファシリテーションのあり方」とフリートーク
午後の後半は、ファシリテーションについて、簡単な講義をして、今日の一連の進行のとき、”中脇はどう感じてどう行動したか”を伝え、その講義内容と今日の私の動き方を接続することを心がけた(これが最後の個々のふりかえりの前フリになると考えた)。
特に「ファシリテーターも場の一員である」ということを伝えた時、「じゃあ、どうやって動的判断を下すのか」という問いに「ファシリテーターは参加者の反応から場がどうなっているか、自分の振る舞いが適正か見極める合図を持っている」と応じ、「言い換えた時、”そうそう、そうなんですよ”という反応が出れば、適正に応じた、と判断する」「参加者の記憶が掘り起こされ、言葉になって出た時は、場が深まってきている合図」などなど、今日の反応を事例に伝えられたことは良かった。
16:10-16:30 ふりかえり
午後を通して、今日のプログラム構造を俯瞰的に捉えた後は、場をどう見てどう関わったかファシリテーターとしての動的判断を伝えることで、徐々に個々の在り方に意識が深まることができたので、ここまで来れれば最後のふりかえりは、ぐるりと一周一人一人が「今日の感想・学び・気づき・持ち帰れそうなところ」をゆっくり喋れば無事に着地できる。唯一、気にかけていたのは、午前中の「参加動機自己紹介」で一人一人が言った参加した理由と今日の学びをどう接続させるファシリテートをすることだった。
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後記
学びなおし系のワークショップは、参加者の動機や日頃の疑問を引き出すことと、それを他の参加者と語り合う、ということが肝になる。ただし語り合う際には、場を設定する立場の人間(私のこと)は、その語り合いのステージをあげることには気を配らねばならない。単なる「ワークショップあるある」で語るのではなく、講義をする中で「あぁ、それ、思っていたことだったんです」と気づきを促す中での語り合いである。これはできたかな、と個人的には思う。
ただ、ワークショップ中のふりかえりでも書いたが、本当は午後のアクティビティを少しガス抜きとなるようなものと、学びが深まるものを併せ持ったアクティビティを何か考えたい。午後の動的判断で即興的に構成していくアクティビティの幅がまだ少しないのが、課題ではある。
後、この「いつも何度でも(ワークショップデザイナーver)」は、ワークショップのプログラムを考える際の基本のコツを伝えているので、当日は極力シンプルにしている(部屋が狭い。必要以上に動き回らない。道具類をたくさん使わない。演出を控える)。それでも基本のコツを押さえて考えれば、丸一日のプログラムでも参加者の集中や飽きに耐えれる、というところを体感してもらいたいから。自分でもいつもこのプログラムはスリリングだなあ、と思い、終わった後は集中力を使い切っててグッタリするのだが、達成感もそれなりに味わえるので、嫌いではない(笑)
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今までのnote記事
<プロジェクトのHOWTO もしくはAtoZ>
・はじめに
「平成」という時代とファシリテーター、ワークショップデザイナーに至るまで
・プロジェクトが始まる前に気をつけたいこと
プロジェクト型チームの危険性と心構え
・さあ!スタート!そんな時に
【コトの立ち上げ方、進め方】
・プロジェクト、少し慣れた頃の次のステップ
【プロジェクトが拡がるコツとチームづくりの一歩】
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今までのnote記事
<ワークショップの記録と振り返り>
「HOW TO or NOT HOW TO」(アイデア創出系)
「ツレヅレ市場弁当」(価値の変換、疑い系。出かけるコンテンツ)
「ワイルド午後ティー」(価値の変換、疑い系。出かけるコンテンツ)