17-場をみる力(聴く・訊く・観る・応じる)
どんな領域のファシリテーターでも求められる最低条件的な必須スキルを「場をみる力」「場を見える化する力」「場を転じる力」と説明した前回。
「場をみる力」とは「一人一人の意見・反応・雰囲気を的確にキャッチすること」と述べたが、「じゃあ、それってどうするの?何が必要なの?」ということを今回は語っていきたい。
・ファシリテーターは場(全員・全体)をどうみている?
「一人一人の意見・反応・雰囲気を的確にキャッチすること」としているが、「場」というのは、一人一人の意見や反応が順序だててくるものではない。同時多発的に意見や反応が出てくる。その状態下で一人一人を丁寧にみた上で振る舞いや判断を下しているファシリテーターは、ほとんどいないだろう。(それができない故に、議論の交通整理や進行において様々なツールやメソッドを駆使するわけだが)しかし、1対1のコミュニケーションへの理解と習得が一定以上あるからこそ、同時多発的な反応や意見がおこっても、打率の高い直感的思考が働き、全体の機微を解像度高くキャッチしている(と経験上思う)。
時折、メソッド、ツールに頼りきって、参加者の反応やグループワークの過ごし方を伺うことなく、御構い無しにタイムスケジュール通り進めるファシリテーターがいる。頭では「ワークショップは双方向のやり取りでモノゴトを創り上げていく」と理解はしているだろうが、実際に対応できないのは1対1の対人関係のスキルが比例していないからであろう。
・どうして対人関係のスキル?
ファシリテーターの多くは動的判断の秘訣を「場をみる」「気が満ちているか否か」「一人一人がありのままで居られるように振る舞うこと」といった表現をするが、個人的には少し掴み所が難しいと思っており「じゃあ、それは何をやっているから実現できているのか」という説明において、『ファシリテーション入門』(著:堀公俊 )内の「Ⅳ 対人関係のスキル 受け止め、引き出す (p87-122)」で言及していた内容は、かなり丁寧に、そしていくつもの要因が絡むファシリテーターの振る舞いや判断に対して巧みに分解・整理し説明していたため、「場をみる力」に関するコラムは彼の論拠を軸に展開する。
ちなみに堀はファシリテーションに必要なスキルを「場のデザインのスキル」「対人関係のスキル」「構造化のスキル」「合意形成のスキル」と4つに分けて説明している。
彼はフレームワークを巧みに使いこなしながら、議論をベースにモノゴトを進めていくタイプと思われるため、かなりそれに特化した内容になっているが「ファシリテーションがなぜ社会に必要か」といった内容や「対人関係のスキル」については、領域に左右されない普遍性の高さが秀逸であり、堀が得意とする整理思考によって、かなりわかりやすくまとめられている。
(なお、私は「場のデザインのスキル」はワークショップデザインと考えており、「対人関係のスキル」は「場をみる力」とほぼ同意義、「構造化のスキル」も「場を見える化する力」とほぼ同意義だが手法や考え方は違う点はあると考えており、「合意形成のスキル」は「場の転じる力」の一部であると思っている)
・対人関係(コミュニケーション)スキルは何を目指す?
「対人関係のスキル」とは何か、という説明の前にそもそもなんのために、そのスキルが必要なのかを押さえておきたい。
『ファシリテーション入門』p88
チーム活動が順調に動き出せば、(中略)揺らぎや混沌を繰り返しながら相互理解を深め、安心して自由に議論できる場をつくり、自律的に議論が進むようにしていきます。加えて、メンバー一人ひとりの考えを知ることによって、その後の進行の方向性を模索していきます。
というように、チーム活動においては「自由に話し合える状況づくり」と「一人ひとりの考えを知る」ことをポイントに据えており、引き続き、コミュニケーションの目的と難しさを以下のように述べている。
『ファシリテーション入門』p88
コミュニケーションの目的は情報、知識、感情、意思などを「分かち合う」ことです。分かち合うとは「相手と同じものを持つ」(星野 欣生『人間関係づくりトレーニング』)ことです。それができて初めてコミュニケーションが成り立ったといえます。
ところが人それぞれに考え方の枠組みがあり、自分と同じ枠組みを持った人はいません。
さらに堀が明快なのは、「情報、知識、感情、意思」などを分かち合うことの難しさをコンテンツとコンテクストは違うから、と言っている点だ。
『ファシリテーション入門』p89
一般にデータや事実など、情報の本体そのものを「コンテンツ(中身)」と呼びます。ところが情報はコンテンツだけでは解釈できず、他の情報との関係性の中で意味が理解されます。その関係性を「コンテクスト(文脈)」と呼びます。先ほど述べた考え方の枠組み、すなわち文化、風俗、習慣、規範、常識、価値観などがコンテクストです
本でははっきりと明文化はされていないため、私の解釈となるが、情報や知識といった事実レベルのものを「コンテンツ」、感情や意思が伴うものは、その人がいる文化や規範、価値観に左右されるため「コンテクスト(の種)」と思われる。つまり対人関係(コミュニケーション)とは、コンテンツとコンテクスト(の種)からコンテクストを理解して初めて成り立つということだ。
なおコンテクストを理解するためには、相手に尋ねて100%わかるものではないため(人は自分では気づかない自分を持っている)、非言語コミュニケーション(態度、表情、振る舞い)も含めて、相手が発するコンテンツやコンテクスト(の種)を星座のように繋ぎ合わせて、相手の考え方の枠組みを自分自身で描くことが求められる(さらに言えば、その都度書き換えする可能性も認めた更新性も重要だ)。
言語および非言語(態度、表情、振る舞い)も含めて、相手が発するコンテンツやコンテクスト(の種)から相手の考え方の枠組みを理解するコミュニケーションに、堀は「対人関係のスキル」を「聴く・訊く・観る・応える」と分けて、それぞれに習得していく必要性を言及している。
・「聴く・訊く・観る・応える」の目的と効果
それぞれについては、また詳しく述べるが、私は掘の言葉を大いに参考にしたり、自信の経験とも照らし合わせて以下のように整理している。
掘の「聴く」は要約すると「傾聴。アクティブ・リスニング。相手の言う通りに話を受け止め、共感すること。「受け入れられた」と言う(承認された)安心感を紡ぐこと」であるが、それに加えて「聴く」は「発言の内容」×「トーン・テンポ」の掛け合わせによって言葉以外の心情をより理解できる力だ。
「訊く」は質問のこと。堀は「傾聴で話を受け止めたなら、質問を使って話を深めていきます」と述べている。質問を重ねることで情報(コンテンツ)から、徐々に感情や意思といった「コンテンツの種」を引き出し種価値観(コンテクスト)を見つけることと私は理解している。さらにファシリテーターにとって質問がなぜ重要だと言うと、質問を通じ「相手が自ら考え、自分の口から語ること」は「自己選択・自己決定」でもあるため、個々がエンパワメントされると共に納得解にも至りやすいからだ。
「観る」は掘が言うとおり「言外のメッセージを読む」こと。口調、表情、態度といった非言語メッセージをキャッチし、議論だけではわからない感情や意識の部分から論点を浮き彫りにする。
「応える」は掘の言う通り「話をつないで広げる」「発言をわかりやすい形に表現し直したり、他のメンバーの発言を促したりすること」だ。言い換えでメンバー間の理解差を埋め、無駄なズレや対立を避け、建設的な対話の補助を行う。ただ、「応える」は「聴く・訊く・観る」を補完するように他の3つのスキルと組み合わせて活用されていくものと考えている。
以上の4つの「対人関係のスキル」だが、それらはさらに個々でどんな振る舞いや考え方、方法があるかを次回からはそれぞれ語っていきたい。これらを自覚的に扱えるようになって、ようやく同時多発的に行われる発言や行動が行き交う状況をみられるようになると考えている。