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14-コミュニケーションのデザイン(方法編)

ワークショップにおける「いつもと(ちょっと)違うコミュニケーション」を誘発する仕掛けとして「関係・環境・構造・方法」の4点あり、今回はワークショップの狙いを効果的に実体験してもらう「コミュニケーションの方法のデザイン」について語っていきたい。

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・コミュニケーションの方法のデザインって?

模造紙と付箋、ワールドカフェ、KP法といった道具や手法、アイスブレイクの紹介本に載っているようなアクティビティの数々が「方法」(以下、アクティビティという言葉は”方法”と同意義)に含まれる。

では、数多ある方法をどんな基準を持って選択していけばいいだろうか?それには「どんな関係性なのか」「どんな環境なのか」をまず把握し、適したワークショップの系統や規模感の見通しをつけるところから始まる。

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系統や規模感が掴めてきたら「どんなグループの構造を経てプログラムを構成すれば効果的か」「どんな方法を用いると効果的か」という視点で、自分の持っているアクティビティから選んでいく。

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上記の図のように自分のレパートリーをワークショップの系統とグループサイズごとで便宜的にでも分類しておくと、組み立てがやりやすい。また自分の足りない部分にも自覚的になれるので、こういった整理の仕方はお勧めしたい。

ちなみに言えば、「2人→3〜4人→5〜6人」という順番で(山場を)構成していくのが比較的スムーズだが、「全員」を序盤のアイスブレイクの一瞬ネタで使うか、メインのアクティビティとして用いるか、最後のふりかえりで用いるかなどは、ワークショッププログラムの個性やファシリテーターの好みにもよるだろう。

以下は、WSの系統ごとに「構造×方法」で考えられる組み立て例を挙げてみる。(体験学習系については、他の系統の複合であるため、ここでは割愛する)

・目標達成系の場合

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チームワークに必要な体験を促すワークショップであるため、試行錯誤やトライ&エラーを繰り返しながら、グループで「成功を目指す」アクティビティで構成していく。

①「タッチで一周(全員)」とは大きな円になって、手を差し出し合う。隣の人の手が自分の手を叩いたら、逆隣の人の手を叩く。いかに早く一周できるかを試みる。(最初のタイムの4割〜5割程度であれば、縮められるため)どうしたら目標タイムを達成できるか、という意見の発散と収束を兼ねたトライアルを短期間で体験してもらう。

②「背中合わせ。座る立つ(2人)」は、全員にワークショップの目的が端的にどういうものかを理解してもらった後、円の隣同士でペアになり、背中合わせで座り、立ち上がることを試みる。息を合わせ、相手に体重を預けあうと成功するので「相手を頼る・信頼する・息を合わせる」が最小人数で体験できる。

③「人間メトロノーム(3〜4人)」は、さらに隣同士のペアでグループになり、3人組でメトロノームを再現する。真ん中の人は完全に無防備になるので「背中合わせ。座る立つ」より「相手を頼る・信頼する」が試されるし、端の二人も「信頼に応える」が試され、よりチームビルディングが効果的となる。

④「たまご落とし(5〜6人)」はさらに隣のグループと組んでグループとなり「限られた材料で高さ4mからたまごを落としても割れない装置を作る」というお題をトライ&エラーを重ねながら成功を目指す。フィジカルばかりでなく頭を使い、話し合いも行い実験も手がけるため、総合的なトライ&エラーが体験できる。

・共有体験重視系の場合

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チームワークに必要な体験を促すワークショップであるため、「成功を目指す」より「一つのものをグループでつくる」体験に必要なアクティビティで構成していく。

①「だんだん大きく(全員)」は、大きな円になって見えない球をジェスチャーで表現してリレーで渡していくアクティビティ。だんだん大きくなる(さらに”重くなる”を付け加えることも可)と設定することで支える人数が増える。一体感も作りつつ、全員で(見えないのに)イメージを共有することの面白さを伝える。

②「エアキャッチボール(2人)」は全員にワークショップの目的が端的にどういうものかが理解してもらった後、円の隣同士でペアになり見えない球をイメージしながらキャッチボールを行う。ワンバウンドなども交えるとよりリアルなイメージが共有できる。

③「三人羽織折り紙(3人)」は、イメージを共有することの面白さを体験する一方で、今度はイメージが共有しにくいズレを楽しむ。真ん中の人は「目と口」役。左端の人は「左手」役。右端の人は「右手」役。お題は真ん中の人だけに伝えて、何を折るかは言わずに指示だけする。左手・右手役の人は目をつぶり、指示だけを頼りに折り紙を成功させる。言葉だけで伝えることの難しさ、何を折るかわからない中、作業することの難しさを楽しみながら実感する。

④「(4m×4mの)巨大折り紙(5〜6人)」は、3人グループ同士で組んで手がける。役割分担して進めていくよりも折り方を全員がわかってから折っていくことで、グループワークのグルーヴ感やプロセスの充実感を体験してもらい「共創」を経験する。

・他者と私系の場合

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コミュニケーションに必要な体験を促すワークショップであるため、他者と自分との関わりを通じて、他者理解や自己理解を違う視点から体験するアクティビティで構成していく。

①「他己紹介(2人)」は、ペアで自己紹介や質問しあいながら相互理解を深め、発表時には相手のことを代わりに伝えるアクティビティである。極めてシンプルであるが、他者理解を進めていくワークにおいて、他者に承認かつ受容される喜びを体感できることは基本であり必要。

②「イロイロイロ(3〜4人)」はお題に応じて連想する色カードを掲げて、全員一致を試みるアクティビティ。価値観や文化の差、頭で描くイメージの差などで微妙にずれるのだが、カードを出すまでに色々と対話し、一致を目指す時間が最も重要。徐々にグループ内の思考の癖を考慮した対話ができるようになる。

③「ステータス(5〜6人)」は1〜10の数字をランダムに一人一人引いてもらって、数字に応じたお題を出す。例「数字が大きければ大きいほど甘い食べ物、小さいほど甘くない食べ物」。数字は言わず、対話し数字の小さい順に並び直す。価値観の物差しの尺度がいかに違うかがよりわかるアクティビティ。

④「ACOP(全員)」は対話型鑑賞(Art Communication Project)の略称。ファシリテーターのナビゲーターのもと、一つの美術作品を観ながら、お互いの感想を述べあう。「どこをみたから、どう感じた」という根拠にもとづいた感想の述べ方が求められるため、自分と他者の視点と感じ方を違いと同じを理解しつつ、全員で対話しながら徐々に作品の捉え方が変わることを楽しむ。論理的思考と感受性の両方が鍛えられる。

・視点と思考の転換・疑い系の場合

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「人と関わる」ことの前に“そもそも”を疑うワークショップのため、思考や知覚に揺さぶりをかけるアクティビティで構成される。

①「ブラインドウォーク(2人)」は目隠しをした人が見える人の肩に手を添えて(しばらくしたら手を離し、ペアの人の声だけを頼りに歩く)自由に歩きまわる内容。信頼関係を高めることにも使いつつ、視覚が奪われた中での空間移動といった非日常体験の導入。

②「水とダンス(3人) ※原案:美術家安藤隆一郎」は水を入れた大きなビニル袋を複数人で掴まず落とさないよう維持し続けるアクティビティ。「水」という身近な素材の意外な物質性を体験を通じて感じ、日常への視点や認識を揺るがす。

③「輪ゴムぐくり(5〜6人)」は、一人一つの輪ゴムを渡し「一人一つの輪ゴムを使ってくぐること」とお題を出し、色んなアプローチをOKとする。シンプルに一つでくぐるも良し、組み合わせて大きな輪ゴムにしても良し、のれん風にくぐるも良し、といった「とんち的思考」を働かせる。

④「梅干しデッサン(全員)※原案:美術家淀川テクニック」は、梅干しを一人一人食べて、種を口の中で知覚しデッサンする。形を捉えて描くという行為を「目で観る」や「手で触る」ではない方法で行うことで身体の使い方の前提を揺さぶり、使い方を創造する。

・まとめ

以上のようにいずれのアクティビティもワークショップの系統に順じた狙いがあることがわかってもらえただろうか。これらをグループサイズの構造と組み合わせながら、段階的なプログラムにすることで、狙いに応じた要素が角度を変えながら何度でも体験できるワークショップとなる。

ワークショップが目指す「いつもと(ちょっと)違うコミュニケーション」の誘発は、「どんな人たちの集まりなのか」という関係から捉え(関係のデザイン)、「どんな環境づくりを行うか、行えるか」という状況を考慮し(環境のデザイン)、「どんな風に人と出会い、アクティビティを体験すべきか」といったやり取りのグループサイズの流れを想像し(構造のデザイン)、「では何を手がけることが効果的か」とアクティビティを組み込んでいくことで(方法のデザイン)、一つのプログラムとなり「いつもと(ちょっと)違うコミュニケーション」が極めて自然に発生し、参加者の頭と身体に届くワークショップとなる。

世にあるワークショップの中には、どこかちぐはぐし、気持ちがのっていかないものがあるが、やはり上記の「コミュニケーションの4つのデザイン」が噛み合っていないことが原因の一つであると思う。

長々とワークショップデザインについて、コラムを書いてきたが、今までのことを包括的にまとめて、では改めてワークショップの組み立て方の基礎を次回は述べてワークショップデザインへの記述は区切りをつけたいと思う。


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