まちぐらし・高3長女、AO入試に挑む「母親は子どもに去られるためにそこにいなくてはならない」」
夏至前に奥山に獅子舞がやってきてから、週間予報を見ても雨マークが続く日々。
この日曜は、奥山の一斉清掃に家族総出で参加の予定だったが、どう見ても「雨」で中止になる様子だったので、夫に相談して、週末は小2末娘と山を下りて、まちの家で過ごすことにした。
日曜は、まちの家で暮らす高3長女のAO入試の日。
「かあちゃん、行けそうにないけどがんばってね」と伝えて、本人の了承はとっていたものの、できることなら、送り出し&迎えてやりたいではないか!
2週間前、エントリーシート完成後のハプニング
前回、まちの家に滞在した時に、長女に乞われて、AO入試のエントリーシートを一緒に仕上げた。
手書きで完成させたものを元に、Web申請しようとしたら、字数制限で入力できず、「これから字数を減らすのは大変だと思うし、手書きのものを郵送した方がいいかもね」と提案したっきりで、私は奥山の古民家に戻った。
すると、その数日後、エントリーシートの締切前日、
長女から、「投函したエントリーシートが、まだ学校に届いてないらしい。やばいかなあ」という衝撃のLINEが届く。
慌てて電話して、事情を聞くと、エントリーシートを先生に見てもらうアポをとったら、その日、電車が遅れて見てもらえなくて、
翌日、時間を作ってもらって見てもらって、その日の帰りに、学校近くのポストに投函した、とのこと。
木曜の夕方投函で、火曜が締め切り。
「簡易書留とかにしなかったの?」
「高校の先生にも、学校に確認してもらって、エントリーシートに同封されてた切手の要らない封筒に入れてポストに投函したらいいって言われて、そうした」
普通なら間に合いそうだが、月曜夕方の時点でまだ届いてない・・・、とやきもきした数時間後、
「届いたって連絡が来ました。間に合った!いろいろありがとう!」
と連絡が来て、安堵・・・、という顛末があったのだ。
まあ、小さな頃から、うっかりの多い長女。
親から離れて、まちの家で兄と二人暮らししながらの高校通学の中で、
ずいぶん自立してきて、すっかり油断してたけれど、
こんなハプニングもあって、長女は、入試に向けて不安が高まり心細かった様子。
2週間ぶりに私の顔を見るなり、
「おかあさん、面接練習つきあってくれない?」と訴えてくる姿に、
ああ、やっぱり、入試前に帰ってきてよかったと切に感じた。
直前まで面接練習の後、去っていった長女
結局、この日は私が疲れてしまって長女に付き合えず、次の日の朝、長女に「お願いします」と言われて、15分のガチの面接練習。
うまくまとまらない彼女の想いを、まとめて簡潔に返して確認する、優しい面接官を演じた。
終了後に講評。
「覚えたことを思い出して、うまく話そうとしてるやろ?なんだか、長女の想いが伝わってこなかったなぁ」
「相手が求める正解を演じようとしなくても、長女のペースやスタイルを知ってもらえばいいんだから」
「長女らしく想いのキャッチボールを楽しむくらいの気持ちで。深呼吸してね。だいじょうぶ!」
面接練習してくださった高校の先生からは、「エントリーシートに書いたことは、すらすらと言えるようにしておくように」と言われていて、その練習を懸命にしていたらしい。
ん?
エントリーシートに書いてあることは読めばわかるから、「エントリーシートに書いたように」って伝えて流せばいいんじゃない?!
なんだか先生の言葉に「面接を無難に済ませるテクニック」を感じる。
そんな指導をみんな真に受けるから、受験でも就活でも、みんな同じ服装、動作、紋切り型のセリフになってしまうんじゃないかなあ。
まだ、自信を持てない長女の様子に、翌日、試験会場に向かう家から最寄り駅までも、「一緒に行っていい?」と提案し、面接風の質疑応答をしながら、一緒に歩いた。
歩きながらだと、変な緊張がなく、言葉が弾む。
彼女が、なぜ、その学校を選び、卒業後、どんな仕事をしたいと思っているか、その想いが言葉の端々に散りばめられていた。
「なるほど。長女は、今まで、人を助けた経験と助けてもらった経験を積み重ねてきた結果、困っている相手の力を専門的に高めて、自立するよう助けてあげる仕事に就きたいと思って、その学校に進学したいと思っているのね」
そう、長女に返すと、ストンと腑に落ちたようで、
びっくりするほど、素直に、スムーズに、自分の夢を語り始めた。
長女の自信があふれてくるのを感じる。
ああ、これできっと大丈夫だ。
駅前の信号待ちで、「じゃあ、ここで帰るね」と伝えると、
長女は、「ありがとう!」と言うなり、駅を目指して、振り向くこともなく進み、その背中を手を振りながら見送った。
ああ、
「母親は子どもに去られるためにそこにいなければならない」
『子どもを信じること』の著者、田中茂樹さんが紹介していた、とある心理学者の言葉を思い出す。
帰宅するなり、長男と留守番していた小2末娘は「プールへ行きたい!」
ということで、乗合タクシーでまちの「夢の楽園」へ出かけ、
長女のことなど、思い出すこともなく、末娘と泳ぎ果てていた。
「試験、終わったので、友達と反省会して帰ります」のLINEが来て、
結局、長女が帰宅したのは、暗くなってから。
怖い面接官の方で、練習のようには全然しゃべれなかった、と意気消沈していたが、
あの、小1〜中2の夏まで学校に行けず、奥山に引きこもっていた彼女が、ここまでたどり着いたことが奇跡だと、
「お疲れさま〜」とねぎらいのごちそうをみんなで囲み、入試の一日を終えたのだった。