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逆に考えてみる。ダスマリナスはどうすれば井上尚弥に勝てたのか

注目の井上尚弥・ダスマリナス戦は、井上が3RでTKO勝利。
大方の見込み通り、圧倒的な強さを見せつけた。

深遠なる左ボディブロー

特に、かすっただけで悶絶する恐るべき左ボディブローに注目が集まった。
私としても、ボクシングで最も妙味が深いパンチは左ボディブローだと思っている。

実際にサンドバッグなどに打ち込んでみればわかる。
身体の集注観がズレていると、こっちの身体のほうが「ズキッ」と来てしまうのだ。
何度も繰り返し打って、この「ズキッ」を消していく作業が必要になる。
細かいズレを修正していく作業だ。

この「ズキッ」がなくなったとき、恐ろしい威力になる。ミットを持つ相手が両手で押さえ込んでもぐらついてしまうほどの威力だ。

そして、それほどの威力のパンチが、左手で打っているゆえ自動的に相手の右脇腹…つまり肝臓に入ることになる。
こんなものが入ったら、どんな人間でも悶絶間違いなしである。

この左ボディブローを極めて高い完成度で仕上げているのが井上尚弥だ。
「モンスター」の異名に相応しい必殺ブローと言える。

では、ダスマリナスはどうすればよかったのか

こうなると、判官贔屓の日本人。
まったくいいところがなかったダスマリナスに同情の心が芽生えてしまうのも人情というもの。

マイケル・ダスマリナスは間違っても弱くない。
IBF世界1位。井上戦の前の戦績は33戦30勝20KO2敗1分け。

家族の幸せのために拳を握ってきた。農業と大工を兼業する父と専業主婦の母の間に生まれた11人きょうだいの五男坊。9歳でボクシングを始めた。すぐに試合のリングに上がり、帰りがけに客の“投げ銭”から50ペソを渡された。日本円で110円ほどの“ファイトマネー”。13人家族の1日分のお米代になった。「とてもうれしかった。9歳の私には大きなお金でした」。両親の心配をよそにアマチュアで活躍し、奨学金を受けて高校に進学。卒業後は迷わずプロの道を選んだ。

…泣けるじゃないですか…😭

しかし、プロのリングは無情。
勝つか負けるかしかない。

ダスマリナスが井上尚弥にせめて一矢報いるためには、何が足りなかったのだろうか?

そのヒントは、実は井上尚弥本人が語っている。

ドネア戦の前に発売された井上尚弥著「勝ちスイッチ」。

「王者は何を考えて、何を考えないのか」
の帯コピー通り、井上尚弥の思考法、試合に臨んでの準備法、試合中の組み立て方などを語っている。
こんな大ヒント、対戦相手ならば読まないでいいわけがない。

例えば、「第2ラウンドの戦い方」の章では、このように書かれている。

 なぜならばボクシングで最も怖いラウンドが2ラウンドなのである。1ラウンドで、互いの手の内がわかる。1ラウンドでは、五感をフル活動させて情報を収集。スピード、パンチ力、間合い、ステップなどを察知して、猛烈なスピードで、それらの情報を処理して対策を練らなければならない。(中略)
 情報処理を行った上で、戦法を変えてくる選手がいる。(中略)1ラウンド目と、何ひとつ変わっていない選手に不安はないが、スタイルを変えてくるボクサーは厄介である。そういうボクサーは何かを持っているのだ。外から見るとわかりにくいだろうが、気持ちの強め方、弱め方も拳を交えると感じるものなのである。
 2ラウンドには魔物が潜んでいる。

なんという大ヒント。
つまり井上尚弥を相手にするなら、2ラウンド目で1ラウンド目と異なる引き出しを開けることが必須、ということである。
これができないのであれば、勝機はないのだ。

ダスマリナスは1ラウンドに続き、2ラウンドでも井上の強打と「名」の圧力に押され続けた。
井上からすれば「これは仕留められる」と見えたことだろう。

「自分なりの黄金パターン」というものも、もちろんあるだろう。
ただしそれは、多数の引き出しがあって、かつ他を捨て去った上での「黄金パターン」である必要がある。

こういうことができていれば、2ラウンド目で変化なしと油断した相手を逆に仕留めることもできよう。
しかし、思考や心がワンパターンに閉じてしまっていては、引き出しの多い相手に勝つのは難しい。

理想を言えば、「無数の引き出しを持っていて、かつ、それをすべて捨てた状態」が望ましい。

まあ、あくまでも思考実験だ。
私ごときが史上最強やもしれぬチャンピオンの攻略法を語るのもおこがましいかもしれないが、最低限これくらいのことは考えておかないと「いい試合」にすらならない可能性が高い。

諸兄諸姉のご参考になれば幸いです^^

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