成人の日を前にして怪文書を2025

 こんなことがあった。

「後輩君、大人って何だろうね」

 いつもの部活の最中、唐突に先輩が切り出した。
「……急にどうしたんです?」
 少なくとも、貴重な青春の一ページをベイブレードに費やしているうちはまだまだ子供だと思うが。
「んーほら、来週成人の日だなー、なんて考えてたらふと気になっちゃって」
「あぁそういう……先輩は来年成人でしたよね」
 確か法律が改正されたとかで、今は20歳ではなくて18歳からが成人となる、とか何とか。
「そそ。あと一年で私も大人の仲間入り、ってわけ。結婚もできるようになります」
「あれ、女性は16歳から結婚できませんでしたっけ?」
「んーん、法律が変わって、今は男女共に18歳からになった……はず」
 先輩は若干自身なさげな様子である。
 一応スマートフォンで調べてみたが、確かにその通りだった。
 男女問わず高校卒業がデフォルトになってる昨今、結婚には経済的および社会的な成熟が必要だからとか何とか。
「てかさ、来年の誕生日であなたは成人です、って言われてもなーって。別にお酒飲めたり煙草吸えたりするようになるわけでもない、し、ねっ!」
 話をしながら、ベイブレードをランチャーから射出する先輩。
 慌ててこちらもそれに追随する。
 ゆるいすり鉢状のスタジアムに放たれたベイブレード同士が激しくぶつかり合う様を眺めながら尋ねる。
「したいんですか? 酒とか煙草とか」
「んー煙草はいいかな。煙の臭いとかちょっと苦手だし」
 幾度かの衝突の末、スタジアムから弾き出されることなく、両者のベイブレードの回転が止まった。
「……若干後輩君の方が早かった」
「いーや先輩のが早く止まりましたね」
「てか後輩君スタート遅れてたし」
「それはかけ声言わない先輩が悪いだけでは」
 ……こういう不毛な言い争いしてるうちは子供なんだろうな、と思う。
 最終的にじゃんけんで勝敗を決することとなり、熾烈なあいこの繰り返しの末に敗北を喫した。納得がいかない。

「後輩君はどうなの? お酒とか煙草」
 再戦の前にパーツの交換をしていると、今度は先輩から問いかけてきた。
「先輩と一緒ですかね。煙草は別に。ただお酒は興味あります」
「あーわかるかも。酔っ払うってどんな感じなのか体験してみたい」
「先輩はなんか、酔っ払うとめんどくさくなりそうですよね」
「そっそういう決めつけは良くないと思うなぁ!」
 不服そうな口調だが反論のキレは悪いあたり、自分でも否定しきれないところがあるのだろう。
「そっそういう後輩君はなんか、お酒飲んでも全然変わらなそう! そんで酔っ払った私にいつもみたく辛辣なこと言うんだ! きっとそう!」
 決めつけているのはお互い様のようだ。
「いや流石にそんなことは」
 一応否定はするが、その光景は容易に想像ができるなぁ、と考えつつ、自分たちの三年後について思いを馳せる。

 先輩の成績はよく知らないが、流石に進級進学が危ういレベル、ということはないだろう。
 順当にいけば、お互い高校を卒業し、大学へ進学。
 少なくとも今みたいに、ほぼ毎日放課後に顔を合わせるような関係ではなくなるだろう。
 きっとお互い、それぞれの居場所を見つけ、新たな交友関係を育んでいって。
 今日のこの何気ない会話だって、いずれは青春の一ページとして過去の思い出に──

「それじゃ、私が初めてお酒飲む時には、特別に後輩君を立ち合わせてあげる!」

 だから私の二十歳の誕生日は予定空けといてよね、と笑う先輩。
 成人になるまでこの関係が続いていると全く疑わないその口ぶりに、パーツ交換の手が止まった。

「……それこそ、さっきの話みたいに僕が介抱することになるのでは?」
 他愛のない、三年後まで覚えていられるかさえ分からないような口約束。
 それでも自然と頬が緩みそうになる。
 とりあえず顔を見られないようにそっぽを向いた。
「かっ代わりに後輩君が初めてお酒飲む時は私が付き合ってあげるから!」
……たぶん同じことになるだろうけれど、それはそれできっと楽しいのだろう。
「はいはいわかりましたから。ほら、次はちゃんとベイブレードで白黒つけますからね。ご自慢のベイブレード吹っ飛ばされる準備はできました?」
「おっ、いつになくやる気だね後輩君! それじゃ、先輩の本気ってやつを見せてあげちゃおうかな!」
 謎の自信に溢れた先輩に、思わず苦笑が漏れた。

 これから先のことは分からないけれど。
 その日がくるまで、せめてこのままの関係でいられたらいいなと、そう思った。


 推しのラジオ『baby×3』が終わってはや数年、いまだにベビ高から卒業できてない仲谷が大人になる日はまだまだ遠い……卒業……そんな日が来るのか……? 

 と、とりあえず今回はこの辺で……(震え声

いいなと思ったら応援しよう!