大晦日の夜にも怪文書を2024

 こんなことがあった。

 紅白が終わり、ゆく年くる年が始まるといよいよ今年も終わり、という実感が湧いてくる。
 母が年越し蕎麦を茹でるためにこたつから立ち上がった時、ふと先輩にLINEを送っておこうと思い立った。
 思い返せば先輩の思いつきに振り回されてばかりだったとは言え、退屈しない高校生活を送ることができたのは事実。
 新年を迎える前にお礼のメッセージくらい、送っておいても損はないだろう。
 傍らのスマートフォンを手に取り、文面を打ち込んでいく。

 『こんばんは。今年は先輩のおかげで楽しい一年を過ごすことができました。来年もよろしくお願いします』

 ……何と言うか、先輩のおかげというのがちょっと気恥ずかしい。いや事実先輩のおかげだと思ってはいるのだが。
 顔の見えないメッセージという形であれ、異性に対して素直な気持ちを伝えるのに抵抗を感じるのは、思春期男子としては無理からぬことではなかろうか。
 とは言え、考える時間はあまり残されていない。
 どうせなら今年の感謝は今年のうちに伝えておきたいところだ。
 少しだけ悩んだのち、

『こんばんは。先輩には今年一年、何かとお世話になりました。来年もよろしくお願いします』

 凄く無難なところに落ち着いた。我ながらちょっと堅苦しいのでは、とも思ったが再考する時間はもうないので、とりあえず送信ボタンをタップ。
 無事に送信完了したのを確認してスマホを置いた。
 さてあとは返信待ちつつ蕎麦の茹で上がりを待ちますか、と炬燵の上の蜜柑に手を伸ばしたところで、手放したばかりのスマホが震え始めた。
 画面を見ると、先輩からの着信を告げている。
 メッセージでの返信かと思っていたらまさか電話が来るとは。
 慌てて炬燵から出て、自室へ向かいつつ応答した。
「もしもし」
『あ、もしもし後輩君? どしたの急にこんなメッセージ送ってきて?』
「いやその、文面通りというか。一応お世話になったお礼くらい送っとくのが礼儀かなと思いまして」
 まぁぶっちゃけこちらがお世話をしていた割合の方が若干多かった気がしなくもないですが、という言葉は飲み込んだ。
『そんなの別に気にしなくてもいいのにー』
 後輩くんは真面目だなぁ、と言う声色は少し嬉しそうだ。
 それだけでも送って良かったと感じた。
『こちらこそありがとね? 同好会に入ってくれたのは勿論だけど、それ以外にも色々。今年一年、後輩くんがいてくれて良かった』
「っ」
 あまりにストレートな感謝の言葉に、どう返したらいいのか分からない。
 ホント先輩そういうとこですよ、と言いたくなるが、言ったところで何も伝わらないだろう。
『……あれ? おーい、後輩くん?』
 此方の動揺など露知らず、呑気にもしもーし、と呼びかけてくる先輩の声。

 ……ふと、今ならこちらも素直に感謝を伝えられるような気がした。

 一呼吸置いて、気持ちを落ち着かせる。
 頭の中で言葉を選ぶ。

「え……っとその、こちらこそ先輩のおかg」
『あ、日付変わった。後輩くん新年あけおめ!』

「…………うっす。あけおめっす」
 ホント先輩そういうとこですよ、と言いたくなる。
『と言うわけで、去年最後に後輩くんとお話してたのは私で、今年最初にお話したのも私hってことで!』
「……まぁ、そういうことになりますかね」
 まさかそれでわざわざ電話してきたのかこの人?
『ふふっ、改めて、今年もよろしくね、後輩君?』
 弾んだ声色に、今年も何かと振り回されるんだろうなと、新年早々思い知らされることとなった。


 ……大晦日、飯作って描き納めして書き納めしようというバイタリティが我ながら恐ろしい。
 そんな余裕はないって前の記事で書いてたはずなのにね。おかしいね。
 まぁ、昔某ラジオの最終回に送りつけたメールが原案なので、ゼロから生み出すよりか楽でしたわ。
 これでだいぶ存在しない記憶も吐き出せましたし、年始からはこの己が内のバケモノも落ち着くことでしょう。
 それでは皆様方、良いお年をお迎えください。


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