年の瀬に己の中のバケモノが暴れておる
こんなことがあった。
「なーに? 人の顔そんなじっと見つめて……ひょっとして見惚れちゃってる?」
「いや口元にソースついてるなって」
「早く言って!?」
……などという会話をしていたのが一時間ほど前のことだったのだが。
「………………これはもはや詐欺だわ」
カメラの前に凛々しい表情で立つ先輩を遠巻きに眺めながら、思わずひとりごつ。
元々、整った顔をしているな、とは思っていた。
思ってはいたのだが、常日頃の残念な言動を目の当たりにしていると、それをつい忘れてしまうのだ。
だから「週末街歩いてたら読者モデルにスカウトされてー。やー美人は辛いわー」などとドヤ顔で自慢してきた時も、
「後輩の前で見栄張るにしたってもう少しマシな嘘があるでしょ」
などと鼻で笑いながらも、内心「まぁあり得ない話じゃないか」と、納得している部分はあった。
が、そんな此方の心中が先輩に伝わるわけもなく。
舐め腐った後輩の態度に憤慨した先輩が、それなら雑誌の撮影現場に立ち合わせてやろうじゃないか、と言い出し、今に至る。
「ほーんと……黙ってりゃ綺麗なのに」
ぽつり、ため息混じりに呟く視線の先。
見知ったはずの見知らぬ美人がカメラマンの指示に応えて、若干辿々しいながらも次々とポーズを変えていく。
休日に部活の備品の買い出しに付き合わされたりしているので、先輩の私服姿は何度か見かけていた。
ただファッション誌のページを飾るとなるとその変貌ぶりといったら比べものにならないわけで。
見れば見るほど、先程顔を真っ赤にして口元を拭っていた残念な人と同一人物とは、とてもじゃないが思えなかった。
ぼんやりと眺めていると、ふと先輩がカメラから視線を外して此方を見た。
メイクのせいか、いつもより大きく見える瞳とばちりと目が合った瞬間、心臓が跳ね上がる。
急に体温が上がり、顔は真っ赤になっているのが自分でも分かる。
そんな姿を見て、満足そうに先輩はにんまりと笑顔を浮かべた。
悔しいが、いつもと違うその姿に動揺しているのは事実だからどうしようもない。
すると、何やら口をぱくぱくとさせ始める先輩。
「……?」
こちらに向けてのメッセージだろうか。
口元に意識を集中させる。
ルージュをひいた形のいい唇が、何を伝えようとしているのか分かったのは三回ほど繰り返してからのこと。
(み・と・れ・ちゃ・っ・た?)
カメラには映らない、意地の悪い表情を浮かべた先輩に、不本意ながら黙って目を逸らすほかなかった。
ボイスキットの推しのページを眺めていたとき、突如仲谷の脳内に溢れ出す存在しない記憶──!!
……存在しない記憶ってのはマドハンドみたいなもんでね、一つ生じるとどんどん仲間を呼ぶからこまります。
Launch Vehicleさんのアー写はめちゃくちゃカッコ良くて、ボイスキットさんのアー写はザ!清楚!って感じでね、印象の振れ幅が大き過ぎて振り落とされそう。必死にしがみついてます。
というか大掃除も控えてるのに、何やってんだ俺……