「明日から仕事」という現実からの逃避
こんなことがあった。
「今日はランニングします」
新年最初の登校日。
始業式を終え、部室に来て早々の、先輩からの唐突な提案だった。
「ランニング? 走るんですか?」
「そう! ベイブレードに限らず、何をするにも体力は大事! さぁ早く準備する!」
いつものブレザーから赤いジャージ姿に着替えた先輩はやる気に満ち溢れ、今にも走り出しそうだ。
事あるごとに運動部や体育の授業に対して不平不満を口にしている人間の姿とは思えない。
どこぞの漫画や映画に影響されたか……まさか。
「正月食べ過ぎたんですか?」
軽快に足踏みしていた先輩の動きがぴたりと止まった。
「……違いますけど? 年も明けて心機一転、弛んだ気持ちを引き締める意味でも、これからは活動に運動を取り入れていこうかな、っていう……それだけですけど?」
平静を装っているものの、目は泳いでるし、声は上擦っているしで動揺を隠しきれていない。
どうやら図星らしい。
あまりの分かりやすさに思わず吹き出してしまう。
「あ、今笑った! 笑ったでしょ⁉︎ いいからさっさと準備するっ!」
その後、顔を真っ赤にした先輩との問答の末、
「今のままでも先輩スタイル良いし大丈夫ですって。食生活が戻ったらまた自然と減りますよ」
という言葉に、不承不承、といった風ではあったが納得し、年明け早々のランニングは回避できた。
ただその日の帰り道、コンビニで買った肉まんを嬉々として頬張っているあたり、元の体重に戻るのは少し時間がかるかもしれないな、と思ったが、口にはしないでおいた。
まぁゆりイベントvol.7+楽しかったなぁ、と余韻に浸りつつ、足元まで迫りつつある仕事という現実から全力で目を逸らしつつ、「こんなん書いてる暇あったら推しの番組にメールのひとつでも送ったらどうだ」という内なる声を無視していたらなんかできました……少し短いけど今回はこの辺で。