聖なる夜に怪文書を2024

 こんなことがあった。

「後輩くん、明日は部活お休みにするから」

 部長命令ね、と有無を言わさぬ先輩の一言に、下校準備の手が止まる。

 明日は終業式で、式が終われば基本的には全員下校する学校に残るのは運動部くらいなものだろう。
 とは言え、そこはやる気だけなら彼らにも劣らぬ我らがベイブレード部(正確には同好会)部長である。
 ベイブレード道に休みなんてない、などと宣い、どうせ終業式の後も部室に集合させられるのだろう……と内心ため息を吐いていたところにこの発言である。
「それは構いませんけど……意外ですね。てっきり明日もあるもんだと」
 内心の動揺を抑えつつ、使っていた道具の片付けを再開する。
 なぜ狼狽えているのか。
 それは今日が12月24日だから。
 つまり明日はクリスマスである。
 そんな日に部活を休みにする、というのだ。何かしらの予定があるのでは、と勘ぐりたくもなる。
 口を開けばベイブレードの話題と天然発言が目立つものの、先輩は結構美人……な方だと思う。というか美人だ。
 これまでそういった気配を感じたことは一度もなかったとは言え、実は聖夜を一緒に過ごす相手がいたとしても何もおかしくはない。
「んー? まぁせっかくクリスマスと午前授業が重なってるわけだし? たまにはいいかなーって」
 どことなく歯切れの悪い先輩の物言いに疑念が深まるものの、追及したところではぐらかされるだろう。
「まぁ、別にいいですけど。了解です」
 お疲れ様でした、と素っ気なく告げて、通学鞄を背負う。
「あ、ちょっと待って私も帰る!」
 慌てた様子の先輩に背を向け、ひと足先に部室を後にした。

◇…………◇…………◇

 校門を出て、すっかり暗くなった通学路を先輩と並んで歩く。
「季節が過ぎるのって早いよねぇ……この前まで夏だと思ってたらもう冬だもん」
 先輩のため息混じりの吐息が、視界の隅を白く染めた。
「そっすね」
 我ながらいつも以上に愛想のない返事に、少し自己嫌悪。
 内心焦りのようなものを感じてはいるものの、かと言ってそれを表に出すのは気が引ける。
「後輩君、なんかいつもより機嫌悪くない? せっかく明日午後から休みにしてあげたんだから、もう少し嬉しそうにしてもいいと思うんだけど?」
 不満げにこちらの顔を覗き込む先輩の顔から目を逸らす。
「別にそんなことないですけど。そもそも休みになったところで予定があるわけでもないですし」
 少し拗ねたような物言いになってしまった。
「へぇーそっか。後輩君は明日特に予定がないと。ふぅん」
 そっかそっか、と、何やら頷いている。
 表情は見えないが、声色からにやにやと笑みを浮かべているのが伝わってくる。
「別に良いでしょほっといて下さいよ……て言うか、先輩こそどうなんですか」
 口にしてからしまった、と思った時点ではもう遅い。
 ……いや別に良いだろ予定訊くくらい同じ部活の先輩後輩なんだから全くの赤の他人ってわけでもないんだし世間話の範疇に入る話題なんだから気にせず訊いたらいいじゃないか、誰に言い訳するでもないのに自分に言い聞かせる。
「どうなんですか、って……私の明日の予定?」
「珍しく部活休みにするくらいだし、何か用事とかあるんじゃないんすか?」
「んーそーだなー……」
 数秒ほど何事か思案したのち、
「……秘密、ってことで」
 ご丁寧に人差し指を口元に当てて、悪戯っぽい笑みとともにそう返された。
「……まぁ、いいですけど」
 かなりイラッときたが、ここで食い下がるのは何だか気が引けるので、胸のわだかまりを吐き出すように大きなため息を吐く。
「……気になる?」
「別に」
「嘘。気になる、って顔に書いてある」
「…………」
 図星である。
 とは言えそう易々と認めたくないのが思春期男子の心理というもの。
「そうだなあ……じゃあ一つお願いごと訊いてくれたら、教えてあげても良いかな」
「お願い?」
 いきなり何を言い出すのかこの人は。
「そうお願い。どうする?」
 にやにや笑いを浮かべながら、問いかけてくる。
 先輩の手のひらの上で転がされてるような気がす
 る。
 ……気はしているのだが。
「…………訊くだけなら」
 我ながら、振り絞るような声が出た。
「よし決まりね!」
「いやだから訊くだけですって」
「まぁまぁいいからいいから」
 そう言うと先輩は小走りで数歩先へと進んでいく。
 困惑するこちらを他所に、くるりとこちらを振り返ると、
「それじゃあ……明日の放課後、私の買い物に付き合ってくれる?」
 満面の笑みで、そんなことを宣うのだった。


 ……気付いたら聖夜終了まで一時間を切っている……だと……?


 えーどうも、精神的にだいぶ疲労困憊している仲谷さんです。
 心を落ち着かせようと、昔推しさんのラジオに送りつけた寸劇を聴き返していたら、気付けばこんな怪文書を書いていました。今では反省している。

 この記事を読まれた方は、聖夜にこんな怪文書をしたためるような駄目人間にならないように。仲谷さんとの約束ですよ?

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