跡
カービングとは、野菜や果物に花などの模様を彫刻する、タイの伝統工芸の1つである。その起源は約700年前とも伝えられ、もともとは宮廷の女性が、王様に捧げる食事を美しく飾ったことに始まると言われている。
私は、石鹸に彫刻するソープカービングをしている。道具は、カービングナイフ1本。石鹸は市販のものを使う。
彫刻というだけあって、ナイフの跡は必ず残る。習い始めた頃は、石鹸を薄く削ぐようにして削ったものだ。一息に石鹸を切り取り、模様を浮き上がらせるなんて、失敗が怖くてできなかった。当然、無数のナイフの跡が残ることになる。失敗が怖くて安全策を取ったはずなのに、美しい仕上がりには遠かった。
ナイフの方向と刺す角度を決めたら、一息に動かす方がきれいな跡になる。途中で迷ってもいけない。迷った跡も残るからだ。集中して一息に彫る作業を繰り返す。
こうしてできあがったものは、ただの石鹸ではなく、1つの芸術品になっている。
(週刊キャプロア・創刊号に掲載)
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