雑感57 “ヴェネツィアの宿”から、備忘録3
印象に残った一文がある。
わたしの中で、自分のカードをごまかし続けてきた惰性が、弾き飛ばされた一瞬だった。若き著者と、修道女のマリ・ノエルさんのような姿勢で生きてこなかった自分を思う。生きてきた時代が違う、文化が違うと言ったところで、何の解決にもならないだろう。こんな時、ぬるま湯のような日本で生きることの甘えと、日本で生活していることの幸せが身に沁みる。
このエッセイの最後に、財産を受け継いだ女性と、深い色合いの木陰に立つ修道女の二人が描かれている。著者が、この二人を対称的に配置した意図はなんだろう。それぞれが自分のカードをごまかした様子はない。一生懸命に生きているのだ。
自分のカードをごまかすという表現が、しばらく頭から離れない予感がする。 (了)