ネパール生活記🇳🇵3
「ムスタン」この言葉を聞いてからどこかフワフワした時間が過ぎていった。
そもそもネパールの首都カトマンズにも魅力は沢山ある。宗教に関係している歴史的建造物を始め、標高が高い事もあり、朝や夕方の景色は綺麗だ。気候も穏やかで、暑すぎず寒すぎず。天気が変わりにくいことを除けば住みやすい町なのではないかとも思う。
しかし、もう私の頭の中は「ムスタン」のことでいっぱいだった。今の所現地人にオススメされて外れたことはあまりないというのもあるのだろうが、「幻の王国」という響きが私の脳を支配していたのは間違いない。
「ムスタン」の話が出た翌日。日本にいるネパール人の姉から連絡が入った。
「ムスタンに行っておいで」「手配はするし、私の家族を連れて行っていいから」
「明日から」
「え?明日から」日本以外の国は基本的になんでも遅いイメージがあった為、そのスピード感に驚いてしまった。明日からと決まった以上私のワクワクは最高潮に達した。今日は早く寝て明日は5時には出るという。
今までの私なら「早えなあああ」と思っていただろうが、お陰様でネパールでは早起きをできているお陰で、なんら不安はなかった。
翌日。早朝4時過ぎには目が覚めた。こんなにもワクワクするのは久しぶりだ。
私は初めて「ムスタン」という言葉を聞いた日以来、インターネットで調べるのをやめた。なぜなら、余計な先入観を入れたくなかったからだ。ナチュラルな感覚で捉えたかったのかもしれない。
荷物をまとめ、まだ真っ暗な街に出る。こんな早くから例にしてパンパンのバスに乗る。身動きが取れないほどに詰め込まれた私は大きな荷物と、それよりはるかに大きい「期待」を抱えて揺られ続けた。
1時間くらい経っただろうか。どうやらここで降りるみたいだ。
乗り換える先に待っていたのは「ミニバン」と言われる車。
嫌な予感が頭をよぎった。タイでこのタイプの車に乗ったときはたった4時間の移動にもかかわらず一番きつい思いをしたからだ。
今回はなんとその4時間を上回る7時間の移動。まずは中継地でありネパール第二の都市「ポカラ」を目指すという。
車に乗り込んだ私はここで少し初めての不安を抱えながらまた揺られた。
少し時間が経つともう山道にいた。窓から外を見れば急降下の崖が大きな口を開けてこちらを待っているではないか。あまり舗装されていない道も私の不安をより大きなものにする。しかし少し空を見上げればそこには壮大な風景があった。
いつにもなく揺れる車内。ヴィエンチャンからヴァンヴィエンの道が可愛く思える。私は時折、車内で飛びながらポカラまで向かっていた。
大きな大きな山をいくつか超えたのち、とうとう「ポカラ」についた。なんだかんだでしっかり7時間以上かかっているところはさすがだ。もう驚きもしない。
今日はここで一泊するらしい。私はいつ到着するのかもよくわからないまま大きな期待に満ち溢れていた。
「ポカラ」とは第二の都市であり、自然が拝めるネパールでは人気の街だ。観光客も見え、天気がいいとヒマラヤ山脈まで見渡せる。空気も綺麗で申し分ない。しかしこの奥に続く、「ムスタン」まで行く観光客はあまり多くなく、トレッキングで行く者がちらほらという感じだ。ましてや、その多くは欧米人であり、いわゆる東アジアの人間はあまり見ないという。そんなことがまた興味を引き立てる。今吸っている空気は十分に美味しい。しかし、これ以上の絶景が待っているのかと思うと、もう私の頭はパンクしかけていた。
この日はポカラを観光。何不自由なく観光地を巡ることができ、綺麗な景色も拝めた。しかし、どうしても「物足りない。」どこか心にポッカリと穴が空いたような感覚だ。私はまるで悪徳宗教にのめり込んだかのように、心を奪われていたらしい。
「ムスタン」なんていう言葉を聞かなければおそらくこうはならなかっただろう。
そんなことを思いながら、私は夜の街に更けていた。明日はとうとう出発の日。私を踊らせてくれたその場所には何があるのか。そこに住む者は、働く者は、一体どんな表情をしているのか。全てが気になってあまり寝れそうにない。
私はそっと電気を消した。