
町喫茶(1) ラッキー亀有2号店~亀有~
人の性格は外見にあらわれやすいものだが、店の佇まいからも内部の様子をうかがえることがある。「ラッキー亀有2号店」もそうで、大きなガラス面に大書された「自家焙煎」の文字やおすすめメニューをプリントした写真で装飾された入口が、店内の静かな活気とも呼べそうな雰囲気が伝わってくる。

木製の扉を開けて中に入ると、花瓶にさされたテッポウユリが迎える。店主がすぐに「カウンターどうぞ」と声をかけてくれた。入口に一番近い端の椅子に腰掛けると、ホットケーキとブレンドコーヒー、それに食後のプリン(週末限定らしい)を注文する。待つ間、店内を見渡すと正面のカウンター内部の棚にはブルマン、モカ、ガテマラなど種別にコーヒー豆を入れたキャニスター、コーヒーカップ、平皿が整然と並べられている。後ろを振り返ると使い込まれた大きな焙煎機が目にはいる。


カウンターには2人ほど先客がいてまだ数席空いていた。5~6席ほどあるだろうか。先客2人もそうだったが、1人客にはカウンターを案内するシステムになっているのかもしれない。奥のテーブル席にも何組かいて話し声が聞こえてくる。年齢層は高めだ。BGMのジャズはちょうど良いボリュームに調節されていて、心地よく耳元に流れてくる。喫茶店にはやっぱりジャズだよなと聴きながら目と耳で店内を探検していると、来た。サイフォンでいれたブレンドコーヒーは白い無地のカップで供され、ステンレスの小さなミルクピッチャーもついている(ミルクは入れない派なので使わなかった)。一口すするとやや酸味があり、マイルドな苦味がのどを伝わる。癖がなく自然と口の中になじむ好きな味だ。

しばらくするとホットケーキがはこばれて来た。銅板で焼かれているから焼きムラがなく、綺麗な焦げ目がついている。厚みもありふくよかなビジュアルに食欲をそそられるが、何よりも目を奪われたのが上に乗ってるごろっとしたバターの塊だ。「これ全部使い切れるのか…」と不安を抱きながらメープルシロップを上からトロっとかけてみる。一周、二周と円を描くように半分ほどかけてから、ナイフとフォークで一口サイズにカットして口に入れる。フワッとした食感のすぐあとからメープルシロップの甘さが追いかけてきた。バターが一時的に甘さを緩和してくれるものの、舌のうえで溶けてしまうと今度は甘さの幻影がほのかに広がり、ホットケーキとともに溶けていく。最後に焼き目の香ばしさが鼻から抜けるのがわかった。

バターとメープルシロップだけのオーソドックスなホットケーキだが、綺麗な焼き目とふんわりとした食感は、家で作ってもなかなか再現できないなと思う。コーヒーで舌を洗いながら、残りのメープルシロップをかけ一口、また一口とはこんでいくとあっという間にバターの塊が消えてしまった。食べる前は多すぎると思っていたのが、むしろ適量だったことに気づかされた。

そして締めのプリンは週末限定であっさり系の固め。手作り感満載で、口に入れると弾力ある食感や控えめな甘味、舌にこびないマイルドな味がゆっくりと広がってくる。いつの間にかプリンを作っている光景が浮かんでは消え浮かんでは消えていった。どんな牛乳を使っているのか、生クリームは入っているのか、どんな卵を使っているのかなど妄想があちこちに派生していった。
プリンも食べ終わってしまうと、最後に残しておいたコーヒーを飲み干す。冷めても酸味が強くなることなく美味しくいただくことができた。

創業45年というから僕よりも少し若いくらいだ。新しければ良いというわけではないが、古ければ良いというわけでもない。刻んだ時間が空間を古臭くしてしまうのは、ひとえに手入れを怠ってしまったからに他ならない。「ラッキー亀有2号店」は手入れされた空間が刻んできた時間の重みを逆に心地良く感じさせる。
店の入口にあったテッポウユリの花言葉は「純潔」や「甘美」。店主や働いてるスタッフの方々のコーヒーに対する純粋、純潔な思いが訪れる人にほのかに甘美な時間を提供してくれるのかも知れない。
~メニュー~
・ブレンドコーヒー 580円
・クリームソーダ 750円
・ホットケーキ(プレーン) 730円
・バタートースト 330円
・ナポリタン 1000円
(2025年2月時点)
【ラッキー亀有2号店】
〒125-0061 東京都葛飾区亀有5丁目37−1