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事業紹介:ロームのSiCパワーデバイスと 戦略TOP10はクオリティ・グロース
こんにちは。運用部の山本です。
本日のコラムの内容
1) ロームの炭化ケイ素(SiC)パワー半導体事業はクオリティ・グロースであること(ディスクリートセグメントの一部)
2) シリコン半導体では戦略TOP10製品群がクオリティ・グロースであること(LSIセグメントの一部)
3) 炭化ケイ素(SiC)事業の競合と市場の見通しについて
4)SiC関連銘柄の低迷する株価と投資リスクと今後の見通しについて
自信があるから大失敗する
長年の運用経験の中で「株式投資においてはもっとも自信のある案件でもっとも損をしてしまう」という教訓を得ました。何事も自信がありすぎると、ついつい過剰なポジションをとってしまいますね。なかの日本成長ファンドでは原則としてはベータ調整後の均等投資を基本としています。コンビクション(自信度合い)の高さでウエイトを決めることはしません。多くの中から厳選された日本の代表企業ということで、日本代表なのだから均等で頑張るという考えです。
企業経営においても、展望の「ありすぎる」事業で「過剰な」投資をしてしまう場合があるでしょう。過大な投資が固定費の増加を招き、一時的に業績を悪化させてしまいます。ロームもその罠に嵌り、今期については需要の減少も相まって25年3月期の通期業績を下方修正し、営業損失に転落する見通しです。今年1月、同社は来年度から松本社長に代わり、東専務が新社長となるとリリースを出しました。新体制下で固定費の効率化や工場再編を手掛けることになりました。
振り返れば、ロームの設備投資は2020年や2021年には低位で300-400億円台であったのが、前期24年3月期には1867億円に大きく増加しました。これは主に炭化ケイ素事業(宮崎第二工場)への総額3000億円規模の投資の一環です。国家の後押しもあったことも強気の投資の背景でした。設備投資の3分の1程度を上限に国家から補助金が得られます。それとはまた別に、ファンドが先導する東芝の再編にも参画。ロームは総額3000億円の優先株等への拠出も重なりました。東芝のパワー半導体事業はディスクリートを含むシリコン半導体であり、売上規模はロームと匹敵しています。東芝との戦略的な提携は両社による話し合いが進行中です。仮に、ローム・東芝のパワー半導体連合が誕生すれば、強力な日の丸半導体企業が誕生します。また、ロームが炭化ケイ素パワー半導体(以降SiCと略記)、東芝はシリコンパワー半導体というそれぞれの役割分担もはっきりします。
ロームはクオリティ・グロースか?
ローム全社の過去のトラックレコードは必ずしもよいものではありません。過去10年間の全社ベースの増収率の平均は3.5%に留まり、標準偏差は10.2%となっています。これは平凡な数値であり、全社ベースでのクオリティ・グロース感はありません。
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ロームには1990年代の黄金時代がありました。日本のオーディオビジュアルメーカが世界を席巻していた時代です。ソニーのウォークマン向けにロームは小信号のトランジスタで高いシェアを有していました。日本のオーディオ・ビジュアル メーカが強かった時代に、ロームもまた強かったのです。
しかし、2000年のITバブル時の売上のピーク4000億円を超えるのにロームは22年もの歳月を要しました。2000年以降、家電がアナログからデジタルへ移行する中で、欧米アジア勢に追い上げられた日本メーカはシェアを急速に落としてしまいます。ロームもその影響を受けて長い低迷期を迎えます。
その後、アベノミクスを契機に円安の追い風もあり、巻き返し、アジアの競合に対する相対有利のある品質の高さを武器に、車載・産業機械向け中心に徐々に海外顧客を開拓していきました。車載・産機向けは大電流・高耐圧や高い品質が求められるからです。現状の為替水準、人件費が日本で20年も上がらなかったことから、足元ではロームの国際競争力は復活を遂げました。
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近年、同社は、シリコン半導体において、LSIセグメントの中に含まれる戦略TOP10製品群(全社売上の15%程度)に注力していきます。この製品群は、同社の平均的な粗利率よりも1割程度高いのです。戦略TOP10の売上構成を上げていくのがロームの戦略です。CAGR(年平均の成長率)をわたしは年率7%程度(今後10年間)と評価しています。
一方、ディスクリートセグメントではSiC(炭化ケイ素)事業に経営資源を重点的に配備していきます。これら2つの事業が、ロームのクオリティ・グロースであると考えています。こちらも全社の10%程度の売上構成比ですが、CAGRは今後10年で平準的に20%程度を見込んでいます。
現状、ロームのクオリティ・グロース事業の全社売上に占める割合は25%に過ぎませんが、8年後には過半を占めるようになります。利益に占めるクオリティ・グロースの割合は売上構成比よりも高くなります。
戦略TOP10(LSIセグメントの一部)はクオリティ・グロース
ロームがLSI事業で重点的に開発を強化しているのが戦略TOP10と呼ばれる製品群です。具体的に磁気式絶縁ゲートドライバやLEDドライバなどを指します。
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4年前に210億円であった戦略TOP10の売上は前期24/3月期に600億円に達し、4年で3倍の急成長を遂げました。モータドライバは電気自動車の駆動用モータに高電流を送る役割がありますが、高圧側のモータドライバと低圧側の人間が触る部分とを絶縁しつつ、ドライバICにゲート電圧をかける役割があります。モータドライバICを駆動するための絶縁ゲートドライバICということでちょっと混乱してしまいますね。ロームは磁気式の絶縁ゲートドライバではグローバルシェアトップです。また、LEDドライバについてもシェアが高く、これもLEDに必要な電圧を印加するためのものです。LEDヘッドライトが普及しており、さらに最近はハイビームが対向車の運転手にまぶしくないようにする工夫の一環で車載向けのLEDは搭載数が増加傾向にあります。
これら戦略TOP10の増収率の過去4年の平均と標準偏差はそれぞれ27%と30%であり、平均と標準偏差の比率が1ということが示す通り、クオリティ・グロース事業であるといえるでしょう。今後10年のCAGRは7%程度を見込みます。
SiC(ディスクリートセグメントの一部)はクオリティ・グロース
もうひとつのクオリティ・グロース事業はディスクリートセグメントに含まれているSiC事業です。こちらも過去4年の増収率の平均と標準偏差がともに33%であり、文字通りのクオリティ・グロース事業となっています。今後10年のCAGRは20%程度を見込みます。
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SiCパワー半導体は電気自動車のモータ駆動用のインバータに数十個単位で採用されているもので世界の上位5社が9割以上のシェアを持つ寡占市場です。大手の一角がロームです。
SiCの利点と欠点
近年、注目されているのが化合物半導体の一種のSiCです。パワー半導体におけるSiCとは4Hタイプのものです。最大の利点は、絶縁破壊に強いことです。絶縁破壊に対する強度がシリコンの10倍あります。そのため、高電圧が必要な用途では、シリコンの10分の1のチップの厚みでよいのです。パワー半導体は縦型のデバイスであり、電圧を表面と裏面(電流が縦に流れる)にかけますので、その抵抗値は薄ければ薄いほど低くなり、結果としてオン抵抗と呼ばれるものがシリコンの10分の1になります。
オン抵抗が小さいと、電力変換時のパルス波の形がスムーズになり、それだけソフトウェア制御の負荷が小さくなります。また、波形をスムージングするために「必要悪」でアルミ電解コンデンサが必要なのですが、それをソフトウェアの工夫で省くこともできます。アルミ電解コンデンサは寿命が部品の中でも相対的に短いので、省きたい部品のひとつです。チップの薄さが10分の1になれば、小型化が容易ですし、放熱対策もしやすいのです。さらに、オン抵抗の小ささがエネルギー変換効率の高さに直結するので、消費電力が小さくなります。それは、より小さい電池を採用できることを意味します。小さい電池はより軽く、より安く、また、車内空間を広くします。
つまり、SiCの利点は、1)変換効率向上による消費電力の低減(電池容量の節約)、2)部品や基板の小型軽量化によるフットプリントや車内空間の増大、3)部品や電池の削減による軽量化による燃費や電費の向上、4)ソフトウェア制御(プログラミングのコーディング量)への負荷軽減(わたしの仮説)、5)放熱効果の向上などが期待できるのです。
一方で欠点は競合するIGBT(シリコン半導体で絶縁ゲートバイポーラトランジスタのこと)よりも価格が高いということです。少なくとも3倍以上の価格差が存在しています。SiC各社はチップ面積の小型化や大口径ウェハの採用を進めて、価格差を縮めようと努力しています。ロームにおいても、足元、SiCは第4世代の量産ですが、今年から5世代への変換期です。また大口径化については8インチのウェハを昨年稼働させています。
SiCの価格が高い理由は主に2つあり、ひとつは4H-SiCウェハ自体が高いこと、もうひとつはエピタキシャル成長プロセス(ウェハ上での気相成長)が多いことです。半導体プロセスとしても、シリコンと炭素の大きさが違いすぎるので欠陥も多く、気相成長膜はさらに膜の質が悪くなります。純度はシリコンに到底及びません。最大のネックは化合物半導体ではCMOSロジック回路ができません。CMOSはP型とN型で構成されるのですが、化合物半導体はP型が難しいのです。ですから、シリコンの牙城を切り崩すことができる数少ないSiC領域が、電気自動車のモータ駆動インバータなどのパワー半導体の高耐圧分野に限られてしまうのです。
成長が期待できるSiC
それでも、SiCの市場が過去、大きく拡大してきた理由、そして今後も拡大が続くであろう理由については、上記の数多くの利点の方が欠点(割高な価格)を凌ぐからです。たとえば、精密機械やロボットではXYZなどの多軸の位置決めがとても大事で、その位置決めを左右するのがサーボモータと呼ばれる制御専用のモータなのですが、近年、サーボモータ駆動向けのドライバICはSiCモジュールが多くを占めるようになりました。半導体製造装置の電源についても同様です。
前述の通り、SiC採用のインバータのパルスの波形がシリコンよりもきれいなため、精緻な制御とSiCが相性がよいのです。昨今は光学顕微鏡やイメージセンサを装置内に配置しています。電子顕微鏡でモニタリングをしつつ精密な加工する装置が急増していますので、位置決めの高度化はステージ(あるいはアームロボット)の制御向けだけではなく、高分解能を要するモニタリングの焦点合わせの用途も急増しています。
また、エレベータや新幹線などの大電流が必要な用途では、消費電力の削減効果の大きさから10年以上も前からSiCは当たり前のように使われていました。
パワー半導体のメーカにとって、SiCを手掛ける大きな理由のひとつが、モジュール化による付加価値の増大です。それをお話する前に、準備としてインバータのことをまずは説明します。
モータ駆動を例にとれば、三相をつくるために、インバータという機能が必須になります。インバータ制御では三相交流の場合、6つのインプットが必要です。
アナリストは6つのインプットだからSiCの電解トランジスタは6個でよいと思うかもしれませんが、個数はけた違いに必要になります。
ハイエンドの電気自動車の場合、モータ駆動は前と後ろの2つ必要です。さらに超ハイエンドの場合、車輪の数だけモータを搭載する場合もあります。4輪なら4つの駆動モータを使うわけです。
モータの数が1つであっても、ひとつのモータに6つのインプットが必要なのですが、ひとつのインプットでたとえば800Aという大電流を必要とする前提では、素子1つが90A程度ですから、800A÷90Aで8つから9つの素子をアレイにしたうえで、放熱対策を施しモジュール化してパッケージに納めないといけないわけです。
ひとつのインプットに素子8個使えば、6つのインプットで48個のディスクリートSiC半導体が必要になりますが、これがモータ1つの場合です。これが4つのモータを駆動する超ハイエンド車であれば、200個のディスクリートSiCが必要になるわけです。
モータに留まらず、電気自動車にはプラグインで充電が可能になるので、充電器にも同様にパワー半導体が使われます。高速充電にはSiCモジュールがやはり必要になります。モータのインバータの逆、交流から直流をつくるわけです。
ようやくモジュール化による付加価値の向上についてお話ができます。半導体メーカにとって、ディスクリートをアレイにするときに生じる付加価値が後工程のモジュール(パッケージ)です。半導体の素子のアレイの値段を1とすれば、モジュール化したパッケージの値段は2程度に上昇します。その理由は電流経路を計算して熱対策の設計をして、レジンや放熱板の選定を行うためです。
たとえば、ロームの24年のプレスリリースによれば、EV向けのインバータモジュールはサンプル75000円です。素子の値段に比べてモジュールの価格はけた違いに大きいですね。
ロームの品番SCT3022ALHRC11を例にとれば、ドレイン電流は92Aですので、800Aをつくるには10程度のディスクリートが必要です。それが2in1で6チャネルのうちの2チャンネルですから、20個の素子が必要になります。
モジュール化の付加価値(リード、放熱板、レジンなど)はおよそ素子の2倍とわたしは仮定しています。だとすれば、ロームの2in1モジュールのサンプル価格は75000円ですから、その半分の32500円が素子の値段と推量できるでしょう。ロームの場合、このモジュールは300Aがドレイン電流ですので、素子は3つを2ラインで並べて全部で6素子ですから、ひとつ5000円程度(32500円÷6)で販売している計算になります。粗利も考えると、原価はひとつ3000円ぐらいと推察(限界利益はもっと大きいと想定)しました。
かなりラフな計算ですが、アナリストとは、まずはラフでもよいから、とにかく計算して、その後、このラフな計算を取材などで、より精緻なものに仕上げていくのが仕事のうちです。サンプルですので、本格量産になれば、ボリュームディスカウントで半分程度の価格になるでしょうが、それでも価格はかなりの割高なものです。
これほど「割高」なSiC はたして普及するのか?
SiC採用の利点(経済的な価値)がIGBTを超えるときに普及は進んでいくと考えています。現状2000円程度の素子価格が半分以下になるのは、8インチによる生産と第5世代の時代になるでしょう。
ロームの戦略は、素子単体売りをメインにしつつも、将来はモジュール売りの比率を高めていくというものです。
ただ、モジュール売りの成否は不透明(TIER1が手掛けたがる)なので、素子売りの可能性を今回は考えます。モジュール化はあまり業績想定に織り込まないのですが、わたしの業績想定は以下のようになっています。たとえば、今期の売上約400億円がすべてモジュールで売ることができれば、それは800億円の売上になるということですから、モジュール化の業績へのインパクトは大きいのです。そういう意味では、彼らの2in1のサブモジュールの発想は、競合の間隙をつく作戦にも思えます。
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現状、IGBTとの価格の差が大きく、素子あたり少なくとも3倍以上の価格差があると仮定しています。プラグインハイブリッド車の電池が20kWだとすると、SiC採用で10%の消費電力削減(電気代10円/kWh)を前提にすれば数万円の価値の創出になります。計算根拠は多くの前提が必要ですが、20kW電池で一日4時間運転する人が年間100日運転すれば、年間8万円の電気代ですが、その10%が8000円です。車の耐用年数を7年とすれば8000円の7倍は56000円の経済価値です。2000円割高なSiC素子が30個分程度に相当します。
経済価値はそれだけではありません。小型化による部品点数や基板面積の削減効果や車内空間の増大に伴う快適性をも経済価値に落とし込めば、さらに4万円程度のプラス効果があると見ます。これが素子の単価アップとちゃんと見合っているので、プラグインハイブリッドにもSiCが採用されている理由になっているのです。カーメーカがSiC調達をこぞって何年先までの前倒しで契約を急ぐ理由になっているのです。
自動運転はWaymoなどタクシーで始まりますから、タクシーや物流で自動運転が先に普及するでしょうから、SiCは必須で採用されます。日に24時間運転できるのが自動運転車のメリットですし、稼働も毎日となるでしょうから。それがわたしが見通せる明るい未来です。
ちょうど、SiCは普及期入りした状況と思います。後は時間軸だけの議論です。おそらく、インバータについても、一部だけSiCでIGBTとのハイブリッドタイプから普及が始まり、モータ前後2つの場合は、ひとつのモータだけSiCを採用するようなところからスタートしていくでしょう。
電池容量がプラグインハイブリットとハイエンドEVとでは数倍違いますので純粋なEV化が進めば、自家用車用途でも、SiC採用の経済メリットが勝るようになります。プラグインハイブリッドではそこまでの採用メリットはありません。
ESGに前向きとはいえないトランプ大統領が勝ち、株式市場が過度にEVを期待しなくなって、EV市場の見通しも不透明になってきました。ですので、SiC半導体に求められるのは、今年にかなり価格差を縮める努力をすることだけです。チップのシュリンクと8インチへのシフトにより、価格差をしっかり縮めることができれば、プラグインハイブリッドの20kWレベルの電池でもSiC採用の経済メリットが勝るようになります。その時期は2年後、2027年ごろと推察しています。
ロームとしては、2in1などのモジュール販売の比率を徐々に高めていく一方で、戦略TOP10の一角、磁気式絶縁ゲートドライバとのセット販売を進めていくことになります。モジュール化には設計へのフィードバック、つまり、顧客との密な対話が必要ですから、言語に堪能な海外のセールスエンジニアをしっかりと確保していくのが肝心でしょう。
SiC 競合状況
テスラがSiCインバータにSTマイクロを採用したため、STがこれまで市場シェアを伸ばしてきましたがすでに過去の話です。2024年の状況をみれば、勝ち組はonsemiです。STはシェアを落としたのではないでしょうか。ロームはシェア維持しています。競合のIR資料をみて感じるのはonsemiの戦略のきめ細かさです。彼らのIR資料に詳細にモータ1つからモータ4つまでIGBTとの混合モジュールもあり、顧客との対話がとても密と思わせる良質なIRです。
DigiKeyという電子部品や半導体のオンラインサイトがあり、全世界に普及しています。DigiKeyも商売ですから、売れる商品を載せているのですが、意味のある在庫があるメーカはオンライン市場でも世界的に5社に絞られています。
50万個のSiC素子売りの小売り在庫(グローバル在庫)を整理すると、ロームはなんとシェアトップでシェア23%、次いでWolfspeedが21%、onsemiが18%、インフィニオンが14%、STマイクロはTOP5には入りません。
品種の多さでは、インフィニオンがトップ、onsemiが2位、マイクロチップ3位、Wolfspeedが4位、ローム5位となっています。DigiKeyにSiC素子を提供しているのは29社ありますが、品種100以上は6社のみです。マイクロチップは、しかし、意味のある在庫を有していません。
DigiKeyからの情報はもちろん参考数値にしか過ぎませんが、参考数値にしろ、そこに素子のスペックや製品価格が提示されている以上、しっかりとアナリストは分析をしなければなりません。IRが開示しない情報を常識的に演繹し、オンラインショップ(小売り)の情報から市場環境や状況を推察するのもアナリストの仕事のうちです。
SiC市場は、意味のある在庫を有しているSTマイクロを含めた5社ですが、IGBTとの抱き合わせができるのはSTとインフィニオンで、彼らには総合力があります。Wolfspeedとロームはウェハからの一貫生産の強みがあります。
わたしは、現在進行中のロームと東芝のディスクリート部門との協業がさらに進むことを期待しています。日の丸半導体復活のためにもそれを願っています。
SiCについては、各種の市場調査でも上位5社が9割程度を占める寡占市場であることが確認できます。
低迷するSiC関連の株価
SiC関連は、ロームに限らず、Wolfspeed株も2021年の100ドル越えから現在は6ドルと10分の1以下になるなど極度の不振が続いています。STマイクロも23年の50ドルから20ドル程度に半値以下になっています。onsemiも半値になっています。EVや産機市場の低迷や競合の激化や各社の積極的な設備投資が嫌気されています。在庫も多すぎるのでしばらく低迷期は続くでしょう。
ですが、長期的な展望では自動運転市場やロボット市場(サーボモータ)とのSiCとの相性はよいため、需要は回復していくとみています。ロームについては垂直統合モデルであり限界利益率は高位に維持されています。稼働が戻れば利益も戻る展開です。現状の各社の株価は低位であり、投資に値するとみています。
リスクと期待
リスクの一つ目は3000億円も東芝の優先株等に拠出したのに、彼らとの協業が不透明であることです。投資の費用対効果が見えません。投資家にとってはフラストレーションがたまる結果です。ただ、優先株の利回りがある時期からは非常に高位に設定されており、それを避けるために東芝も事業統合へ向けての話を具体化せざるを得ないとわたしは期待しています。
リスクの二つ目は中国のコンペティターも含めてSiC市場における競争の激化が懸念されます。短期的には在庫の多さがネックです。そこは、高い価格弾力性で普及率の上昇で数量効果が競争激化要因を打ち消すはずです。いま問題なのは固定費の大きさで、限界利益率は高いと推定しています。
ロームの強みでもあり、弱みでもあるのが、垂直統合モデルです。ウェハーやフォトマスクを内作していますし、後工程の機械も自社設計が基本です。結果として、高い限界利益率を誇り、稼働さえ戻れば収益は急回復する体質です。一方で、内作は固定費率を高めてしまうため、資産効率は必ずしも高くなく、高い固定費率は業績のブレを大きくします。今後は、ファンドリ―への委託、あるいは引き受けをしっかりとして現在の低稼働を早急に引き上げるようにしてもらいたいと願っています。
自動車市場の緩やかな回復と産機市場の在庫調整の終了が来期にには見えてきたので、株価も少し落ち着いてきました。足元、SiC関連は人気が離散しており、ローム株もPBRが0.6倍と低位です。配当利回り3%超えであり、割引配当モデルでも割安と判断できます。4年後には営業利益率が2割を超えるとみておりますが、グロースドライバは前述のSiCと戦略TOP10の製品群です。4年すれば減価償却費は大きく下がります。国家補助金(減価償却不要)が効いてくるからです。もともとの限界利益率の高さが効くこと、現状、極端に低い5割の稼働率が7割まで上がる見通しを持っていること、さらに、東新体制で効率化のための工場再編や固定費の圧縮が見込まれること、最後に、東芝との協業の形が徐々に見えてきますから、先行きの不透明感が薄れることなど、株価の支援材料は長期では満載なのです。在庫の多さなど短期ではリスクが勝るものの、長期では強気の見通しを捨てる必要はないと考えています。
自動運転やロボットの普及は人々を単純作業から解放してくれるでしょう。それを縁の下で支えるのがロームのパワー半導体です。人々の生産性の向上が年収や余暇時間の増加につながり、より豊かな暮らしにつながることを願っています。SiCの普及は増大する電力消費へのひとつの対応策です。また、日の丸半導体の真の復活は、わたしたち日本国民の願いでもあります。投資を通じて、企業を応援し、こうした願いを実現していくことにより、豊かな社会を共に目指していければ幸いです。
長くなってしまいました。最後までお付き合いいただきありがとうございました。
(山本 潤)
この記事は情報提供を目的として、なかのアセットマネジメント株式会社によって作成された資料であり、金融商品取引法に基づく開示資料ではありません。投資信託は値動きのある有価証券等に投資しますので基準価額は変動します。その結果、購入時の価額を下回ることもあります。また、投資信託は銘柄ごとに設定された信託報酬等の費用がかかります。各投資信託のリスク、費用については投資信託説明書(交付目論見書)の内容を必ずご確認のうえ、ご自身でご判断ください。
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