見出し画像

楽観と悲観、強欲と恐怖


こちらのnoteは運用チームメンバーが“自由に”リレー形式で書いているものです。
=========================
 
ポートフォリオマネジャー兼シニアアナリストの佐藤です。みなさま、いつもありがとうございます。
2025年は”運用部だより”の発信を充実させ、皆様により良い情報をわかりやすくお届けするよう努めてまいります。どうぞよろしくお願いいたします。
 
昨年は「V字回復」というテーマを執筆させていただきました。このエッセンスは、「利益」と「期待」による掛け算の効果です。そして、この掛け算を達成するため、絶対的に必要と考える「経営者の覚悟」と「組織カルチャーの強靭さ」の重要性を説きました。
 
「V字回復」の勘所(前編)|なかのアセットマネジメント株式会社
「V字回復」の勘所(後編)|なかのアセットマネジメント株式会社
 
中でも重要だと思うのが、株式市場(以下、「マーケットさん」と表記します)の「期待」の変化です。では、何に対する「期待」かというと、それは企業の「長期的な利益成長」に他なりません。
つまり、マーケットさんは「この企業は(長期的に)利益成長しないよなぁ」と思っていたところ「やっぱり利益成長しそうだ!」と、考え方が「変化」した時こそ、株価が最も上昇するタイミングと考えています。

私から見てマーケットさんは、とっても気分屋でしかも疑り深い。悪く言うと、猜疑心の塊のように感じます。マーケットさんに企業の長期的な利益成長を期待してもらうには、過去の実績、経営陣への信頼、戦略の合理性や市場の成長性など、複数の要素が合致することが必要です。当然、実績を確立するには時間がかかります。
だからこそ、それまでの間にアナリストがリサーチすることは潜在的に大きな付加価値を秘めていると考えています。(この点に関しては、今回のテーマと少し離れてしまうため、また次回以降のテーマとさせていただきます)
 
さて、前置きが長くなりましたが、今回のタイトルは「楽観と悲観、強欲と恐怖」です。これまでの流れで、誰のことを言っているのか、もうお分かりですね。
そう、マーケットさんです。今回は気分屋で疑り深いマーケットさんについて、「楽観と悲観、強欲と恐怖」の切り口から考察していきたいと思います。
 
マーケットさんの正体は、あらゆる市場参加者の集合体です。市場には、私たちのような長期投資家だけでなく、ヘッジファンドやデイトレーダーと呼ばれる人達などが、広くあまねく存在しています。市場参加者は実に多様ですが、共通していることは、機械的な売買の設計を含む最終的な意思決定者は「人間」であり、「人間」である以上、「欲」があるということです。
「欲」は人が生きるために必要不可欠ですが、暴走すると「楽観/強欲」や「悲観/恐怖」という形であらわれ、バブルや暴落を引き起こす原動力となります。
 
まずは「楽観」から見ていきましょう。
少し話が変わりますが、例えば、あなたが会社員であると仮定しましょう。あなたは、大変な仕事だけど一生懸命まじめに働いている一方、隣の同僚はインターネットサーフィンばかりしていて、ほとんど仕事していません。しかし、毎月の給料は同僚と全く同じ額しか払われません。このような状況をご自分の立場で考えると非常に腹立しいと感じると思います。
何が言いたいかというと、人間は相対的な状況から感情が沸き起こることが多く、特に周りの人がいい思いをしているのに、自分だけ苦しい思いをしているのは、とても辛いのではないでしょうか。
マーケットさんの話に戻ると、例えば、株式を保有していない状況で株価がどんどん上がっているのを見ると、自分だけが儲けそこない、取り残されたような感覚になります。その時、理性では株価が割高な水準であると判断していたとしても、そんなことはお構いなしに株価がどんどんと上昇すると、その流れに乗っていない自分に対して焦りを感じ、「取り残されまい」とする感情と相まって、ついには「買い」に動いてしまいます。
往々にして、こうした流れは予想以上の時間軸を伴うものが通例で、「今はバブルだから割高だ」と判断している多くの人も、毎日、毎月のように上昇していく価格とそれによって儲けている周りの人を見て、一人、また一人と「買い」の勢力にまわってしまいます。
すると立場が逆転し、この上昇気流は「これまでになかった特別なものだ」と思うようになり、まだこの流れに参加していない人たちを「出遅れた人たち」と見做すようになります。こうして儲けそこねまいとする「強欲」がスパイラルとなり、バブルを形成します。
 
次に「悲観」を見ていきましょう。
上昇気流に乗っている価格は、いつしか誰かが「はだかの王様」が服を着ていないことを指さす子供のように「この価格は割高だ」と確信犯的に叫びます。強欲になっているマーケットさんは、そう簡単に目を覚ますことはありませんが、ふとした瞬間に我に返ります。そこがバブルの頂点です。(金融政策の変更、企業の破綻やパンデミックなどの外部要因がトリガーになることもあります)
まるでジェットコースターの軌跡のように、上昇する時は陶酔感を伴って徐々に高まっていきますが、一旦我に返って下の方を見ると、その高さから感情は途端に「恐怖」へと変わり、「我先に」と売りが売りを呼んで急落していく性質を持ちます。(弊社運用副部長居林のnote「晴れ、ときどき台風」にも通じる部分があります)
リーマンショックやコロナショックの時なども典型的な値動きを辿りましたが、マーケットさんは、急落していく価格と膨らんでいく損失を前に、冷静な思考能力が奪われ、パニックに陥った結果、とうとう「いくらになってでもいいから、この苦しみから解放されたい」と非合理的なまでの安値で売却してしまいます。
 
長期投資家の視点では、このように狼狽し、恐怖におびえているマーケットさんから、安い価格でいい企業の株式を買わせていただくのが非常に重要となります。2024年の8月に株価が急落した場面がありましたが、弊社代表の中野や運用部長の山本はホームページのリリースで何度も冷静になることを呼びかけたことに加え、「なかの日本成長ファンド」では新規に4銘柄の組み入れを行いました。
 
投資家は、自身の「欲」をコントロールし、冷静さを保つ術を身につける必要があり、私たちもそのように努めています。欲を否定するのではなく、欲と向き合い、そのエネルギーを正しい方向に向けることが肝要であると考えています。
 
最後となりますが、先日ある大物長期投資家のお話を聞く機会に恵まれました。その時の話で一番印象に残っているのは、「ポートフォリオの中身は、眉をひそめる様な『ゲテモノ』ばかり」という言葉です。
冒頭の話に戻りますが、これはマーケットさんが「この企業は(長期的に)利益成長しないよなぁ」と悲観している企業の株式を保有するということであり、換言すれば「他者が見えていない未来が見えている」ということです。仮に見通しが外れれば、周りからは「ほら、やっぱり」と冷笑されることは必至であり、失敗した時のことを考えると「既に」優良企業と思われている株式を保有したい誘惑にかられます。
しかし私たちは、徹底的なリサーチと欲に打ち克つ「勇気」をもって構築したポートフォリオにこそ魂が宿り、輝きを放つと信じています。易きに流されず、基準高く長期投資を貫いてまいります。
 
ポートフォリオマネジャー 兼 シニアアナリスト 佐藤 栄二
 
 
この記事は情報提供を目的として、なかのアセットマネジメント株式会社によって作成された資料であり、金融商品取引法に基づく開示資料ではありません。
投資信託は値動きのある有価証券等に投資しますので基準価額は変動します。その結果、購入時の価額を下回ることもあります。
また、投資信託は銘柄ごとに設定された信託報酬等の費用がかかります。各投資信託のリスク、費用については投資信託説明書(交付目論見書)の内容を必ずご確認のうえ、ご自身でご判断ください。
商号:なかのアセットマネジメント株式会社(設定・運用を行います)
金融商品取引業者:関東財務局長(金商)第3406号
加入協会:一般社団法人投資信託協会