「永遠の一瞬・・・忘れられない一杯のウイスキー!!!」
ヨーロッパを放浪していた26歳の俺は、スペイン・バルセロナでクリスマスを過ごしていた。
鉄道で移動中、フランスとの国境近くの名前も憶えていない小さな街で一緒になった美容師の男性が旅の相棒となった。2ヵ月経った俺の髪は伸びていたので、バルセロナのホテルで彼にカットしてもらった。
カットしてもらっている間、好きな映画の話になった。偶然にも2人共、当時一番好きな映画がアカデミー賞を受賞した「カサブランカ」だった。
2週間もバルセロナで過ごしていた俺たちは、必然のようにカサブランカを目指して旅を再開した。
スペイン・アルヘシラスからジブラルタル海峡をフェリーで渡り、モロッコ・タンジェに着いた。
大晦日、俺たちは街中に酒を求めて一日中彷徨い歩いたが、ここはイスラム圏、BARも酒屋もない。
それでも映画「カサブランカ」のリックスバーのようなBARがあるに違いないと信じていた。俺たち2人は、バスで南下してタンジェからカサブランカを目指した。
バスを降りて街の中心まで歩いていくと、夜に一際輝く看板があった。
1月1日元旦に見つけたハイアットリージェンシーホテルの「バーカサブランカ」の看板だった。俺たちは、「やっぱ、あったよーーー!俺たちが探してたBARが見つかったね!!!」って、飛び上がって喜んでハイタッチした。
BARに入ると壁には「ボギー」ことハンフリーボガートとイングリットバーグマンの「カサブランカ」のセピア色した写真が飾ってあった。
「コレ、コレだよ、俺たちが探し求めてたBARは!!!」
っていうか、想像を超えていいよー。ヤバイよ、このBAR。
2人して含み笑い。テンションマックス!
ドキドキしながら、カッコつけて言ってみた。
「オールドパー、オンザロック、2フィンガー、プリーズ!」
ダブルでウイスキーを注文すると、サッとグラスがカウンターに出てきただけで大興奮!
「適当に話したら、通じたよぉー!」
ほろ酔い気分で、俺はピアノマンに近づいた。
「“Play it, Sam.(あれを弾いて、サム!)」
ボスのボギーが黒人のピアノ弾きに言う映画のセリフを言ってみた。
すると、何も言わず白人のピアンマンが映画の主題歌、「As Time Goes By(時の過ぎゆくままに)」を弾き始めた。
涙した映画の名シーンが脳裏に浮かんだ・・・。
俺たちは2杯目のウイスキー、まろやかな味の「ディンプル」を注文していた。
あれから、33年の月日が流れた。
まだ、あの時の「ウイスキーオンザロック」の味を超えるウイスキーに出合っていない。
俺たち2人の忘れられない「永遠の一瞬」だ。