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『IPPON!』脱稿まで打ち合わせあと何本!?(11)|原作付きマンガ一緒につくろう計画

前回までの展開はこちらから


(今回の範囲の原作)

近藤「高校で燃え尽きちゃったし、医者になる勉強は大変そうだし、大学で陸上やるつもり、なかったんですけどねえ。あれ、大事なきっかけだったのになあ」
野口「わーかったって、ごめん、ごめん」
野口、近藤の天パをぽむぽむする。
野口「行くぞ、インハイ4位!」
野口、急にダッシュする。
近藤、「やれやれ」のジェスチャーのあとで、後を追う。圧倒的なスプリント力を発揮する。
野口、あっさり抜かれる。
野口「(小さく)あっ」

*第0話の原作全体をおさらいしたい方は『(1)第0本(プロローグ)原作テキスト』で再読できます。

◆原作担当:朽木 誠一郎
◆ネーム/解説:中村珍

※この企画は、2018年までに原作者・朽木誠一郎さんが執筆した原作テキストを頂いて、作画担当・中村が、2019〜2020年にかけて、制作と並行しながら解説しています。


通しネーム(掲載済みの分)

初見ネーム-001

初見ネーム-002

初見ネーム-003

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初見ネーム-021

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初見ネーム-023

初見ネーム-024

初見ネーム-025

初見ネーム-026


今回追加されたネーム


初見ネーム28

初見ネーム29

初見ネーム30

初見ネーム31

初見ネーム32

初見ネーム33A



ここからネーム解説

 前回、自分が新入生だった前年の“競り”を回想し、野口くんに胸中を明かした近藤くん。今回二人はグラウンドへ向かいます。

 入口から先はセリフが少ないですが情景の動的な描写が(ページ数が許すなら)あるに越したことはないシーンです。

近藤「高校で燃え尽きちゃったし、医者になる勉強は大変そうだし、大学で陸上やるつもり、なかったんですけどねえ。あれ、大事なきっかけだったのになあ」
野口「わーかったって、ごめん、ごめん」
野口、近藤の天パをぽむぽむする。

初見ネーム28

 近藤くんがここで急に、しゃがみの姿勢になりました。
 ネームというものがそもそも完成原稿に対して「(仮)」の設計図っていう存在ですが、その中でも更に、ちょっとまだ「(仮)」という感じで、1コマ目の近藤くんをしゃがませています。
 前回の範囲を振り返ると回想シーンは挟まっているものの、ただ立っている絵と近藤くんの語りが続く印象。
 何かもうちょっと変化が欲しい…という意図でしゃがみ絵にポーズ変化の役目も負わせつつ、それ以上に期待した効果は、『立ったまま(=いつでも動き出せる状態)の近藤くん』よりは、『しゃがむ(=立っている姿勢よりはここにとどまる意識が見える)近藤くん』のほうが、しみじみ言ってる感じが出たりするだろうか…?と。実験的な気持ちもあって、しゃがみ絵をあててみました。
 それから、その後、野口くんから頭を触られるコマが挟まるので、二人の身長差がそれほどあるのかも分からないし、近藤くんがしゃがんでいるほうが、“手が届くからつい触った”という感じが出るのかな、という気もしたり…。
 しかし野口くんと近藤くんの関係が日常的に頭をぽんぽんする感じだとしたら、近藤くんが物理的に低い位置にいなくても触ることはあるんでしょうから、原作者さんに二人の関係性(髪をぽんぽんやるような構い方が普段から多いのか)を確認してから確定かなと思っています。


野口「行くぞ、インハイ4位!」
野口、急にダッシュする。

初見ネーム29

 ここも原作者さんに『この時の野口くんの気持ち』を聞くまで確定できないところですが、野口くんをキラキラした笑顔で描いたのは、近藤くんの言葉を聞いて嬉しかったんじゃないかな…と想定したからです。
 野口くんは“競り”のことをパワハラとして認識している立場ではあるものの、その“競り”が新入部員獲得・入部希望者とマッチングできる数少ないルート。問題意識はあっても、部活を過疎化させてまで問題意識を表出できないというのは大きな組織の中に居る学生としてはある種の当たり前かなと思います。それが良いか悪いかとはまた別に、そうなってしまうことは多くの人にあるでしょうから…。
 しかもきっと陸上競技が大好き。部活の存続も重視していれば尚更だと思います。
 そうなると、”競り”がパワハラだろうと新入部員を獲得できたこと自体はとても素直に嬉しいんじゃないかと思います。
 近藤くんが入ってくれただけでも嬉しい。…そう感じていたところに近藤くんからのこのアンサー。
———でもね、ぼくは、うれしかったですよ
———あれ、大事なきっかけだったのになあ
 野口くんが近藤くんの本音を知ったのはこれが初めてだとしたら、近藤くんが大学で陸上をやるつもりがなかったのをそもそも知らなかった可能性もあります。と、言うことは。野口くんはたった今、近藤くんがまだ現役選手で居てくれるのは自分があの時誘ったからだというのを、まさにたった今!今知ったばかり!!!…の可能性があるわけです。
 インターハイ4位です。実績としても魅力的な数字ですが、それ以上に野口くんとしては全国4位まで登る実力者がもたらす熱狂を知っているはず。全国区選手・近藤くんがあっさり辞めてしまうかもしれなかった陸上。もしかしたら自分の目の前から失われていたかもしれない熱狂。近藤くんと陸上競技を繋ぎ止めたことでまだたくさん目指せるものがある。…そんなの超嬉しいでしょ!?!?!?!?
 でもその喜びをストレートに出すタイミングって今かな?と思うと、今は“競り”に行く途中だし、なんかもっと別のタイミングがある気がする。
 …というわけで、近藤くんには見えない・見せないアングルで、野口くんの笑顔を読者さんにだけ見せる形でこのページは構成しました。

 が、しかし…。

 とは言っても“競り”をパワハラだと認識しているわけですから、その認識の深さ・問題意識の深刻度合いによってはここまで明るい笑顔になれない可能性ももちろんまだ残っているので、細かい表情については原作者さんに追って確認は取りつつ、とりあえずこの状態でシーンの割り振りだけは進めてしまいます。
 ネームの初期段階は、コマ割ってナンボだと思うので…。


近藤、「やれやれ」のジェスチャーのあとで、

 原作では「やれやれ」のジェスチャー(=動き)という指示が入っていますが、やれやれ、と(とりあえず)書いてしまいました。
 間違いなく「やれやれ」に見えれば問題ありませんが、他の感情に見えてしまう(たとえば、“競り”をパワハラだと言っていることに面倒を感じている…みたいな、あらぬ誤解を受けてしまう)といけないので…とりあえず。
 肩を竦めて両手の平を上に上げるポーズ(アメリカ映画とかの「やれやれ」のシーンでよくあるやつ)でも成立すると思いますが、既に野口くんが走り去った後(隣に誰も居なくて一人)の近藤くんが誰かに見られているかもしれない環境で映画みたいなポーズをするのかな?と思うと彼の性格を原作者さんに確認する必要があるな…と思い、とりあえず頭をかく程度にしてあります。

初見ネーム30

 そして走り出す近藤くん。
 陸上競技は競技によって履く靴が違うはずなので、こういう状態(公式試合ではない。練習中でもない。学内を歩いているだけの状態。しかし野口くんは部室のような場所でトレーニングをしていたような時間帯)の時にどんな靴を履いているものなのかは後ほど要確認。
 靴の種類(デザイン)によっては走り出しのポーズを読者さんに認識してもらいやすい部分が変わる場合もあるので、特殊なデザインだった場合にはカメラアングルが変わることもあります。


後を追う。

初見ネーム31

 正攻法で、遠近感に頼る方法で後を追っている感じを出すことに。
 近藤くんの走っているフォームは要確認。(野口くんに関しても、投擲の選手は走るフォームを気にするものなのか確認が必要。)
 構図ですが『野口くんが走り出すシーン』では野口くん手前・近藤くん奥/二人とも画面のこっち(手前のほう。読者さんと目が合うほう。顔が見える)向きのアングルは使ってしまいましたし、この後出てくる『野口くんが近藤くんに抜かれるシーン』でも二人とも画面のこっちを向いているので、ここではどっちみち消去法でも背中を向けたアングルを選ぶしかありませんが、読者さんの目線というのは手前(読者さんの物理的な目の前)から奥(漫画の紙に奥行きがあるんだとしたら突き抜けた奥のほう)に向かっていくはずなので、読者さんの目線・追われる野口くん・追う近藤くんのベクトルが揃ったほうがシーンの動きに読者さんの気持ちが乗りやすいかなと思ってこの構図にしてあります。
 野口くんが手前に来て、近藤くんが奥に居て、こっちに向かってくる構図にすると、それは『近藤くんが追っている』のではなく、『野口くんが近藤くんの前を走っている』要素のほうが強く出てしまいますし。


圧倒的なスプリント力を発揮する。

 このページは厳密に言うと、『圧倒的なスプリント力を発揮』しているところを表現できているものではありません。
 競技経験者なら「こ、このフォームはあの有名な****選手と同じ!この距離の開きはどう見ても*秒分の開き!!!」みたいなのがあるかも知れませんが、読み手は(読み手だけじゃなく私もですが)陸上のプロではない人も居るので、『スプリント力』を素人目に伝わるように漫画で示すためには、速さを伝える結果情報(=何かを抜くとか何かに勝つとか)があったほうが分かりやすいです。同様に『圧倒』も相手があって初めて伝わるもの。
 その意味ではこのページ1枚で示せるものは、『圧倒的なスプリント力を発揮』ではなく『見る限りでは速そうに見える印象』程度かなと思います。

初見ネーム32

 前後のページと組み合わせた一連の流れあってこそ『圧倒的なスプリント力を発揮する』シーンが仕上がります。


野口、あっさり抜かれる。
野口「(小さく)あっ」

 ここでやっと、近藤くんのスプリント力を示す目的が果たされるページです。

初見ネーム33A

 静かに抜き去る演出にしてみましたが、もっと元気のいいテンションのシーンにするなら、何か書き文字や動きの線が入ってもいいかもしれません。

初見ネーム33B

 どっちがいいかは今後のストーリーのテンションと好みかなと思いますが、文字が入ると入る文字の印象によって速度が決定づけられるというメリットがあります。その代わり、画面が均等に埋まってしまって遠近感がパッと見では生かせないというデメリットを背負うことになります。

初見ネーム33

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