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僕が店を持ちたい理由



2022年に入り、正月休み明けから程なくして
平日の昼間に妻からLINEが届いた。

LINEは写真付きで
「Facebookで見かけたラーメンが美味しそうだ」
という内容だった。

僕は早速ネットで検索をかけ、
そのラーメンが北仙台駅近くの横丁にできた
新しいラーメン屋のものであることが分かった。

丁度その日は仕事もなく、
一日専業主夫デーだった僕は
昼間のうちに夕飯の支度を済ませてしまい
妻の仕事終わりに合わせ
久しぶりに二人で外食しようと提案した。

名取から北仙台は、JRで仙台まで行って乗り換えるか
長町で地下鉄に乗り換えるかの2択で、
どちらも降り場が近く意外と公共の交通機関で移動しやすい場所だった。

仮に仙台駅から昔ながらの横丁へ向かうとなると
だいぶ歩かなくてはならないが
北仙台は大体が駅周辺に密集しているので、
横丁の目的地まで数分も掛からないという好立地な街だった。


とは言え、妻は究極の方向音痴で
僕らは長町駅で待ち合わせすることになったのだが。



北仙台に着くなり駅前のコインパーキングに車を止め
横丁へと足を踏み入れる。
「仙台浅草」と通りの名が書かれたアーチをくぐり
奥へと進んだ。

時刻はまだ17:00時を回ったばかりで
どのお店も開店準備の最中といった感じだった。

お目当てのラーメン屋も案の定18:00オープンで
こんな機会も無いしせっかくなので飛び込みで
開いている居酒屋に入ってみることにした。

ひと通り横丁の店を見て回り、
営業中のお店を2、3軒確認したところで
妻とどの店にするかを話し合った。

僕らはお目当ての中華を考慮して
「南三陸の魚をメインに扱っている小さな居酒屋」
で、意見が一致した。

しかし、暖簾をくぐるなり
残念ながら予約でいっぱいとの事で
次に韓国料理の店と、もう一軒「老舗な雰囲気の小さな居酒屋」のどちらにするか再び悩むこととなった。

やはり後に待つ中華を考えると、和食が良い。

となると韓国料理は無しで
残った「老舗な雰囲気の居酒屋」となった。


その店は磨り硝子の四枚引き戸の入り口で、
横丁の中でも古くからやっているんだろう店構えだった。

しかも磨り硝子の扉からは当然ながら中が全く把握できず
初見で入るにはだいぶハードルが高い。

しかし、店の名が「居酒屋 浅草」という
この横丁の名を掲げていることに気がついた。

その字体や看板の雰囲気からも和食な風合いが漂っている。

これはもしや、
「浅草に来て浅草に入らずして浅草を語れず」的な
浅草の登竜門、超老舗なのかも知れないと勘繰った。

僕らは思い切って入ってみることにした。

恐る恐る中を確かめるように
引き戸を少しだけガラガラと開けて
中を覗くなり、僕はすぐに勘が外れたことを悟った。

「やってしまった...!」心の中で叫んだ。

と、同時に「あ、失礼しましたぁ...」と扉を再び閉めて
「やってしまった、これはハズレだ」と、外で待つ妻の背中を押した。

妻は何のこっちゃと笑いながら「どうしたの?どういうこと?」と、
理解できずにいたが、とにかく一旦店から離れなければと歩き出した。


が、時すでに遅し。


その店の常連らしきおじさんが直ぐに戸を開け
僕らを呼び止めた。

「なんだい、お兄ちゃん、やってるよ!どこ行くの?」

しまった...と、僕は振り返り苦笑いで
「いやぁ〜、いっぱいかなぁと思いまして...」と言い訳するも

「なになに、全然入れるよ!ほら。入って入って」
と、半ば強引に引き留められ
入店せざるを得ない状況となってしまった。

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