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想定外の反響 ~百貨店出店での経験から学んだこと~


予想を超えた10日間

余裕に満ちた準備

「まさか、こんなことになるとは―」

イベント期間中に提供したパフェ


百貨店での初出店が決まった時、私たちの気持ちは正直、余裕に満ちていました。事前にバイヤーさんとは、1日の提供可能数について丁寧に話し合いを重ねました。パフェ120杯、スムージー30杯、クッキー缶30個。百貨店での売り切れは本来あってはならないことですが、私たちの事情を理解していただき、この数字で了承をいただいていました。

「他の出店者さんすごいな」「私たちみたいなマイナーな店が入っていいのかな」。スタッフと冗談を言い合いながら、のんびりと準備を進めていました。バレンタインイベントという大きな舞台。それなのに、他の有名店に客足を取られて商品が売れ残るのではないか。そんな心配すら、笑い話のタネにしていたのです。

衝撃の開店日

その余裕が音を立てて崩れ去ったのは、オープン前のことでした。荷物を一つ車に忘れていることに気づき、取りに戻った私。「まあ、開店直後は他の店に流れるだろうし、大丈夫だろう」。そう思いながら、オープン30分前に車へ向かいました。ところが梅田の地下で迷子になってしまい、結局、オープン直後の人だかりに紛れるように店に戻ることになったのです。

期間中、完売するまでずっと列。。


その時見た光景は、私たちの想定を完全に超えるものでした。なんと100人を超える列が、私たちのブースに向かっていたのです。次から次へと出される注文伝票。列の数を見た時点で、用意した1日分の商品が足りないことは明らかでした。後方からは「どれくらい待つねん!」という怒号も。私たちの準備不足が、お客様の貴重な時間を奪っていることを、痛感させられました。

お客様との心温まる出会い

ガラス越しの実演販売は、まるで水族館の展示のようでした。お客様の視線は、時に厳しく突き刺さります。そんな中、普段から店に来てくださるお客様の姿を見かけた時は、申し訳なさと感謝で胸が熱くなりました。

「一番無名だから売れ残りそう」と心配していたはずのお客様も、長時間待っていただくことになったのに、「それくらいは覚悟してたから大丈夫ですよ」と励ましの言葉をかけてくださいました。中には私たちのために栄養ドリンクを買ってきてくださるお客様まで現れました。

初日は開店からわずか60分で完売。しかし最後のお客様への提供は、オープンから3時間後の13時過ぎ。3時間待ちという、とても申し訳ない事態を引き起こしてしまいました。

お客様のストーリー

経験から得た気づき

奮闘の日々

「明日以降、どうされますか?改善してほしい」。百貨店からの切実な問いかけに、私たちは準備開始時間を朝6時まで前倒すことを決めました。それでも状況は劇的には変わりません。2日目以降も60分での完売は続き、12時までの完売が10日間、毎日続きました。3時間待ちは解消されたものの、多くのお客様をお待たせする状況は変わらなかったのです。

連日の完売

数字の向こう側

結果として売上は200万円を超え、就労支援事業所として、大きな自信にもなりました。「もっと商品を用意できていれば、売上は倍以上になっただろう」。そんな思いも確かにありました。

しかし、それは私たちの理念とは相反するものでした。商品数を増やすことは、必然的にクオリティの低下につながります。利用者の方々への負担も大きくなる。その選択だけは、どうしても避けたかったのです。

このイベントから、私たちは多くのことを学びました。商品の価値を認めていただけたという自信。同時に、お客様の期待に応えきれない現実。そして何より、私たちが大切にしたい「品質」と「働きやすさ」という価値観。

サブレBOXはOpen後10分で完売。

新たな決断

見えてきた課題

「もっとたくさんの方に商品を届けたい」。その想いは強くありました。けれど同時に、いくつかの重要な課題も見えてきました。

まず、イベント特有の「集中した需要」への対応です。普段の店舗営業とは全く異なる短時間での大量生産・販売は、品質の維持を難しくします。(10日間連続で2時間で20万超えの売上は凄すぎるけど、やはり無理がありました)また、利用者の方々の「働きやすさ」という私たちの大切な理念との両立も課題でした。突発的な長時間労働や急な予定変更は、心身への負担が大きすぎます。

そして何より、お客様との約束。「待ち時間」「品切れ」という形で、期待に沿えない状況を作ってしまうことは、私たちの理念に反すると考えました。

私たちが選んだ道

だからこそ、次のような判断に至りました。

「イベント出店はせず、店舗での営業に集中する」
「できる範囲で、最高の品質を提供する」
「一人一人のお客様との出会いを大切にする」

本当の成長

これは後退ではなく、私たちの本質を見つめ直す機会となりました。想定外の大きな反響は、確かに嬉しいものでした。しかし、その経験を通じて気づいたのは、私たちが本当に大切にしたいものでした。

限られた商品数であっても、その一つ一つに最高の品質と想いを込める。利用者の方々が無理なく働ける環境を守る。お客様には必ず満足していただける商品を提供する。派手な売上や華々しい成功ではなく、着実な一歩一歩を積み重ねていく。この「想定外の反響」は、私たちにそんな大切な気づきをもたらしてくれたのです。


これからも、この信念を守り続けていきたいと思います。それこそが、私たちTSUNAGUの進むべき道なのですから。

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