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『モダンボーイズ』と菊谷栄さん

菊谷栄さん。
タカラヅカの大御所演出家、高木史朗氏の著作『レビューの王様』でそのお名前を見知って以来、ずっと心に引っかかっている人だった。

浅草レビューの人気作家で、しかもタカラヅカのファンでもあったらしい。
だが、1937年に出征し、36歳の若さにて中国徐州にて戦死した、とのこと。
高木氏は、こんなふうに書いている(231頁)。

戦後菊田一夫は大いに活躍した。その菊田一夫の発展ぶりを見るにつけ、私はよく、もし菊谷栄があのまま活躍していたら、日本のショウビジネスの世界も違った発展をとげたことだろうと惜しく思ったものである。

新国立劇場で上演中の『モダンボーイズ』(作・横内謙介)の中で、その菊谷栄さんが息づいていた。
人当たりが良く飄々としていて、でも、執拗な軍部の検閲にも決して心折れることなく公演を続けていく人。
そして、その脳内には常に新しい創作のアイデアが溢れていた。
来るべきミュージカル時代に向けての夢も胸に抱いていた。

「我々にとっては『戦わないこと』が戦いだ」
この言葉は、心のノートにメモっておきたいと思った。

戦争が無惨にもその芽を摘み取ってしまった才能にこうして光が当たり、まるで当人が蘇ったようであったことがなんだかとても嬉しかった。これも舞台の魔術だ。
演じる山崎樹範さんはプログラムの中で、
「自分はこれまで得意分野でだけライトな芝居をして逃げてきた。でも、そろそろちゃんと芝居と向き合わないと」と述べておられる。
きっとこの役を通して、ちゃんと向き合えたんじゃなかろうか。そんなことも感じさせる素敵な菊谷栄だった。

と、菊谷栄さんのことばかり書いてしまったけれど、『モダンボーイズ』は戦争の足音が忍び寄る昭和10年前後、レビューの力を信じ、劇場の灯りを点し続けるべく奮闘する人々の物語だ。主演の加藤シゲアキさん。
これがタカラヅカ・レビューにもつながっていくのかと思うと胸が熱くならずにはいられない。
客席は出演者のファンが多くを占めていたようだったけど、宝塚やミュージカルのファンの人にもぜひお勧めしたい舞台だと思う。

演出は一色隆司さん、舞台装置は松井るみさん。
レトロなセットの中で、映像を巧みに使って複雑な時代背景を端的に説明していく導入は、とてもわかりやすかった。
(『アウグストゥス』もこんな感じで始めたらよかったのに、と少し思った(笑)

この作品、タカラヅカでもやってほしいなあ。
主人公の矢萩奏と若月夢子は、歌って踊れるトップコンビでお願いしたい。
タカラヅカならきっと、レビューシーンも適度に豪華に再現してくれそうだ。

・・・と、これはヅカオタの戯言でした。失礼しました〜

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中本千晶
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