俳優座『カミノヒダリテ』、タイロン君を愛おしく感じてしまった話
評判を聞いて昨日観に行ってきました、俳優座『カミノヒダリテ』。
ロバート・アスキンスの戯曲を、田中壮太郎さんが翻訳・演出した作品。
チケットは完売で、本日の千秋楽の当日券も出るか出ないか…らしい。やはりチケット取りも人生も、即断即決が吉です(笑)
物語の舞台はテキサス州、サイプレスの教会の地下室。
気弱なジェイソン(森山智寛)はパペットのタイロンだけがお友だちだ。気になるジェシカ(後藤佑里奈)からは、もちろん相手にもされない。母のマージェリー(福原まゆみ)は、夫に先立たれ必死で息子を育てているけれど、グレッグ牧師(渡辺聡)に言い寄られ、不良少年ティモシー(小泉将臣)とも何やら怪しい関係。
そんなややこしい環境のもとで、常に自分を押さえつけて生きているジェイソン君ですが、ある日、パペットのタイロンが暴走を始め、本音?を次々と暴露し始め…。
ジェイソン役の森山智寛さんの、タイロンの迫真のバトルが圧巻でした。
壮絶なお話の中での悪魔的存在であるタイロン君なのに、不思議と愛おしく思えてしまう。これは演出の狙いなのか、それとも演者の芸風の成せる技なのか?
凶暴で残酷なタイロン君なのに、「いいぞ!もっとやれ〜〜」という心の声が聞こえてしまうのは、「それが人間だから」なのか?
マージェリーは、敬虔さと女の色香の両極を持ち合わせている女性。とても面白いけれど難しい役どころ、福原さん大熱演でした。
俳優座5階稽古場にしつらえた舞台セットもユニークで、舞台の正方形の頂点が正面になっていました。対角線上にカーテンが設けられ、幕前芝居も折り込む方式。タイロンの大暴れで部屋を一気にめちゃくちゃにしていまうところは、わずか2分半の制限時間内に少人数の手作業でセットを変えているそうです。
私が観たのは終演後にバックステージイベントもあったおトクな回。うってかわってアットホームなカンパニーの雰囲気に癒されました。ティモシー役の小泉さんが素に戻ると爽やかな好男子。いっぽう森山さんはジェイソンそのままな雰囲気のユーモラスなメガネ男子でした。
森山さん、パペットを家に持ち帰り一緒にテレビ見たりなどして稽古したとのこと。最初は愛おしかったのが次第に憎たらしくなり、今や倦怠期に突入したらしい(笑)
パペットは衣装担当の方が作ったけれど、ジェシカ役の後藤さんだけは自分で作ったらあまりにも上手くできたのでそれを使っているとのこと。「登場人物がみんなバカ」のこの作品、グレッグ牧師役の渡辺さんは「ちゃんとバカに見えるかが課題」だとお話されてました。
俳優座としては異色の作品への挑戦で、「後援会の人たちが観て辞めちゃったらどうしよう」と心配だったとか。戯曲の面白さ、演出のきめ細やかさもさることながら、カンパニーの熱量と勢いが素敵な舞台だったように思います。