轟悠さん退団発表に思う(長い)
Yahoo!ニュースに執筆した記事のアクセス数が怒涛の勢いで伸び、私がこのコーナーで書き始めてから最高記録となったことにのけぞっている。
ちなみにこの記事、私が遠征帰りの新幹線で轟さん退団のニュースを知り動転しているときにYahoo!の担当者からご提案いただいて書いたものだ。さすがの慧眼と恐れ入る。
改めて轟さんの道のりを振り返ってみて一番驚いたのは「専科に異動してから20年」経っていた、ということ。
そして今日20日は、地下鉄サリン事件から26年だそうな。つまり私が轟さんと出会ってからも26年。思えば26年前の今日『雪之丞変化』『サジタリウス』で初めて轟さんを見て「あの人、誰?」と思ったのが、今に至るタカラヅカファン復活の始まりだった。
それからの雪組トップ時代が私にとってはファンとして一番楽しい時期だったのかもしれない。当時私はファン掲示板を運営していて、そこに集う仲間がいて、みんなで示し合わせて全員お着物でお茶会に行ったり、知り合いの店に相談して「勝手に公演ドリンク」を作ってもらったり、好き放題、悪行の限り?を尽くしてた。
…でも、それって、たったの6年間のことだったんだな。
専科に異動すると聞いたときは、競技種目が100メートルから突然マラソンに切り替えられたような気分だった。しかも、ゴールが永遠にこないかもしれないマラソン。
ファンサイトは終了し、仲間たちはそれぞれの道を歩み始めた。ネットの世界も掲示板からブログ、ミクシィ、そしてTwitterへと移り変わっていった。その後、私は縁あって仕事でタカラヅカ関連のことを書いたりするようになった。
そして轟さんは「専科で、春日野八千代さんの後継者を期待される轟さん」になっていったわけだけど、私にとってはいつまでも「元雪組トップの轟さん」のままだった気がする。だから、轟さんの専科時代は私にとってどこか「プラスアルファ」な感じがあった。でも、専科時代が20年なのだから、今やこちらの方が本当の轟さんだ。アップデートされていなかったのは私の方かもしれないと今更ながら反省した。
専科に行ってからの轟さん主演の舞台に対しては、いつもどこかしら申し訳ない感じが付きまとっていた。それを望んでいない人が必ずいることを感じてしまう舞台。限りある時間の中でトップスターを目指すタカラヅカのシステムの中では、ある作品で轟さんが主演をするということは、必ず別の誰かのチャンスを奪うということになってしまう。そうなった側のファンの思いも痛いほどわかる。Twitterで轟さんのことを呟くと、必ずといっていいくらいフォロワーが減るという事態。針のムシロのような感じは年々強くなってきていた。
私は、センターで輝く轟さんは雪組トップ時代に堪能し切ったからもう十分と思っていた。とやかく言われるぐらいなら大羽根もいらない。むしろ、「父親役や敵役などでトップスターとがっぷり四つに組むお芝居」などを切に望んでいた。
でも、専科の20年の間に轟さんの舞台に出会い、ファンになった人はそういうわけにはいかないだろう。あるいは、長く轟さんのファンをしてる人たちの中にも「脇にまわった轟さんは見たくない」という人もいただろう。そういう人たちにとっての轟さんはおそらく「専科」という組、しかも特別な組のトップスターだ。轟さんが主役をはらないなんてありえない、そんな思いのファンも少なからずいたと思う。
現在のタカラヅカにおいては組のトップスターこそが「頂点」だ。この頂点以外の別の「頂点」を作ることも、ひとたび頂点を極めた者が自ら坂を下りサポートに回ることも、強固に確立した現在のスターシステムの元ではどちらも難しいことなのかもしれない。
…記事でこう書いたのは、そんな意味のことだ。
難しい状況の中で、自分らしい舞台、自分らしい役を模索し続けた。轟さんにとっては、そんな20年間だったのかなと思う。
退団の報を聞いたときは衝撃を受けたけれど、気持ちを整理していくにつれて、自分でも驚くほどに肩の荷が降りるような心持ちになっていった。いつまで走り続ければいいかわからないマラソンを走っていたら、突然ゴールを示された。そんな感じがあるかもしれない。
退団会見の轟さんの表情はとても穏やかで、可愛らしくて、それを見て安堵し、さらにスッキリとした気分になることができた。
ただ、一つだけ困ったのは、今の仕事に関して「轟さんがタカラヅカで頑張っている限りは、私も頑張ろう」と、勝手に心の支えにしてきたことだった。
轟さんが退団するってことはこの支えがなくなるということ、つまり私もこの仕事から卒業か??と焦ったけど、その考えは遠征帰りの新幹線車中、5分ぐらいで打ち消すことができた。ついさっきまで私は梅田のドラマシティにおり、さいなラッチマンしてきたばかりじゃないか(笑)。私は今のタカラヅカが好きだし楽しいし、私にとって興味深く飽きない観察対象だ。そう感じられる限りは、この仕事を続けようと思う。
そんなわけなので、「生きてますか? ちゃんと息してますか?」と私のことを心配してくださる皆様へ。大丈夫、私は元気です。
※梅はあっという間に散り、気付けば桜の満開も近い。
花の命は短く、季節は移り変わる。